落陽―III
入口の扉は破壊されており、中に硝子の破片や土塊が飛び散っていた。強行突破した事は明白だ。
「ひっでえな、苦労して組んだ防衛システムが……」
ミラがブーツの底で破片を端へ追いやった。サンを担ぎ上げ、硝子の無いところまで運んでから下ろす。
自動掃除機が一般化してからというもの、箒とちりとりというのは日本の義務教育学校でしか見ることがなかった。しかし奇跡的にこの店にはそれが残っていたので、簡易的な掃除ができた。箒を持つと、私が本来家庭用レプリカントであった事を思い出せる。
「さて、サンに飯作ってやんねえとな」
「材料あるの?」
「一応、
人間は飽きっぽいから、と彼女は笑う。
ゼロパックされた食品はそうそう腐らない。保存状態によっては十年単位で保つ。それ故に非常用として最適だ。最大の問題点は、飽きるということ。
よもやラーメンや麻婆豆腐を十年保存できるとは誰も思っていなかっただろうが、しかしせめてシリアルやカロリーメイト以上のバリエーションは切望されていた。
結果として、それは多少叶ったけれど、味や食感にバリエーションがあっても完全な料理ではない。故に飽きる。
人間は飽きる生き物だ。たぶん、ペットや子供にすら飽きる者はいる。その機能を欠陥と呼ぶべきだろうか。その機能が無ければ、人間は毎日カロリーメイトを食べて毎日キリマンジャロコーヒーを飲むだろう。すぐそばに温かなパスタがあったとしても、香り豊かなブラジルコーヒーがあったとしても。
サンは出されたゼロパック産の食べ物――見た目はハンバーグだが、中に色々入っているらしい――をあっという間に平らげた。味気ない見た目だが、味はそこそこだし栄養バランスは完璧だ。ゼロパック様々である。
満腹になったからか、彼はいつの間にか目を閉じていた。時刻は二十時、少し早いかもしれないがこのまま寝かせる事にした。
「まさか、三日間の付き合いになるとはな」
外に椅子を引っ張り出して、私達三人は星空のもとに座った。二人は煙草をふかし、私は出来合いのコーヒーを手にしていた。
「それ……どっちの意味で?」
思ったより長かったのか、その逆か。ミラの答えがどちらであってほしいかは考えるまでもない。
「言わせるなよ。また泣くぞ」
にや、と笑う彼女の頬には、もう涙は流れていなかった。どうやら一定時間経つと自然に止まるらしい。流石に二十四時間流れっぱなしというわけではなかった。どうやら、私達はお互いに同じ気持ちを隠し持っているらしい、幸か不幸か。
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