05

「えっ!!やっぱメジャーデビューなんだ!?」


 目を丸くして驚いた後。


「やったな~!!Deep Redがこの街から羽ばたく時が来たぜ!!」


 そう言って、ハイタッチをしてるのは…宇野君と瀬崎君。


 今日は…二人に誘われて、初詣に来ている。

 本当は断りたかったのだけど…

 たぶん、クリスマスがどうだったか…気になってるんだよね…?


 二人は、『初詣に行こう』って電話をくれた数分後。

 玄関の前に立っていた。


 頼子抜きで、男の子二人と初詣なんて…って思ったけど…

 異例の事態に喜んだのは、ママだった。


「行って来なさい。さっきお話したけど、いい子達じゃない」


 ママはすっかり…宇野君と瀬崎君と打ち解けてて。

 パパがいないのをいい事に…あたしを外に追いやった。



 …宇野君と瀬崎君は…本当にいい人。

 頼子がいなくても、楽しく学校に通っていられるのは…二人のおかげだって言ってもいい。


 二人…


「…浅井君は?」


 そう言えば、転校して来てからは宇野君達にベッタリな浅井君がいない。

 思い出したように問いかけると。


「あいつ、バンド組んでさ。忙しいらしい」


「……へえ…」


 …バンド…


 浅井君は真音の幼馴染だし…

 ギターも、真音に影響を受けて小さな頃から弾いてたって言ってたから…

 バンド組んだっておかしくはないけど…

 …バンド…

 何だか今は…あまり考えたくない事のような気がする。



 三人で歩いて、神社に行った。

 お賽銭をして、願い事…


 …願い事…



「……」


 …ダメだ。

 あたし…

 心配かけるって分かってるけど…


「…るー?」


「…ごめん…」


 あたしは人混みをかき分けて、神社の境内から離れる。



「こんな所で急に離れたら、迷子になるって」


 追って来た宇野君にそう言われて、反省…だけど…


 どこか他人事のように思ってしまってる、真音との別れ。

 あたしはそれを、頼子との電話でも話せず。

 こうして誘ってくれてる宇野君と瀬崎君にも話せないまま。


 口に出してしまえば…きっとそれは実感として、現実として…

 また、あたしを苦しめるのだと思う。


 好きな人の夢を理解出来ない。

 あたしを優先して欲しいと思う我儘。


 …あたしがいるのに…他の女の人と…



「…何となく察しはつくけど…クリスマス、何かあった?」


 境内から少し離れた場所の石段に、あたしを挟んで座って。

 瀬崎君が遠慮がちに言った。


「…うん…」


「…そっか…何があったか…は、聞かない方がいい?」


 宇野君…優しいな…

 きっと、頼子にも頼まれてるのだと思う。

 あたしが悩んでたら、相談に乗ってやって。って。



「…あたし…」


「うん」


「…やっぱり、あたしには…荷が重すぎたな…って…」


「え?」


「初めての恋が、メジャーデビューするような人って…ね…」


「……」


 宇野君と瀬崎君は、顔を見合わせて。


「もしかして…別れたのか?」


 両サイドから、同時にそう言った。


「…だって…」


「……」


「アメリカに…行くって…」


「えっ!?」


 この二人、双子じゃない?って思うほど…息ピッタリ。

 あまりにも同時に発せられる声に、あたしは思わず小さく笑ってしまった。



「本当なら…良かったね、って…おめでとう、って…言わなきゃいけない所だよね…」


「……」


「だけどあたし…」


 あの時、あたしは…

 真音の夢が叶う喜びより…


「…ガッカリしちゃったの…」


 近くにいても…遠く感じてた真音が、アメリカに行ったら…

 今よりもずっと遠くなるんだ…って。


 一度も見に行けなかった映画。

 春には行こうって言った遊園地も。

 結局、あたしのささやかな夢は何も叶えられないんだ…って。


 何より…


「あたしって…小っちゃいな…って…もっとガッカリしちゃった…」


 二人は何を言っていいか分からない様子で。

 必死で言葉を探してるみたいだったけど…


「…俺、るーがガッカリした気持ち、分かる気がする」


 そう言ってくれたのは…瀬崎君だった。


「…え?」


「だってさ…頼子の結婚式で見たマノンとるーのツーショット、すげーハッピーだったのに…あれ以降、るーはいつも元気ない事の方が多かったじゃん?」


「…そ…そうかな…」


「デートのキャンセル続きで」


「……」


 あたしが言わなくても…真音と仲のいい浅井君が、何かと情報を持ってて。

『明日デートらしいやん~』ってからかわれて。

 その翌日には『デートどうやった?』って聞かれて。

 正直に、キャンセルだったの。って言うしかなくて。


 …みんなの真音の印象って、きっと…

『釣った魚に餌はやらない』って…それだと思う。



「でもさ…」


 それまで黙ってた宇野君が、顔を上げて言った。


「離れるからこそ、気付く気持ちってあると思うんだけど」


「おー…誠司がカッコいい事言ってる…」


「るせっ。例えばさ、頼子とは離れても、寂しいって思いながらも、ちゃんと親友って気持ちは変わらないままだろ?」


「……うん」


「それなら、マノンが向こうに行ったって、好きって気持ちが自分の中にある限り、諦めちゃいけない事ってあると思うけど」


「……」


 宇野君の言いたい事は…分かる…気がするのだけど…

 どうしても、口に出して言えない…

 …真音が、他の女の人とも色々あった事。

 真音を心から信用出来ないあたしと…考え方も世界も違う、って現実を突きつけられた事。



「…おみくじ引かない?」


 話題を変えたくて、立ち上がる。


「あ?ああ…」



 それから三人でおみくじを引いて。

 三人とも、小吉で『普通~!!』って笑った。



 …笑った。

 笑わなきゃ…


 自分がダメになる気がした…。

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