第2話 恋心サプリメント

 やあ、久しぶり。恋愛銀行のアイザワだよ。

 ケンカしちゃったみたいだね。


 まったく、ちゃんと女の子を気遣ってあげないとダメじゃないか。

 なんだい不服そうな顔して。部外者が説教すんな、とでも言いたいのかい?


 あぁそう。悪かったよ。そうやって拗ねないでくれ。

 実はここに来る前に、彼女のところへも行ってきたんだ。

 試供品として「恋心」の錠剤サプリメントを少しばかり渡してきたのさ。

 そろそろ効いてくるハズなんだけどなぁ。


 あ! ほら、電話だ。こっちが先に謝って仲直りするんだぞ。




 どうだい。彼女の様子がケンカした時とは違ったろう。


 ははは、妙にドキドキしてたか。それが恋心ってもんだ。

 恋愛銀行を使えば、いつでも瑞々しい恋愛が出来るってことだね。

 そうそう、そういえば。君はまだ彼女と体を交わして無いみたいだけど。


 いや、違うって。そういうつもりじゃ……。ちょ、怒らないでくれよ。

 悪かった。でも聞いてくれ。恋心をうまく使えば、彼女との距離は一気に縮めることが出来る。

 それにね、その先があるんだ。君たちより年上のカップルに聞いた話なんだけどさ。

 二人でベッドに入る前に、恋心を予め引き出しておくだろう。さっき君は彼女の様子を「妙にドキドキ」なんて表現していたけれど、そのドキドキが秘め事をより良いものにしてくれるってわけ。媚薬みたいに低俗なものとは違うよ。

 ほら、そんな顔しちゃって。興味が無いとは言わせないぞ。


 ん? ほうほう、良い質問だね。

 安心してくれていい。お金は一切取らないよ。良い機会だし、このビジネスの仕組みを説明しようか。

 僕らが恋愛銀行を運営しているのは、恋心を集めるためなんだ。恋愛銀行のサービスを提供する代わりに、引き出し手数料としてほんの少しずつ恋心を集める。そうして恋心の錠剤サプリメントを作り、他の世界で販売するのさ。


 あぁ、そうだね。この世界で売っているのを見たことが無いのは当然だ。

 この世界は神々の世界と離れすぎているから言語や通貨がバラバラだろう。神々の世界に近い世界群では通貨が統一されてるんだ。だからその通貨を稼ぐのに、この世界では意味が無い。

 君が持ってるお札も、僕らにとっちゃただの紙切れってことだよ。

 君は恋愛銀行のサービスを受ける。僕らは手数料として恋心を少し頂く。

 ウィンウィンの関係じゃないか。


 ったく、まだ不安っていうのかい?

 なら仕方ないね。デメリットも説明させてもらおう。

 以前に僕の同僚が担当したカップルだった。

 男性は恋愛銀行を気に入ってくれて、彼女も恋人からの勧めでしぶしぶ口座を作ったんだ。でも、その女性は恋愛銀行を使うのが恋に思えて、耐えられなかったという。恋心を預け入れたものの、一度も引き出すことはなかった。

 男性ばかりが恋心を募らせては貯め、それはもう信じられない額になっていたよ。限界を感じてしまった彼女は別れを持ち出したんだが……。

 彼氏は激昂してコツコツ貯めた恋心を一気に引き出した。恋心の暴走だ。

 歪んだ恋愛感情は彼氏の独占欲を掻き立てて、こう思わせる。

 「彼女を殺せば永遠に自分のものになる」とね。

 悲痛な事件が起こってしまったんだ。

 この頃は引き出し額の上限設定もなかったし、サポート体制も十分ではなかった。我々営業部には口座数至上主義の風潮もあったんだ。あってはならないことを引き起こした責任は重い。


 いや、安心してくれ。様々な課題を修正し、その事件を最後に問題は起きていないよ。


 おっと、今日は本社で会議があってね。

 君が彼女とケンカしちゃった様だから駆け付けたけど、時間が無いんだ。そろそろ御暇させてもらうよ。

 君が彼女と話し合って、二人で恋愛銀行を使ってくれることを願ってる。

 決意が出来た頃にまた来るからね。

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恋愛銀行 三国 碧 @Heckey

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