11
「…彼女?」
「しっ」
丹野くんが、あたしの前に人差指を立てた。
スタジオに入ったのはいいけれど、浅井君が「ちょっと」って出てったっきり、なかなか帰ってこなくて。
スタジオの廊下にいると、丹野君のこの言葉。
「一年でさ、なんか五月の球技大会ん時に、晋が保健室に運んだのがキッカケとかなんとか」
「えっ…浅井君、そんなカッコいい事したの?」
「…カッコいいか?」
「だって…保健室に運んだんでしょ?」
「まあ…そうだけど…」
あたしは、一瞬の内に、浅井君が王子様のように思えた。
女の子を保健室に運んだ…なんて…
ああ、詳しく聞きたい…
「おい。聞いてんのか?」
あたしだって…真音の事、王子様みたいだ…って思った事あった。
本人にも、周りにも、とても言えないけど…
女の子は、誰だって一度ぐらい夢見ると思う。
王子様が迎えに来てくれる…って…
「おいってば」
少しウットリしてる所に、丹野君が距離を詰めて。
自然と一歩下がったあたしは、現実に引き戻された。
「……なんでしょう」
丹野君は一瞬眉をしかめた後。
「おまえ、晋の女とは面識ねーの?」
腕組みをして言った。
「だって…彼女がいるっていうのも今知ったんだもん」
「ああ…そっか。でも結構晋の周り、うろついてるぜ?」
「……」
浅井君の周りにいる女の子…
…浅井君、いつも男子といるから…イメージ湧かないなあ…
って……あっ。
「…もしかして、この前部室の外で待ってた?」
そう言えば、そう言えば、そう言えば…。
廊下に足を投げ出して座ってる子がいるなあ…って、少しだけ部室の窓から覗いて見たっけ。
「そう。髪の毛の長い女」
丹野君が、前髪をかきあげる。
「つきあってるの?」
「らしいぜ。けど、晋の奴、本気かどうかわかんねーなんて言うんだ」
えっ。
「…それって、すごく失礼じゃない?」
「だろ?ま、なんだかんだ言って好きなんだとは思うんだけどさ」
「それなら」
「でも、問題あり、なんだ」
「何が?」
「女の方が、かなり積極的」
「……いけ…いけいけない事…じゃないよね…?」
「そりゃー…いけなくはねーけどさ…」
驚いてしまった。
この前部室の前で見かけた女の子は、なんて言うかー…
守ってあげたくなるようなタイプで、おしとやかなイメージ。
浅井君に対して積極的って…
…付き合ってるとしたら…浅井君が、ぐいぐい引っ張るタイプに思えるけど…
「おまえさ、一度彼女と話してみてくれないか?」
「え?」
「晋には言えないんだけど、実は生活指導の山下から言われたんだ」
「何を?」
「晋のためなら、まさに何でもするってやつ?授業サボったり結構やるらしいぜ」
「…大胆…」
ああ…あたしの思い描いたイメージとは違うのね…
…でも、好きな人のためなら…って…そういう気持ちは、分からなくもないし…
それが出来てしまう彼女を、少し羨ましくも思った。
「それで、うちのバンドもその格好の引き合わせ場所を提供してるんじゃないかって疑われててさ。同好会解散なんて話もなくはないんだ」
「そんなことがあったの…」
「機会があったらでいいからさ。頼むよ」
「…うん…」
なんだか、かわいそう。
好きな人に会いたいだけなのに…
「おまえら、何しとんの?」
ふいに後ろから浅井君の声がして。
「あ、別に」
丹野君が、慌てて笑う。
「廉、るーに手ぇ出したらあかんで」
浅井君が笑いながら言うと
「それは責任持てないな」
って、丹野君は意味あり気に笑ったのよ…。
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