28

「メリークリスマス!!」


 あたしは高校最後のクリスマスを、大好きな仲間達とダリアで過ごしている。


「受験組の誠司と勇二と八木には悪いけど、今日は盛り上がるぞー!!」


 相変わらず、廉はビデオカメラを手にはしゃいだ。


「先輩~シャンパンどうぞ~っ」


「あ、涼ちゃん…酔っ払ってるね?」


「だあって」


 涼ちゃんはあたしに抱きつくと


「あたし、すっごく楽しかったのに、みんな卒業しちゃうんだもんー」


 って泣きまねをした。


「まだ卒業じゃないじゃない」


「でも二月は来ないでしょ?あたし一人ぼっちー」


「涼…酒癖悪いのな。俺気を付けよ…」


 浅井君がそう言って笑ってると。


「早くプロになって迎えに来てよね」


 涼ちゃんは浅井君の首をしめながら言った。


「はいはい」


 苦笑いの浅井君を、みんなが冷やかす。



「おまえ、同級に友達いねーのかよ」


 廉が涼ちゃんにそう言って、一瞬みんなが黙ってしまった。

 でも。


「いない」


 涼ちゃんは迷うことなく、キッパリ答えてしまった。


「作れよ」


「こんな素敵な先輩達に囲まれちゃってたら、目が肥えて」


「んな事言ってないで。おまえ、結構人気者なんだろ?あの下手くそなオルガンのおかげで」


 廉の言葉に、一同大爆笑。


 涼ちゃんは…


「あたしにも楽器ができたらな~」


 って、部室のオルガンを猛練習…したはずだった。


 けど…


「あたし、先輩の彼氏って尊敬しちゃう。絶対この歳からピアノなんて弾けない」


 って、結局『ネコふんじゃった』を適当に弾けるようになった時点で終わってしまった。

 でも涼ちゃんのオルガンは何だか楽しくて。


「誰が弾いてんの?」


 って、時々他のクラブの人達が聞きに来てた。

 そして、涼ちゃんの弾くオルガンに『ネコ生んじゃった』って替え歌ができて、涼ちゃんは一躍人気者になった。



「ひどいなー…練習してたのに」


「ま、おまえぐらい根性入った奴ならさ…」


「丹野さん、あたしの事おまえおまえって、一度も名前呼んでくれた事ないですよね」


 涼ちゃんのするどい指摘。

 浅井君は涼ちゃんを呼び捨ててるけど、みんな『涼ちゃん』って呼ぶ。

 確かに、廉は呼んでないな。


「い、いいじゃねーか、別に。俺はおまえの男じゃないんだし…」


「ほら、またおまえって」


「………じゃ、早乙女様と呼ばせてもらおう」


 廉がふざけてそう言うと。


「あ、俺もそう呼ぼ」


 浅井君までがそう言って。


「…う…もーーーーーーーー!!」


 涼ちゃんの怒りの矛先は…


「だーっ!!こっちに来るのか!?」


 並んで座ってた臼井君と宇野君に向けられた。


「あはははははは!!」


「笑ってないで面倒みろよー」


「俺、二度とこいつに酒飲ませねー」


「文化祭の打ち上げでは笑い上戸だったのにな」


「寂しいんだろ…もう部室行っても一人だもんな」



 みんなの声を聞きながら、あたしは三年間を思い起こす。


 真音との出会い、頼子の結婚、みんなとの…出会い。

 たくさんの思い出を、『初めて』を経験できた。

 あたしは…幸せ者だな。



「るー?」


 浅井君があたしの顔をのぞきこむ。


「どないしたん?」


「ご…ごめん。ちょっとセンチになっちゃった…」


 あたしの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

 慌ててそれを拭いながら…


「あたし、高校に入るまでずっと女子校で…頼子がいないと何もできなくて…」


 小さく話し始める。


「…懐かしいな。靴箱で泡吹きそうになりながら、挨拶したんだぜ?」


 瀬崎君が、ほんのり涙目になりながら…みんなに笑いながら言った。


「そうそう…俺、隣の席だった。ぜんっぜん目ぇ合わせてくれねーの」


 宇野君も…懐かしむように…言った。


「…そんなあたしに、まさか男友達が出来て…バンド活動なんて…」


「おまけに、スーパーギタリストの彼氏まで作ってな。しかも、どんだけ揉めたら気が済むねんってぐらい揉めてな」


 浅井君が、鼻水をすすりながら言った。


「…ほんと…この三年間、冒険だらけで…」


「先輩…っ」


 涼ちゃんが抱きついてきた。


「これから、どんな辛い事があっても、大丈夫な気がする。一生忘れられない大切な思い出をくれて…」


 涙が止まらない。

 だけど…最後まで言いたい。

 あたしは、一度唇を噛みしめて息を飲んだ後。


「…本当に、ありがとう…」


 やっと…言い切れた。



 悲しくて悔しくて、辛い日々もあった。

 だけど、それに耐えられたのは…みんなが友達でいてくれたから。

 時には腫れ物に触るように、だけど背中を押したり押しまくったり…

 あたしを…強くしてくれた。



「…あのさー…」


 いつものようにビデオカメラを構えてた廉が、それをテーブルに置いて。

 前髪をかきあげながら、正面からあたしの目を見て。


「俺達がやったんじゃなくて、みんなで作ったんだっつーの」


 ぶっきらぼうに…だけど、笑いながら言ってくれた…。


 …最高の、笑顔だった…。



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 未成年の飲酒シーンが登場しますが、この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません

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