第11話クエスト…モンスターが懐きました
カウラの肩を借りながら、俺は帰り道の途中にある草原を歩いていた。
クエスト地周辺という事で、残党を警戒し陽名菊は周囲を偵察しにいっている。どうやら、体調不良で弱ってる俺にもしもの事があったら…と、必要以上に敏感になっているらしい。
そして、そんな状況の中で『そいつ』は草陰から現れた。
「くうん…」
「「…」」
真っ白い毛並みに愛らしい程クリっとした瞳、犬のような見た目で大きさは抱き抱えると両腕に丁度収まるぐらい。
そんな可愛い生き物が目の前にいた。
「このモンスターは?」
「この子はハイウルフの子供にゃ。きっと、さっき狩った狼の中に親がいたんだにゃ。はあ…気の毒だけど仕方にゃい…」
そう説明しながら溜め息を吐いた後、カウラは俺を降ろし腰に携えた短剣を引き抜く。
そして、それをハイウルフの子供に突き付けた。
いきなりの事で慌てたが、即座にカウラへと制止の声をかける。
「待て待て…お前何してるの?」
「にゃにって、この子を殺すににゃ。残念だけど、今のこの子は餌も満足に取れない状況にゃ。だから、飢えて死ぬ前に楽に死なせて上げるのにゃ」
「そんな…」
目の前のハイウルフの子をよく見ると、前足を怪我していた。
それに、しばらく何も食べていなかったかのような衰弱も見て取れた。
心做しか、『助けて…』と懇願するような視線で見られてるような気がする。
「なんとかこいつを助けられないか?」
「とは言ってもどうするにゃ?使い魔契約するぐらいしか方法がにゃいよ?」
「使い魔契約?」
聞き慣れない単語に俺は首を傾げる。
カウラに聞くと、一瞬だけ使い魔契約を知らない俺に大して驚いた表情をしていたが、すぐに分かりやすく教えてくれた。
使い魔契約とは、モンスターと契約を交わし、そのモンスターを眷属にする儀式らしい。
なお、儀式にはテイムクリスタルというアイテムが必要とのこと。
「あと、契約したモンスターは契約主の魔力や能力に影響されて、変異するにゃ」
「なるほど。それで、テイムクリスタルは何処で手に入るんだ?」
「武器屋か防具屋に行けばあると思うけど…どうするにゃ?」
「その案で行く。一先ずはこいつを連れて行かなやきゃな」
カウラからハイウルフの子へと視線を戻し、そいつを抱き抱えようと手を伸す。
しかし、野生動物特有の強い警戒心で触れる事もままならかった。
再びカウラと緯線を合わし、お互い困った顔をする。
「カウラ、どうする?」
「餌でも上げれば懐くんじゃにゃい?餌持ってにゃいけど」
「なるほど…ハイウルフってなに食べるんだ?」
「肉」
俺が聞くと、カウラは即答してくれた。
「肉か…あるにはあるが…うーん…」
「あるにゃら使えば良いんじゃにゃい?にゃあは何も持ってないし、シンシンの意見にとやかく言うつもりはにゃいよ?」
「…カウラが良いならいいか。ちょっとその剣貸してくれ」
俺が言うと、カウラは手に持っていた短剣を取り出し渡してくれた。
礼とともにそのナイフを受け取り、そのまま俺の肩に突き刺す。
そしてそのまま、ノコギリで物を切るように前後に動かしていく。
そんな光景を見たカウラは口をポカンと開け驚いた表情を見せて後、しばらくしてから我に返り、勢いのまま怒鳴り出す。
「シンシンにゃにしてるにゃ!?馬鹿にゃの?まともそうに見えて実は馬鹿だったの!?」
「馬鹿とは侵害だな。俺はただ自分の腕の肉をこいつに上げようと…」
「本物の馬鹿にゃこいつ!」
カウラが怒鳴り散らすのを横目に、俺は餌作りの作業を進める。
切り終えた腕の皮を剥ぎ、肉と骨を別々にした後、一口サイズに切り刻み食べやすくする。
ふと、モンスターの方を見てみると犬のお座りの姿勢でこちらを見ていた。
処理が終わった肉を、近くの木の葉を皿替わりにしてモンスターの目の前に置く。
