12

「あたしをお探しですか?」


 放課後。

 浅井くんの彼女『早乙女 涼さおとめ りょう』さんを探してると、ふいに本人が部室の隣の空き部屋から顔をのぞかせた。



「あ、あー…」


 あたしが、しどろもどろしてると。


「ごめんなさい。あたしみたいなのがチョロチョロしてたら、気が散りますよね…」


 って、早乙女さんは頭をさげた。


「あ、そんな、気が散るなんて…」


「いえ…そうかなって思ってはいたんです。丹野さんも、何度も窓から嫌そうな顔して見てたし…」


「嫌そう…かな…丹野君は、元々ああいう顔なだけで…」



 口ではそんな事を言いながら。

 あたしは…目の前の早乙女さんを見ながら、少しだけわなわなと震えてた。

 なんて…なんて可愛い子なの!?

 ほっそりしてて、すごく色が白くて。

 後ろで一つ結びしてる髪の毛も、すごく清潔感があふれててー…

 まさに、守ってあげたくなるタイプ…!!


 それに、制服のリボンの下の方に、小さなお花の刺繍がしてある。

 この制服のリボン、大きいだけで花がない。って、大半の女子が何かワンポイントで飾りを付けたり刺繍を入れたりしてるのだけど…

 すごくセンスがいい…!!


 …ちなみにあたしは、自分でやって失敗するのが嫌だから…

 何も入れていない。



「あの、そのー…ね」


「はい?」


「なんて言うか…」


 早乙女さんはポカンとして、あたしを見て。


「もしかして、あたしの怪しい素行についてですか?」


 って、キッパリ。

 …するどい。


「うん…浅井くんには言えないんだけど、先生とかー…なんだか心配してるみたいで…ね」


「……」


 かわいい瞳が、曇ってしまった。


「好きな人と、一緒にいたいだけなのに…」


「…わかるわ」


「でも、先輩はすごいです」


「え?」


「彼氏、アメリカでしょう?あたしはそんな、離れるなんて考えられない」


「……」


 浅井君から筒抜けなのかな?

 つい、首を傾げて早乙女さんを見てると…


「あたし、今を大事にしたいんです」


 すごく…キッパリと、そう言われてしまった。


「今…」


「はい。高校一年生の、今。この瞬間って、本当に今しかないから。あたしの今を、晋ちゃんのために費やしたいんです」


「……」


 見掛けに寄らず…じ…情熱的だ…

 これなら、本当に…浅井君のためなら授業もサボっちゃうかも…


 でも、正直丹野君が思ってるような子じゃない気がする。

 人と関わるのが苦手だったあたしは、男性だけじゃなく『先輩』『後輩』と呼ばれる人も苦手だった。

 年齢が違うと考え方も違う。


 日野原に入って、宇野君達と知り合って、真音と出会って、真音と付き合い始めて、それは随分と変貌を遂げたとは思うけど、不安は否めなかった。


 だけど目の前にいる早乙女さんは、すんなりとあたしを受け入れてくれて…あたしはとても自然に話す事ができる。



「ね…座ろっか」


 あたしは空き部屋に早乙女さんを誘う。


「…いいんですか?部活…」


「うん。今日はいいの」


「うわあ。じゃあ、先輩の彼氏の話、聞かせてください」


「えっ…あた…あたしの彼氏…って…」


「遠距離における、気持ちの置き場について。是非、参考にさせて下さい」


「…あたあたし…のは…参考にならないかと…」



 そんな感じでスタートした、恋愛談義は二時間にも及び。


「涼ちゃん、運ばれたって聞いたけど…お姫様みたいな気分になった?」


「お姫様??う…うーん…気絶してたから覚えてないけど…でも、目覚めた時に、そこにいてくれたから…胸がキュンってしました。るー先輩は?どこで彼と出会ったんですか?」


「…友達と間違えて、話しかけたっていう…マヌケなキッカケ…」


「…どんまいです…」



 あたしは初めて…

 頼子以外の女の子と、恋愛についてを語った。


 すごく…


 楽しかった。



 あ。


 目的…果たせてない…。



 ごめん…丹野君。

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