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「えー……できないよ…」


 あたし、超困った顔。


「そこを何とかっ!!」


 目の前で、浅井君を始めとして。

 ボーカルの丹野たんの君。

 ベースの臼井うすい君。

 ドラムの八木やぎ君が手を合わせてる。

 どうしてか…と言うと…



「めっちゃかっこええって。俺のギターとるーのバイオリンでのソロ」


「…かっこよくても、あたしにはできないの」


「なんでやねん。やってみな分かれへんやん」



『FACE』しか所属していない同好会なのに、空いてる教室を部室として貸してもらえてるあたし達。

 そこには、八木君が家から持って来たというドラムセットと、浅井君と臼井君がそれぞれ持って来たアンプもある。

 あと、ついでのように置いてある…学校のオルガン。


 …あたしは…そのオルガンを前に…


「おかん、ピアニストなんやろ?るーも弾けるんちゃうん?」


 浅井君にそう言われて。


「…カエルの子はカエルとは限らないのよ…?」


 うなだれて答えると。


「えっ、楽器なんも出来へんの?音楽家の娘やのに、なーーーーんも?」


 って……。


 いつもならスルー出来ちゃいそうなその言葉に、なぜかあたしはムッとして…


「…バイオリンなら、少し」


 って言ってしまって…


「ほー。なら、明日持って来て弾いて見してん」


 …乗せられた感じもしたけど…

『FACE』のメンバーを前に、ほんの…ほんの少しだけ、弾いてみた。



「だって…人前でバイオリン弾いたことないし…」


「今弾いたやん」


「い…今のこれって…曲って言うより、ただの音階…」


「なら曲弾いてくれよ」


「…やだ…」


 あたしが唇を尖らせてうつむき始めると、浅井君が指でちょいちょいってして、あたしを部室の隅っこに。



「…何…?」


「大丈夫やって。いやっちゅうほど練習したら、人前なんかどーっちゅうことなくなるって」


「…あたしには、ちょっと無理だと…」


「変わるんやなかったんか?成長するって言うてへんかったか?」


「う…っ…」


 宇野君!?

 瀬崎君!?

 それとも…浅井君には会った事ないはずだけど、頼子!?

 どうして…どうして、あたしの決意を浅井君が知ってるの!?


 …って…

 あたし、『変わりたい』って決意…ちょっと忘れてたかも。

 今、こうして浅井君に言われて…ハッとした。



「たっぷり練習して、ライヴして…それをマノンに報告」


 最後の方は小声だったけど。

 あたしは見る見る真っ赤になってしまった。

 なんでこんな小声で言うのよっ。

 かえって恥ずかしいじゃない…!!



「マノンも感激するんやないかなー。るーがバンドしてるっちゅうて」


「…どうして感激?」


「マノンの気持ちわかるようになるやん。ギターのことも、だいぶ覚えてきたし」


「……」


「な?やってみよ?」


「…やっぱ、だめ」


「だーっ、頼むから」


「だって…」


「マノンも、惚れなおすんちゃう?るーにこんな特技がっちゅうて」


「……」



 どうも、あたしは真音ネタに弱い。

 あたしの中では…一度強制終了させてしまった想いだけど…

 真音は、まだ継続させてくれてて…

 ……それに応えたい…ところなのだけど…

 まだまだ臆病なあたし…



「な?」


「……」


 しばらく黙ったあと。


「…でも、かなり練習しなきゃ、ついてけないかも…」


 あたしが、そうつぶやくと。


「明日から、みんなでスタジオも入ろ」


 浅井くんは、みんなを振り返って、そう言った。


 …え?



「よし。加入決定な」


 丹野君が手を差し出す。


「え…っ…えっ?」


「よろしく」


 続いて…臼井君も。


「は…は…?」


「絶対楽しいに決まってるから」


 八木君も…


「え…えええと…あたし…は…」


 OKなんて言ってなーい!!


 あたしがオロオロしてると言うのに、四人は満面の笑みで。

 浅井君が無理矢理、あたしの手をみんなの手とギュギュッとつなぎ合わせた…!!


 う…っ…

 うわああああああああ!!

 手…!!

 手ーーーーーっ!!



「よーし、めっちゃ盛り上がって来たでー!!」


 浅井君は楽しそうに、そう言ったけど…


「……」


 あたしは…


「え?あれ?るー、なんで?」


 ヘナヘナと、そばにあった椅子に倒れ込むように座って、机に突っ伏したのよ…。

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