14

「なあ、なんで最近クラブこーへんの」


 お昼休み。

 浅井君が、あたしの顔をのぞきこんだ。


「…ちょっと、放課後は忙しくて」


「忙しい?何してるん」


「あの…早く帰んなきゃいけないの」


「文化祭は?」


 浅井君の寂しそうな上目使いに、少しだけ胸が痛む。


 丹野君とは、あれから気まずいまま。

 クラスが離れてるから、あまり会うことはないけど。

 それでもたまに顔合わすことがあっても、あたしは、丹野君の顔を見ないようにしてる。


 …真音への気持ちと、自分のさらにダメな部分を再確認出来た…

 それについては、丹野君に感謝しないといけないのだけど…

 あの瞬間を思い出すと、今も胸が苦しくなるのは事実で。

 そうすると、もう…条件反射と言うか…

 丹野君の名前が出るだけで、息苦しく感じてしまう事もある。


 こんな状態、どうにかしなきゃとは思うんだけど…



「なんか、あった?」


「え?」


「最近、廉も元気ないし」


「……」


「るーの名前出したら、機嫌悪うなるし…」


「…あたしなんて、邪魔だと思ってたんじゃないかな、丹野君」


「お、おいおい、んなことないって」


「ううん、きっと思ってたのよ。だから…せいせいしてるはずよ?」


「るー、んなこと言うなや」


「ごめん、あたし職員室行くから…」


 言葉を出すたびに胸に痛みが走る。

 何とかこの話題を終えたくて、あたしは立ち上がった。

 浅井君に心の中で手を合わせながら、教室を出て小さくため息をついてると。


「なーに、ため息なんてついてんだ?」


 宇野君と瀬崎君が、嬉しそうな顔してやってきた。


「…何かいいことでもあったの?」


 あたしが問いかけると。


「あれ?るー、まだ情報入ってないのかよ」


 二人は嬉しそうな顔。


「…何?」


「ジャジャーン」


 瀬崎くんが、一枚のチラシを広げて見せた。


「Deep Red First Album…え?」


 あたしは、それを読んで、二人を見上げる。


「さっき音楽屋までひとっ走り行って予約してきたんだ」


「そうなんだ……ついにデビューなのね」



 あたしはそのチラシを手に、感慨深い気持ちになっていた。

 理解してあげられなかった真音の夢。

 自分の気持ちを優先して、真音を待たないと宣言してしまった。



「少なからずとも、知り合いがスターだもんなー」


「そのスターの彼女が同じクラスにいるって、すごいよなー」



 彼女じゃないのに。

 そう言いたくても言えない、勝手なあたし。

 自分では彼女じゃないって思ってるのに、この指輪は外せないなんて…。



 廊下で三人でじゃれあってると。



「…俺は、のけもん?」


 教室から顔をのぞかせた浅井君がそう言って。


 あたしたちは、大爆笑してしまったのよ…。

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