落陽―II
「本部、目標を発見」
兵士の一人が無線で報告する。私達にはどうする事も出来ない。相手は
兵士の一人がドローンを飛ばす。デルタの使っていたようなごつごつとした機械らしい形ではなく、どこか生き物のように見える。魚が泳ぐかのように、私達の眼の前をすいすいと動き回る。
「分隊長、映像を確認した」
「如何いたしますか」
「我々の目的はサンと言う子供、ただ一つだ」
「
銃口がぬるりと持ち上がる。私達の頭部へ、舐めるようにその深淵を見せつけて、恐怖と焦燥で眼孔を
ゲームオーバー。ミラの言葉は、そっくりそのとおりだ。彼らはサンにしか興味がない。他の全てはただの障壁だ。叩いて壊し、踏み砕いて均す。
ゲームオーバー。ゲームオーバー。ゲームオーバー。
これでもう何もかも終わりならば。せめて最後は、
「待ってください!」
私は、せめて彼女の為に言葉を紡ぎたい。そう思った。
「ミラがアセンションを開始しているんです! あと二十四時間で彼女は……だから、せめてそれまで待ってもらえませんか?」
彼女は死ぬ。たったニ音の真実を、未だ私は声に出せないでいる。
大声で叫んだ所で、兵士が無線をオンにしなければ本部には届かない。なので彼らの一人、恐らく隊長にあたる人だろう、彼が無線で私の言った事をほぼそのまま伝えた。
「承知した。エウクス総長へ報告を――」
「待て。その必要は無い」
無線越しに誰かがマイクを奪い取ったのがわかった。誰かは分かり切っていた。ラウラだ。
「映像からミラのアセンション開始を確認した。分隊長、無線を彼らへ」
彼女の言葉に従い、隊員は私達へと近づき、無線機を手渡した。教祖の言葉は絶対。そういう所がいかにもカルト的で怖い。
「ミラのアセンション終了までは手を引こう」
さらりと答えられて、一瞬何を言ったのやら、と呆気にとられた。しかしすぐさま、感謝を伝えた。しかしデルタは眉をひそめて思案している風だった。
「デルタ、その沈黙が何を言いたいのかは分かる。確かに我々はレプリカント殲滅を主目的としているが、しかし同時に生命尊重を絶対遵守の掟としている。人間であろうとレプリカントであろうと、生命の終わりには敬意を払うべきだ」
「監視がべったり、なんてのは出来れば勘弁してほしいけどな」
ミラが声を大にして言う。私達に近づこうとせず、少し離れた所で煙草を吸い続けている。ただの嗜好品のはずなのに、今ではそれが精神安定剤に見えてくる。
「報告によると、島の中部にあるゲームセンターがお前達の隠れ家だったらしいな。一晩そこを明け渡そう」
好意、というべきなのだろうか。あるいは温情か。私達は再びゲームセンターへと戻ることを許されたのだった。
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