第4話 急襲

 ガーデンに所属している学生たちは、ガーデンが公認している指定の公立校に通っている。一貫校で初等部から高等部まであり、学年が違えどすぐにお互いに連絡が取れるようになっている。

 エレンはセーラを先に中等部へ送り、その後、親友のシェリーと共に学校へ向かった。


「今朝もまたアイツがしつこく来たんだって? エレン?」

「まあね…今頃グレーシャーにこっぴどくシバかれてるでしょうよ」

「ほんっと諦めが悪いというか、往生際が悪いというか…! あたしからも一発入れとくべきね!」

「ほどほどに、ね」


 『アイツ』とは説明しなくとも、もちろんターボのこと。シェリーとターボは幼馴染なのだ。エレンに出会ってからしつこく付きまとっている彼に、今ではシェリーも加勢して追い払っているような状態だ。毎朝の出来事に、シェリーはまるでターボの母親のように頭を抱えている。


「同い年の幼馴染がいて羨ましい~!…なぁんて、よく言われるけど、アイツがあんなんじゃときめく要素なんて皆無で、なんの自慢にもならないわよ」

「…言われてるんだ…」

「そうよ! もっとよくアイツを観察してから言ってほしいものね!……それに比べたら、エレンは良いわよねぇ…」

「…え?何が……」

「とぼけないで、エレン! あなたには、ビジュアル良し! 性格良し! 成績良し! 運動神経良し! なトップクラス級の彼がいるじゃない!!」

「…アールはただの幼馴染よ……」

「嘘おっしゃい!……そんなこと言って、本当は好きなくせに♪」

「っ!!!」

「大丈~夫っ! 誰にも言わないから♪ あたしが口堅いの、知ってるでしょ?」

「…なら……いいけど…」

「でももったいないわよ~…あんな素敵な人、他にいないんだから。早く自分の気持ち伝えたら?」

「…………そのうちに、ね…」

「え~っ!?」


 ターボの話から一転して、恋バナで(特にシェリーが)盛り上がりながら登校し、そうこうしているうちにあっという間にその日の最終授業。

 この日の時間割では、エレンたちのクラスの最終授業は体育だった。女子が屋内体育だったため、男子より早く終わり、すでに着替えも済ませた時だった。不意を突かれた、事件が起きた。


 担任と男子が教室に戻ってくるのを待っている中で、エレンとシェリーの花盤(ディスク)が急に展開され、ターボが映し出された。


『エレン! シェリー! 逃げろ!! 人攫いがうちのクラスを狙ってる!』

「!? どういうことなの!?」

『理由はわかんねぇ!とにかく今、道具を片付けてたクラスの女子が連れて行かれそうになったところをリンドとオレで止めてたんだ! そしたら3-Sに仲間が向かってるから、その時間稼ぎだって…!!』

「なんですって…!」

「ターボ、ありがとう! とりあえずみんな! 逃げ道を確保して……」

「おや? まだ男子は戻ってきていないのか」

「「先生っ! 今…」」

「ん? どうしたんだ、二人と……ぐぁっ!?」

「「先生!?」」

「先公はどいててくれないかねぇ~?…ここか? Sクラスってのは…」

(遅かった…!)


 事情を説明しようとしたところで、大柄な男に担任を殴り倒されてしまい、エレンとシェリーの二人は急いで戦闘態勢を取っていた。担任を襲ったリーダー格の男の後ろには、およそ20人以上はいるであろう人攫いたちが、教室に入ろうと押し寄せてきていた。クラスの女子たちは、逃げ場が無くなってしまったためにすっかり怯えてしまっている。

 ガーデンに所属している学生が通っているとはいえ、大半は一般市民。普通の女の子たちだ。戦闘知識を有しているのは、この場にはエレンとシェリーの二人だけしかいなかった。