余程お腹が空いていたのか、置かれた瞬間に肉に飛びついた。きっと喜んでくれているだろう。
そして、モンスターが肉を飛びついたと同時、その横から肉を奪おうとする輩が現れた。
「…何してんだ、陽名菊?」
「真也さんの肉の匂いがしたので、大急ぎで帰ってました」
「おかえりにゃ、偵察どうだった?」
「特に問題はなかったです。というわけで、任務終わったので私にも何かください真也さん!」
陽名菊は涎を垂らしながらこちらを見ていた。相変わらずの食欲のようだ。
「はあ、お前はどうしてそう…黙ってれば可愛いのに…」
「む、酷いですね。いいでしょう、この機会に私の可愛さを真也さんに教えて…」
「ほら陽名菊、太もも少しだけやるよ」
「わーい!」
面倒臭くなったので肉を上げることにした。
しかし、本当に落ち着きがない…こっちのモンスターの方がまだ礼儀正しさがある。
そんなやり取りをしている中で、カウラが溜め息を吐きながら俺達に声をかけた。
「本当、2人とも仲いいにゃね」
「何度も言うが、捕食者と餌の関係だ。決して仲が良いとかじゃない」
「…気ににゃってたけど、にゃんでシンシンはそんなに陽名菊ちゃんとの関係を否定するのにゃ?」
「間違ってでも惚れないようにするためだよ。勘違いで黒歴史を作るのはもう御免だからな」
俺がそう伝えた瞬間、カウラの目が半眼に変わった。
これは呆れている…いや、哀れんでいるのだろう。
「シンシン、もっと自信持てにゃ」
「なんでそんな悟ったような笑顔してるの?もうそれ俺がアウトって言ってるよね?」
カウラはこの一瞬で何を考えたのか、俺の肩をそっと叩き優しい笑みを向けていた。これはもう俺がモテないという余命宣告なのではないだろうか。いい加減泣くぞ?
「けぷう…ご馳走様でした。さてと…真也さん、カウラ、そろそろ行きましょうか」
「わかったにゃー。あ、陽名菊ちゃん、シンシンが元気ないから一緒に居てあげて欲しいにゃ」
「え、本当ですか?真也さん、やっぱりまだ体調戻ってなかったですか?」
そう言いなながら心配そうに俺を見上げてくる陽名菊。
俺の事を気にかけてくれるのは嬉しいのだが、その口周りに血で出来たオヤジの髭を一刻も早く拭き取って欲しい。現在進行系で嬉しさが半減している。
「安心しろ、陽名菊の口周りに驚いただけだから大丈夫だ」
「…心配して損しました。真也さんのスカポンタン、意地悪、童貞」
「おい、最後なんつった?」
「なんでもないで〜す」
拗ねた子供のようにそっぽを向き、ハンカチで口を拭く陽名菊。
その姿は正しく淑女という言葉が似合うが、陽名菊が最後童貞と言ったことを俺は忘れない。
「カウラ、戻りましょう。真也さんは置いていきます」
「陽名菊ちゃん、怒だにゃ〜」
「真也さんが悪いです。本当に心配だったんですから…」
陽名菊が俺のチラリと見ながら、少し覇気のない顔でそんな事を言ってくる。
どうやら陽名菊は、俺が思っていた以上に俺を気にかけていたらしい。
いつも俺の腕や足が取れた時なんかは涎を垂らしながら子供がはしゃぐように喜ぶくせに、体調が悪くなったらこんなに心配するとか。乙女心なの?
取り敢えず可愛いなこんちくしょう。
「はあ…悪かったよ」
「くうん」
「…ん?」
照れくさくなり視線を逸らしながらになってしまったが、謝罪をした。
しかし、返って来た返事はモンスターの鳴き声1つ。
もしやと思い俺は視線を戻してみると、予想通りというか何というか、カウラと陽名菊が居なかった。
「あいつら、本当に置いていきやがった…」
陽名菊はまだ理解出来るが、何故カウラまで俺を置いていったのだろうか?
「きゃん!」
「お前だけか、俺の味方は」
左足に擦り寄ってきたハイウルフの子供を抱き抱え、俺は帰路に着くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます