第3話 平穏な日常

 フルール・ミロワールを統率している、唯一の国家政府組織──”ガーデン”。歴史上の偉大なる神たちに倣い、この世界の平和と安定のために動いている総合組織だ。

 ここでは、それほど人数は多くないが、年齢性別を問わず様々な人間が特別隊に所属し活動している。今朝も、ガーデンの中で評判のある姉妹が、施設で一際目を惹いていた。


「それでねっ昨日は少しコップを浮かせられたのよ!」

「まあ、本当に?今度ぜひ見せてほしいわ」

「うん、もちろん!私も早くお姉ちゃんとお仕事したいもん!」

「ふふっ…そうね」


 淡い金髪と紫の瞳が印象的な二人。姉のエレンと妹のセーラである。セーラは人より魔法を覚えるのが遅かったため、現在、魔力のレベルを上げるための訓練をしている。

今、その訓練の成果を姉に嬉しそうに話していた。そんなセーラが微笑ましく、エレンは優しく微笑んで話を聞いていた。


「…そういえば、今日は"あの人たち"まだ来ないね…?」

「セーラ……そんなこと言わないでちょうだい…そう言った時に限って来るんだか…」

「「エレーーーーン!!!」」

「…ホラ来た……」

「ごっ…ごめんなさいっ…!」


 エレンの名を叫びながら、二人に駆け寄ってくる二つの影。セーラの言っていた"あの人たち"、改め、エレンに好意を寄せている男たち。エレンの学校のクラスメートである、いつも元気なターボ。なぜか、会うたびに体のどこかに怪我をしているスタンレー。

 二人とも、毎日のようにエレンのもとにやって来ては告白し、毎度のごとく玉砕している。エレンもセーラも、日常茶飯事となっているこのやり取りに、ほとほと困っていた。


「なあっエレン!」

「今日こそは!」

「「俺と付き合ってください!!」」

「却下」

「「早いよ!!(泣)」」

「ターボさんもスタンレーさんも、毎日毎日よく飽きませんよねぇ……私いつも見てますけど、お二人とも、お姉ちゃんにつり合いませんよ?」

「「セーラちゃん厳しっ!?」」

「てか観察されてたの俺ら!?」

「こんなところに壁が立ち塞がるとは……!!」

「…私たち、もう行っていいかしら……」


 セーラからの厳しい言葉を受けて悶絶する彼らを見て、エレンはすでに呆れ返っている。そんな彼らに、走って向かってくる人物がいた。そして、縋るようにエレンに付きまとう二人の首根っこを掴み、ものすごい勢いで彼女から引き剥がした。


「「んがっ!!??」」

「はぁ…すまないエレン。また二人が迷惑かけたようで……後でシバいておくから」

「ありがとう、グレーシャー。私は大丈夫よ」

「はっ…離せ、兄貴っ!!」

「グレーシャ…お前…っ! せっかくエレンと話していたところだってのに…!!」

「何度も断られているのに、よくもまあ…熱が冷めないというか、わずかな希望に賭けてるというか……」

「…女顔がよく言うよ……(ボソッ)」

「………お前は本当に懲りていないみたいだなぁ? ん?」

「あぁあちょっ…ちょっと待っ……ちょちょちょ苦しいって!! ごめん! ごめんなさい兄貴!!」

「グレーシャー…」


 女顔であることにコンプレックスを持っているグレーシャーに対し、そのワードが禁句であることは、ガーデンメンバーの大半が承知のはずだが、ターボとスタンレーの二人は懲りずにからかっているため、毎度のごとくグレーシャーの怒りを買っている。

 ようやく解放された二人が息を整えていると、さらにこちらに向かって駆けてくる人物が。鮮やかなマゼンタのツインテールを揺らし、スタンレーに一直線に向かってきた。


「スタンレー発見~っ♪ おっはよ~!!」

「いっ!? アマティ…!! それじゃあオレはこれで…」

「え~っ!? どこ行くのぉ~?」

「っなぁっ!? いつの間に!? は、早いな……アマティ…」

「そりゃあ、スタンレーと一緒にいるためなら、一目散に走ってくるわ♪」

(走ってきた!? さっき声をかけてきた時、50mは離れていたのにあんな一瞬で追いつくものか!?)


 そしてアマティは、有無を言わさない勢いでスタンレーをあっさり連れて行ってしまった。その際、彼女はエレンの方に振り向き、ウィンクしながらいたずらっぽく舌を出した。まるで、勝った、とでも言いたげに。

 それに気付いたグレーシャーは、どう反応していいのか困っているエレンに声をかけた。


「…まだライバル視されてるんだ…」

「そうなの…イヤになっちゃう…」

「スタンレーさん(とターボさん)も困りものですけど、アマティさんも困ったものですよね…」

「とりあえず一人は片付いたから、私たちもそろそろ行きましょ? 私とセーラも学校に行かなくちゃならないし」

「あぁ、そうだね。俺はターボに喝を入れて、それから向かわせるよ」

「ありがとう。わかったわ」

「オレを抜いて話を進めるなーーーっ!! オレもエレンと一緒に学校行くんだ…」

「シェリーに頼んでしごいてもらおうか」

「……スンマセン、ナンデモアリマセン……」


 引きずられていくターボをよそにグレーシャーとも別れ、エレンとセーラは学校へ向かった。

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