第10話クエスト…モンスターが倒せません

カウラが仲間に加わったあと、俺達はギルドでパーティー登録というものをしていた。


 手続き自体は簡単なもので、自分達でパーティーを象徴するマークを作り、それを自分のギルドカードと導石という平らな宝石に書き写すだけだった。


 ちなみに、導石というのは3センチ程の大きさで作られた魔道具のこと。なんでも、モンスターを倒した時に獲得した魔素を同じマークを持つ人達に均等に分配してくれるらしい。


 ありがたい。


 何にせよ、これで登録は終わったわけだ。


「さてと、それじゃあ早速クエストに行きましょう」


「了解にゃ。それで、どれにするにゃ?」


「そうですね…あ、これなんてどうでしょうか?」


 そう言って陽名菊が指さしたのは、『ハイウルフ50体討伐』と書かれた紙だった。


「ハイウルフならそこまで強くないですし、真也さんでも倒せると思いますよ?」


 クエスト用紙を俺に見せながら、陽名菊はそう言ってきた。


 どうやら、俺の事も考えてくれたらしい。ちょっと感動。


「なるほど、ならそれにするか。カウラもそれでいい?」


「問題にゃし」


 カウラはサムズアップしながら了承し、俺も賛成の意を視線で伝える。


 それを確認した陽名菊は受付カウンターまで行き、受理の判子を貰って帰って来た。


 そして、武器や防具の確認をし、俺達はギルドを後にした。


 


 


 ギルドを出てから数十分後。


 源の街周辺の森林にて、現在ハイウルフ狩りが行われていた。


 それはもう一方的で、お相手に同情を覚えるほど悲惨なものだった。


 もう50匹はとっくに越えているんじゃないだろうか?


「陽名菊ちゃん、そっち行ったにゃ!」


「了解しました!」


 狩りの手順としてはこうだ。


 カウラが能力『アスペード』で自身に防御バフをかけた後、そのままハイウルフの縄張りに突撃。


 相手がカウラに気づき排除しようと襲いかかって来たところに、カウラが殺さない程度の強さで殴り飛ばす。


『カウラは敵』とハイウルフが認識し、ほとんどがカウラを標的にしたであろう頃合にカウラが全力逃走。


 そして、陽名菊が待ち伏せをしているポイントまで誘導したあと、陽名菊お得意の高速斬撃で四肢切断。


 これの繰り返しである。


「はあっ!」


 陽名菊が両手に持った小太刀と共に、ハイウルフの群れに突き進んでいく。


 ギリギリ目で捉えられる速さで駆け抜け、すれ違いざまに喉元を切り裂き、ハイウルフを確実に仕留めていった。


「ふう…今何匹目でしょうか?」


「大体40匹ぐらいかにゃ?」


 陽名菊とカウラがそんな事を言いながら、ハイウルフの歯を引き抜き、麻布の袋に入れていた。


 ちなみに現段階でのハイウルフ総討伐数『79体』、とっくの昔にノルマ達成である。


「いにゃー、それにしても陽名菊ちゃんがいるとクエストが早く進むにゃ。やっぱり1人でやるより効率が良いにゃね~」


「ですね。私もおびき出して貰えると、こっちから追いかける手間が省けるので楽ちんです」


 お互いに肩を並べてその場で座り、笑い合っていた。


 きっと、この地面に広がるハイウルフだった肉塊と、2人の体にまとわりついてる返り血がなければ綺麗な絵面になっていただろう。少し勿体ない気がする。


 そんな後悔を胸に二人を眺めていたが、陽名菊がその視線に気付きこちらに向かって来た。


「真也さん、調子の方はどうですか?」


「ああ、大分良くなったよ…でも、しばらく肉は食べたくないかな…」


「あはは…」


 木にもたれ掛かりながら、俺は悄然とした態度で伝えた。


 何があったのかと言えば簡単な事だ。俺のグロ体制が無さすぎて、クエスト開始直後に気分が悪くなりリタイアしてしまった。更に細かく言うなら、一回吐いた。


 今思えば当たり前の事だったのかもしれない。元々、動物愛護法という慈愛に満ちた法律がある上、自分で動物を殺す機会が無い国で育ってきたのだ。


 そんな俺が、異世界に転生し力を手に入れたからと言って、そう易々と命を殺せずが無かった。


「ほら、元気出してください。頑張って1匹仕留めたじゃないですか」


「その1匹がトラウマなんだよ…切り落とした首とか、腹から出てくる内蔵とか思い出しただけで…おえっ」


 エノイアから作り出した打首にでも使えそうな刀、それを使ったのが間違いだった。


 クエスト開始時、何を思ったのか一匹のハイウルフが俺に飛び掛ってきたのだ。


 俺は、反射でそいつの腹に刀を突き刺した。そして刀を引き抜いたら内蔵が、こう…ドバーっと。


 そして、慌てた俺は刀をもう一振。そしたら今度は首が飛んだ。


 俺の足元に落ちてきた首は、一瞬だけ俺をギロりと睨みつけ息絶えていった。


 想像して欲しい。狼と言えども、生首に睨まれるのだ。一生モノのトラウマ確定である。


「せめてさ、光の粒子になるとか優しい設定にしてよ…なんでリリスはこういう所リアルにすかなぁ…あのロリ女神ぃ」


「よしよーし、大丈夫ですよー。あと、創造神様の悪口言うのはやめましょうね?」


 リリスはこの世界で創造神扱いされてるらしい。だからお札に載ってたのか。


 それより、子供じゃないから頭を撫でるのはやめて欲しい。


「シンシン、大丈夫かにゃ?近くの川で水汲んできたから飲むにゃ」


 俺の体調を見兼ねたのか、カウラも俺のもとまでやって来る。


 その手には、ヒョウタンのような物が握られていた。


「すまんカウラ、迷惑かけたな」


「気にすんにゃ」


 水を飲む俺の背中を、カウラは優しくさすってくれた。


 もしかしたら俺は、良い仲間に巡り会えたのかもしれない。


 これなら陽名菊に肉をあげても良いかも…なんて思ってしまう。


「ももが食べたいです」


「人の心読むのやめてくれない?」


「にゃはは…それじゃあ、クエストも終わったし帰るかにゃ。ほら、肩借すから頑張れにゃ」


「ほんと、すまん…」


 俺の謝罪に対し、再び「気にすんにゃ」と返してくれるカウラ。


 カウラの肩を借り、俺はよろよろと歩き出す。カウラは俺のペースに合わせて、ゆっくりと歩いてくれた。


 将来結婚するとしたら、こういう子を嫁にしたい。ケモ耳だし、優しいし。


「浮気はダメですよ、真也さん?」


「なんでお前は人の心読めるの?あと、もう伴侶設定には騙されないからな」


「ちぇー、もう少しチョロくても良いじゃないですか」


「にゃはは…」


 陽名菊は膨れ面を作り、カウラは戸惑ったように笑っていた。

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