27

「おめでとー!!」


「やっ…?」


 教室に入ると、突然クラッカーが鳴り響いた。


「な…何?」


 あたしが驚いてると


「婚約」


 違うクラスの浅井君が、あたしの肩を揺さぶった。


「あ」


 真音たら!!



 あの後…


「どこに泊まるの?」


 って聞いたあたしに。


「どこやと思う?」


 真音は意味ありげに笑って、一緒にタクシーに乗り込んだ。

 そして…


「ただいま」


 あたしと一緒にうちに帰った…のはいいんだけど…


『ママはパパと大阪に泊まります。朝霧君によろしくね』


 ママの書置き。


「……」


 あたしが真っ青になってると。


「なんもせえへんって」


 真音はそう言って…あたしを抱きしめた。



 そして翌日、大阪から真音のお母様も来られて。

 あたし達は晴れて…婚約中という事に。



 パパは真音のピアノを聞いた時、ママを賭けてのコンクールの日を思い出して涙が出たそうだ。


 あたしは…真音の気持ちの強さに救われた。

 たくさん誤解をしてたのに、こんなあたしをずっと想っててくれてたなんて…



「厳しい親らしいやん。マノン、ピアノ習うてたんやて?愛の力やなあ~」


 浅井君の言葉に、教室中は冷やかしの声。


「良かったよ!!ここまで来れて!!」


 宇野君と瀬崎君までが来てて、あたしの頭をグリグリしてる。


「あのマノンの嫁になるんだぜ?もー俺一生自慢する!!」


「あ…あの…」


 みんなが騒いでる中、あたしは廉を探す。

 けど…いない。


「…廉なら、部室」


 あたしが廉を探してる事に気付いた宇野君が、そっと耳打ちしてくれた。


「…ありがと」


 あたしは、その騒ぎの中をこっそり抜け出す。



 ホームルームに遅れちゃうかなって思いながら部室に入ると


「…よお」


 廉は机の上に座って外を眺めてた。


「…おはよ」


「何。朝からお前がここに来るなんて、珍しいな」


「…うん」


「ああ、そういえば…」


 廉は机からおりると。


「おめでと」


 小さくそう言って、あたしの頭を抱えた。


「…浅井君に?」


 不思議と…頭を抱きしめられても、悲鳴は出なかった。

 むしろ…泣きたくなった。


「晋から聞く前に、あいつに会ったし」


「あいつ?」


「ダリアで俺が投げたストローの紙、返しに来やがった」


「…廉、知ってたの?あの日…」


「あいつがダリアに入ってくの、見たんだ。俺にとっては賭けの日だったな」


 廉の制服は、ちょっぴりタバコの匂い。


「いいよ、俺は。お前が幸せなら」


「…ありがと」


「ちょっと悔しいけどな」


 廉はそっとあたしから離れると


「幸せんなれよな」


 って、頬に…軽くキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る