第4話 王族
レイリル王宮
エルア視点
幾分か王宮の廊下を歩いてアルファー兄様の執務室まで来た。
エルアは扉の前で深呼吸を2度繰り返す。扉へと伸ばす手は微かに震えていた。
コンコンコンコンッ。
「エルア大尉、入室します」
大尉──近代化が進められたレイリル王国では、王族は神に選ばれし存在と言われ、王国軍を指揮するのに相応しいとされてきた。
よって、齢15に達した時から士官としての階級を与えられる。
つまり、王族全員が軍人であり、士官となる。このような国は近隣国の中でも稀である。
だが、王国は実力主義だ。
故に、軍司令部は王族よりも王国臣民のほうが多いらしい。
「…入れ」
エルアは、アルファー兄様の鋭い声に背筋を伸ばしながら、静かに扉を開けた。
部屋に入ると、充満された煙草の匂いに思わず顔を顰めそうになるけど真顔を意識。
「アルファー中佐殿、本日の日記帳をお持ちしました」
アルファー中佐は執務室の机に頬杖をついたまま、エルアの日記帳を受け取りパラパラとページをめくる。
暫しの沈黙──。
アルファー中佐が先に口を開いた。
「エルア大尉、これは真面目に書いているのか」
エルアは背中に冷たいものを感じながら答える。
「はい、中佐殿。昨日と変わりありませんでした」
アルファー中佐がため息をつく。
「まぁいい。だが、エルア大尉」
「朗報だ」
アルファー中佐がニヤリと口元を歪ませる。
「王国軍の大規模侵攻、これは珍しく当たるかもな」
エルアは唇を震わせた。
大規模侵攻?よりによって一番当たって欲しくない夢が?
エルアは平常を装い、大規模侵攻について質問をした。
「近々、そのような作戦が?」
「まぁ、貴官には関係ないな」
それはつまり、私は作戦に関与しない予定だということ。安堵と不甲斐なさが入り交じった感情が心に渦巻く。
「了解しました」
「失礼します」
敬礼をして、アルファー中佐の執務室を立ち去る。
…やっと終わった。
エルアは執務室の扉の前でしゃがみこみそうなほど疲労していた。
「休んでも居られない、か」
次の予定は…。
疲れた頭を無理やり回させ、今日の予定を思い出す。
新設された王都東部士官学校の視察と提出する書類の仕上げ、後は自分の訓練だ。
はぁー……。
気分転換に城門前に寄ってみよう。
あの子がいるかもしれない。
そんなポジティブ思考とは裏腹に、エルアは正反対の思考も巡らせていた。
本当に何故私は王族なのか?
適任はもっといたはずなのに。
「しっかりしないと、ね」
エルアは王宮を歩く。不安に駆られながら。
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