09

「頼子、おめでただって?」


 高校二年生になって三ヶ月。

 クラスはそのまま持ち上がり。

 またもや後ろの席にいる宇野くんが、授業中小さな声で言った。


 そのニュースは、学校中を賑わした。

 ただでさえ、突然の学生結婚。

 しかも生徒会長だった頼子は、ある程度の形をちゃんと作って、副会長にきちんと引き継ぎをしてからの退学だったけど…


 それでも、やっぱり相当なゴシップとなってしまった。

 今思えば、結婚は早くから決まってたんだろうな…

 毎日会議会議って…

 頼子は、ちゃんと準備をしてたんだ。



「うん。11月に生まれるんだって」


「あいつが母親ってのもなー…なんかイメージが」


 一緒にライヴで飛び跳ねてたイメージしかないのか、宇野君の中での頼子は『じゃじゃ馬』らしい。



「でも、すごく頭のいい子が生まれそう」


「それは言えてる」



 同級生の男の子となら、なんとか普通にしゃべれるようになったあたしは、なんと、このたびクラブに入った。

 浅井くんの執拗な勧誘があったのも手伝って「軽音楽同好会」に入部してしまったのよ。

 その同好会には、浅井君が組んだっていうバンド『FACE』も…って言うか…同好会に所属してるバンドは『FACE』だけ。

 だけどその『FACE』、何度かダリアでライヴをしたみたいなのだけど…

 大当たり。だそうで。

 もしかしたら念願のプロデビューも夢ではないかも…なんて。


 浅井君が自分で言ってるだけだから、分かんないけど。

 Deep Redの大ファンである宇野君と瀬崎君が言うには、『FACEも結構イケてる』そうだ。



 だけどー…

 何となくだけど、世の中はフォークソングかポップな歌謡曲が主流なイメージ。

 真音のメジャーデビューが国外で…って言うのは、バンドは日本では受け入れられないのかな…って思った。

 だって…Deep Redは、全歌詞英語だし…


 ヒットソングを紹介する番組に、バンドもチャートインはしているけど…

 Deep Redとは、毛色の違うバンドばかり。

 …音楽って、ロックとかハードロックとかって言っても、幅が広いんだな…って思った。




「るー、そういえば文化祭でバイオリン弾くって?」


「…誰が言ってた?」


しん


「もー…まだOKしてないのに…」


「あはは、あいつらしいな」



 あたしは、同好会に入って。

 とりあえずー…楽器の手入れとか、雑用係をしている。

 時には、ママにお願いして曲の流れを一緒に考えたりとか…自分で楽器をいじったり、歌ったりはないんだけど。


 それでもママは、あたしが音楽に興味を持ったのが嬉しいらしくて、全然お金にもならない学生の頼み事を、喜んで引き受けている。



 浅井くんはあたしに。


「おまえは音楽センスあるんやから、なんかせえよ。もったいない」


 って、ムリヤリ同好会に引き入れた。


 入ってみると、みんないい人だし楽しいんだけど、楽器には全く興味がわかなくて。

 だけど、しいて言えば、昔やってたバイオリン。

 懐かしくて、少しだけ弾いてみたところ。


「すっげえ。今度のライヴ、うちのバンドで一緒に演ろや」


 って、浅井くんに言われて。

 まだOKもしてないというのに、あたしが文化祭のステージに立つ。って噂だけはまことしやかに囁かれているらしい。



「マノンに言わねーの?クラブに入った事」


 真音と距離を置いてる事、宇野君達は知ってる。

 隠し切れずに告白してしまった。

 アメリカに行く前に…会いに来てくれた事。

 そして…指輪をもらった事。

 あたしは終わらせたつもりだったけど…真音は、そうじゃない事。



「んー…だって、入っただけで何もしてないし…」


 あたしからは全然連絡を取っていないけど、真音からは毎月手紙が来る。

 先月は、ナッキーさんと一緒の写真を送ってくれた。

 真音を試してるわけじゃない。

 だけど、まだ自信が持てない。



 あたしにふさわしい男になる。って宣言してくれた真音。

 …あたしは…?

 真音にふさわしい女の子になれる…?


 右手の薬指に光る指輪。


 この指輪の魔法は、いつになったら効くんだろう…。

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