 応戦しようと考えていたが、圧倒的に不利だと感じた二人は、アイコンタクトを取り互いにうなずいた。そしてクラスメートの女子たちより一歩前に立ち、シェリーは左手、エレンは右手を伸ばした。


「「我に応えよ【ナナカマド】! 花言葉は『安全』! その言葉の力を信じ、そなたに力を与えよう! 加えよ【グラジオラス】! 花言葉は『頑強』! そなたの力を合わせ今、強力な守護壁となれ!!」」


 早口で呪文を唱え終えると、伸ばしたそれぞれの手から光の幕が広がり、女子たちを囲った結界となった。


「おぉ、おぉ、何の真似だぁ?」

「乙女の領域に土足で踏み入って来るとは、いい度胸してんじゃないの! これ以上入ってきたら蹴っ飛ばしてやるんだから!!」

「威勢のいい姉ちゃんだなぁ…ターゲットは多分アンタじゃねぇな」

「なんですって?」

「俺等は依頼されて来てるんだよ。 『金のロケットペンダントを付けた女を連れて来い』ってな!」

「「!?」」

(…それって…私のこと…?)

「とにかくその女を出してくれりゃあ、それでいいんだよ!」

「………」

(エレン! 駄目よ! 誰が仕向けているのかもわからないんだから!)

「え、えぇ…」


 男の要求に全く動じないエレンたち。それを見かねたリーダーも、しびれを切らし手を打ってきた。


「あぁ…そうそう、"これ"を出せば、その女も黙っていないって聞いたんだが…ホラよ」

「「なっ!?」」

「ちょっと、離しなさいよ!!」

「セーラに手ぇ出したら、うちが許さへんで!!」

「セーラちゃんに、ファニーまで!?」


 部下の男が連れてきたのは、中等部に行っているはずのセーラとファニー。恐らく取り押さえるのはセーラのみのはずが、一緒にいたファニーに騒がれて厄介だったから、などの理由であると思われる。


「全く…どっちも元気なもんだよね……暴れんなっての」

「……っ!!」

「どの子か知らないけど、大事な二人なんでしょ? 早く出てきた方がいいんじゃないの~?」

「ダメっ!! お姉ちゃんを渡すもんですかっ!!」

「『お姉ちゃん』?……あぁ、そう~お姉さんなんだぁ…」

「はっ!…しまっ……きゃあ!」

「ほぅら、早くしないと可愛い可愛い妹に傷が…」

「いい加減にしなさいよね、あなた!!」

「エレン、ダメ!!…結界が…!」


 リーダーがセーラに刃物を向けた瞬間、エレンが男に向かって飛び出して行った。それと同時に、結界が解けたのをいいことに人攫いの男たちが教室の中に押し入ってきてしまった。


「!? ちょっと! 私が狙いだったんじゃないの!?」

「確かに依頼はアンタだ。だが、その報酬に『他の女は好きにしていい』って言われていてなぁ…」

「卑怯な真似を……!!」


 エレンはセーラとファニーを助けようとするも、自身も捕えられてしまい、威勢の良かったシェリーも床に押さえつけられている。教室は混乱の嵐となっていた。


「それにしても…アンタ本当に、見れば見るほどいい女だなぁ…その髪ほどいたらもっと良くなるんじゃねぇか?」

「っアカン!! エレン姉の髪にむやみやたらと触るんやない! エレン姉の髪にはめっちゃスゴイ魔力が溜まってて、扱いを知らない他人が触ると大暴発すんねん! そんなことになったら、アンタらの計画も水の泡や!!」

「ファニー…あなたって…(そんな見え見えの嘘じゃすぐバレ…)」

「…ちっ…そういうことなら仕方ねえか……」

((えっ!? 信じてるの!?))

「とりあえずおめえら! これで任務完了だ!! 後は好きにしやがれぇっ!」

「っ…いやぁっ!!」

「感心しませんね、これは…」


 エレンが連れて行かれそうになった刹那、どこからともなく声が聞こえた。

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