第5話 解決

「あぁ? なんだぁ??」

「この声…っ!」

「ぎゃあっ!」

「うわあぁ!!!」


 突然何人かの男が、悲鳴を上げて倒れていく。ふとそちらを見ると、美しい銀の髪が靡いていた。


「誰だお前!?」

「か弱い婦女子に対し多数の男が手荒な真似など…これは見逃せませんね」

「皆さんっ助けに来ました…っ!」

「「リッチさん!!…とセリーナ!」」

「…僕もいるよ」

「リンド!」

「それではリンド様、簡単に片づけてしまいましょうか」

「了解です…」

「いいぜ、やってやる……かかれぇっ!!」


 教室には、クラスメートのリンドと、エレンの親友・セリーナの専属執事であるリッチが駆け付けてくれていた。セリーナもリッチに抱えられながら到着していて、リッチは彼女を抱えているにもかかわらず、複数の男たちに引けを取らず、俊敏に華麗に応戦していた。

 リンドも、リッチに負けず劣らず、柔軟な動きで攻撃をかわしながら相手を翻弄し、次々と集団を蹴散らしていった。

 最後にリーダーの男をリッチとリンドの二人がかりでとどめを刺し、一連の騒動は収まった。女子からうっとりとした目線を向けられている中、リッチはエレンに手を差し伸べた。


「エレン様、大丈夫ですか?」

「えぇ、駆け付けてくれて助かりました。リッチさん。セリーナとリンドも、ありがとう」

「私は…何もしていないわ、エレン…」

「何を仰っておられるのですか、お嬢様。彼らを見つけて私に急いで教室へ向かうよう指示したのは、お嬢様ではありませんか。迅速かつ、とても賢明な判断でしたよ」

「そうだったの…あなたが気付いてくれてよかったわ、セリーナ。ありがとう」

「ところでリンド、あのバカ(ターボ)たちは?」

「……多分まだ外で残党の処理してるんじゃない?」

「そんな他人事のように…」

「リンド様は私のスピードに並べるのですね。なかなか他に並んで走れる方がいらっしゃらないので、驚きましたよ」

「リンド、あの速さについていけたの!?」


 リッチが本気で走ると、まるで忍者かと思うほどの速さで移動するため、ガーデンでも彼のスピードについていける者は数少ない。その中にリンドも見事に入っていたということだ。

 するとセリーナがクラスメート全員の無事を確認して駆け寄ってきた。


「みんな怪我も無く無事です。先生も気を失っているだけのようですし…」

「後は男子たちが戻ってくるのを待つだけ……」

「エレーーーーーンっ!! 無事かぐほぉっ!!?」

「あら、ターボ。しぶとい残党かと思ったわ」

「心配してきたのにこの扱い!?」

「…本当はこうなるのわかってたから、あえて連れて来なかったんだよね…」

「うん、リンド…その判断は間違ってないわ。ていうかナイス」


 残党の始末を終えたターボが、エレンの心配をしてすっ飛んできたものの、エレンに簡易結界で弾かれてしまい、その光景を見ていたクラスメートみんなが笑っていた。

 するとエレンが立ち上がり、山のように積まれている人攫い集団に近づいていった。見事に伸びていたリーダーの男がそれに気が付き、うっすらと目を開けてエレンを見据えた。


「…なん、だぁ……? まだ何か…あんのか……」

「一つだけ教えて頂戴」


 そう言ってエレンは、束ねていた髪をほどいた。緩やかに波打った金髪が揺れる。そして口を開いたエレンに、男は驚きを隠せなかった。


「…誰に私を連れてくるよう言われたのですか…?」

「………は?…えっ?……」

「誰から命令を受けていたのですか?」

「あぁ~…さっき言った、エレン姉の髪に魔力が溜まってるってゆーの、あれ嘘やねん。 てっきりすぐバレる思ったんやけど、兄ちゃんがあまりに信じてもうたから、なかなか言い出せんかったんよ…」

「髪結んでるときと違って、髪ほどいたエレンはかなりおとなしいからねぇ。 とりあえず、今のうちに話しておいた方がいいわよ、オニーサン♪」

「う…っ……俺等も…その…名前とかは知らねぇ、んだ…突然、フードを目深にかぶったマントの男に、アンタを連れてくるよう言われたから……」

「マントの男…?」

「『エデン』の者ではないのでしょうか…? 他にエレン様を狙っている者がいる…?」

「…わかりました。ありがとうございます」

「あ、あぁ…」


 男に礼を言った後、エレンはすぐに髪を結びなおしてシェリーたちに言った。


「早急に本部へ戻って、セラヴィさんに報告するわよ!…みんな、私のせいで酷い目に合わせてごめんね。この者たちはガーデンに連行して、この騒動に見合った制裁を受けてもらいます」

「………っ!?(さっきとまるで人が違ぇじゃねぇか!)」

「エレン様、最後のホームルームまで出席されてください。 セラヴィ様へは、この者たちを拘留した後で追って私が報告しておきますから」

「え…でも……」

「エレンにはオレがいるから大丈──……」

「ここはリッチさんに甘えていいんじゃない? あたしたちだって、もうすぐ下校できるんだから。頼もしいボディガードもいることなんだし!」

「……僕で良ければ…」

「オレは無視かぁーーっ!?」

「…じゃあ、お言葉に甘えて。お願いします、リッチさん」

「かしこまりました。お嬢様は、どういたしますか?」

「あ…私も、エレンと一緒に帰ります…っ」

「そうですか。では、帰りもお気をつけて。また後程」


 リッチは優しく微笑んだ後、クラスメートに対しても一礼し、魔法で創造した大きな檻に人攫いの集団を詰め込んで行ってしまった。そしてタイミングよく、担任も目を覚まし、セーラとファニーも加えたホームルームも無事に終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る