第7話 押し寄せる不安
ところ変わって、自分たちの部屋へ戻る最中のエレンたち。セリーナは先にリッチに連れられて戻っており、ファニーは遊びに行くためエレンたちと別れていた。
ガーデンの施設は非常に広大な敷地面積を有しており、部屋数も、ガーデン特別隊に所属するメンバーや施設に保護している者たちを含めても、未だ多くの空きが残っているほど。保護されている者たちは世界全域から来ているため、それだけ膨大な部屋数が必要だということだ。それ故に移動も大変だが、訓練を受けて魔力を増幅させている隊員には、あまり苦となっていないのである。
部屋へ戻る途中、ターボが必死にエレンへアピールし、それをシェリーが追い払い、リンドがターボを慰める…といった、いつもの光景。
そんな彼らの前方から、同じ特別隊員の男がすれ違った。そしてすれ違いざまに、エレンだけにこっそりと耳打ちして言った。
「あまりペンダントを表に出さない方がいいよ? いいターゲットになって、また狙われるから…」
「…え…?」
「僕はこれから任務なんだ。行ってきます」
その意味深長な言葉にエレンが不思議そうな顔をしているのをよそに、男は任務へ行くとだけ告げて去って行ってしまった。
「エレン? どうしたの?」
「あっ…なんでもないわ…行きましょう」
「…今、セラータになんか話しかけられてたみたいだけど、何言ってたの? アイツ」
「ひ、独り言じゃないかしら? 私もよく聞こえなかったから…」
「あ…そう。なーんかアイツも変な奴よねぇ…前から思ってたけどっていうか、いつもだけど」
「まさかセラータもエレンのことを……!!」
「無い無い」
「無いわね」
「そんなんわかんねーじゃん!」
「とりあえず落ち着こう、ターボ」
「リンドまでなんかオレに冷たくねぇ!?」
四人が歩いて行ったあと、彼らと反対の方向に向かっていた男・セラータは、口を緩め笑っていた。
しばらく話し込んだ後、リンドが自分の部屋に戻り、シェリーとエレンも戻ろうとしていた。ターボはもちろん、兄に連れ戻されている。
「それじゃあ、エレン。また明日ね」
「えぇ、今日はごめんね。お疲れさま」
「そんな謝らないでってば! エレンは悪くないわ。悪いのは、あの人攫いとあいつらに依頼した奴!…エレンは…悪くないわよ?」
「…うん。ありがとう、シェリー…それじゃあ、明日ね」
「うん。おやすみ…」
そう言ってゆっくり背を向け、エレンがまっすぐ歩いていくところを、見守るように見つめるシェリー。その表情は、いつも明るい彼女があまり見せない、不安と焦りとが入り混じったような表情だった。エレンが遠ざかるまで見送った後、シェリーも自分の部屋へ向かって行った。
部屋の前に着くと、エレンは自分の部屋に入らず、隣の部屋の扉を見つめた。何か迷うように、隣と自室の扉を交互に見てはうつむく。はたから見ればかなり怪しい動きに見える。何度かそんな行動を繰り返した後、諦めたかのように眉を下げ、高く結い上げていたポニーテールをほどいた。
そしてまた隣室の扉を見つめた後、自分の部屋へ入っていった。
彼女の部屋の扉が閉まると同時に、隣の住人も戻ってくる。先ほどセラヴィが見ていた、黒髪の青年。彼もまた、エレンの部屋が閉まったことを確認すると、同じように扉を見つめ、部屋へ戻っていった。
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