第5話 始発点

レイリル王宮城門前

クロノ視点


 嗚呼、どうしてこうなったのでしょう?


 ただいま私はレイリル王宮の城門の前に来ております。

 とある不審者のおかげで。


 クロノは明らかに不機嫌な表情かおをして城門へと歩く。


 反対にリウはクロノの肩で寝ているが。


「あの」


 城門を守る憲兵がこちらに気づき、歩み寄る。

「どうしたの、お嬢ちゃん。ここは王宮の城門だよ?」


 …いらっ。


 明らかなる子供扱い。そんなに私は子供に見えるのだろうか?


 不機嫌な顔をさらにしかめて、クロノは憲兵に要件を伝える。

「不審者にこのコイン、貰ってしまって、王宮に行けって言われたので」


 にこやかな笑みでクロノに接待をしていた憲兵の顔が驚きに満ちる。


「それはっ!魔法師団編成における徴兵の…!」


 そう、レイリル王国では秘密裏に魔法師団を編成しようという作戦があったのである。


 近隣の魔獣が強化されつつあるこの頃、王国は王国戦力を高めようという動きが活発化していた。

 なかでも、見直されたのは魔法特化部隊だった。


 魔法とは、人々が生まれながらに使える力であり、五つの要素(水、火、風、光、闇)程度なら誰でも扱える。

 だが、それは微々たる力であり、さしずめ国家や政治にも影響はなかった。

 もちろん、従来の兵士も魔法は使えたが、個々の属性、魔力が異なり、あまり重要視されてこなかった。


 ここまでが、一般常識。


 才能のある者の中には、魔獣を倒す程の戦力だったり、干渉は困難とされる天候や物理法則などにも干渉することができる。

 そこで、王国では、そういった者を徴兵して、強大な魔法部隊を作り上げようと試みている。王国を守るために。


 そう、自国防衛の為に、だ。


 つまり、クロノは不審者が才能のある者だと認められ、徴兵義務を課せられたものをおっつけられたのである。


「多大な御無礼を、失礼致しました。どうぞ、お通りください」

 そういって、憲兵はそびえ立つ大きな門を…ではなく、正門の隣にある扉を開けた。


 あっ…そっちじゃないんだね。


 ……って、そうじゃなくて!

「あの、話、聞いてました!?」


 必死に憲兵に訴えるクロノだったが、憲兵は全く聞く耳を持たない。


「ようこそ、王宮へ」


 クロノは最上位の笑顔で憲兵にほぼ無理やり王宮へと足を踏み入らされた。


 バタンッ

 クロノの背後でドアの閉まる音が響く。


 …あの調子じゃぁ、また言っても開けてくれなさそうだ。

 違う兵に直談判するしかない、か。


 クロノは盛大にため息を零し、王宮の庭園を歩き始めた。



 先ほどの憲兵、ルイス・クリスタはポケットを探り、中にある魔法石を取り出す。


「無事、中に入れましたよ


 少しして、魔法石から声が聞こえた。


『ご苦労、憲兵クン』


 ルイスは嘲笑しながら魔法石越しに会話を続ける。


「不審者呼ばわりされてましたけど。そんなことより、何故彼女を?」

『いやーたまたま会っちゃってサー』


「……」


『ウソウソ、彼女、相当な魔力の持ち主かなぁって思って』


 ルイスの無言の圧力は彼に伝わったようだ。


「貴方が言うなら相当なんでしょうね、魔法師団副団長、オットー・エーミッヒ殿?」


『うふふっそれでさーあの子のさ髪の毛が「仕事、ありますんで。それでは」


 ……。


 ルイスは一方的に会話を切った。



 

 

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