13
「で、結局説得できずじまい?」
「…ごめん」
お昼休み。
廊下で丹野君に呼び止められてー…浅井君の彼女について、問いかけられた。
「昨日、長い時間隣の教室にいたから…上手く話してくれたのかと思ってたのに」
「ほんと…ごめん…」
…言えない。
恋愛談義に花が咲いてた…なんて。
「すごくいい子よ?あっ、授業サボったりはしないようにって…それは注意したし」
「あー、もう、いいよ。俺が言うから」
「だっだめ」
「なんで」
「丹野君、乱暴に言いそうだもの。涼ちゃん傷付いちゃう」
「涼ちゃんねえ…」
はっ。
「ずいぶん親しくなったんだな」
「…気が合うんだもん…」
丹野君は大きくため息をついて。
「俺はマジなんだぜ?バンド」
って、あたしにすごんだ。
丹野君は、人気者。
長身だし、はっきりした顔立ちだし。
肩までの髪の毛も不潔っぽくないし。
今やこの学校に、彼を知らない人はいない。
学校どころか、ライヴがあたっちゃったもんだから…この界隈ではすっかり有名人。
このFACEは、第二のDeep Redとまで噂されている。
「おまえ、男のマジをどう思ってんだよ」
厳しい口調の丹野君。
「……」
あたしは、それに首をすくめるだけ。
なんだか、イライラしてるのかな。
いつもと、違う。
「夢なんだ」
「…彼女がいちゃ、できないこと?」
「そうじゃないけど、学校に目付けられると活動しにくくなるだろ?」
「……」
なんだか、納得いかない。
丹野君の言い分もわかるけど、それじゃ涼ちゃんの気持ちはどうなるの?
「なんだよ、拗ねんなよ」
丹野君が、あたしの肩に手をかけた。
「やっ!!」
こういう行為にまだ慣れてないあたしは、思わず丹野君の手をはねよけてしまった。
「んだよ…そんな、イヤそうに…」
「ち…違う。ごめん、あたし…」
「あー、そういえば初の共学で男慣れしてないんだったよな。忘れてた」
丹野君は、ぶっきらぼうにそう言いながら前髪をかきあげて
「あのマノンとつきあってるっつーぐらいだから、とっくに男慣れしてんのかと思ったのに」
って…
「…どういう意味?」
「色々経験させてもらって、女になってんだろうなって」
「……」
まばたきが、できなくなってしまった。
頭の中も、スーッと冷たくなってきて…
今…丹野君、なんて言った…?って…すごく、冷めた気持ちになった。
真音に色々経験させてもらって…?
どうして、丹野君にそんなこと言われなきゃいけないの?
…キツイ。
キツイ冗談だ。
…キツ過ぎる…。
『あのマノン』って…どういう事?
そりゃあ、色んな噂があったかもしれない。
…マノンだって、認めてたんだもん…
ナッキーさんも言ってた。
その…すごく…遊んでた…って。
だけど、真音は…あたしに対しては…違ってたもの。
あたしに対しては…
「悪かったよ。冗談…」
瞬きしない目からポロポロ涙がこぼれて。
それに気付いた丹野君は言葉を止めた。
「……彼の何を知ってるの?」
「……」
「ごめん、あたししばらくクラブ出ない」
「あ、おい…待てよ」
丹野君は、あたしの肩に触れようとして…やめた。
あたしは涙を拭うと、丹野君に振り向きもせず外へ出て、大きく深呼吸をしながら空を見上げる。
あたし…丹野君に言われて…気付いた。
真音は…あたしに対して、すごく正直だった。
出逢う前には色々あったとしても、あたしと出逢って…変わりたいって思った…って。
…あたし、バカだ。
あたしまで、真音の事…ずっと疑ってたなんて。
「ほんと…バカ…」
薬指の指輪に触れて…つぶやく。
真音…
…逢いたい…
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