恋愛銀行

三国 碧

第1話 行員のアイザワさん

 やあ、迷える子羊くん。今の恋人とは上手いこと付き合えているかな?


 そうかいそうかい。そりゃあ良かった。

 そこで提案なんだけどさ、その幸せな関係を恋愛銀行ウチに預けてみないかい?


 いやいや、別れろってんじゃあないよ。例えばこの真夜中、君は彼女と会いたくてしょうがないとする。実際そういう夜もあるんじゃあないかい? でもあっちは寝ているだろうし、気を悪くして嫌われてしまうのは最悪だ。そこで恋愛銀行に、君の抑えきれない恋心を預け入れるのさ。


 ああ、僕かい? そういえば自己紹介がまだだったね。僕は恋愛銀行の行員さ。名前はアイザワっていうんだ。よろしく。

 それで、話を戻すよ。

 預けてもらった恋心は、好きな時に引き出すことができるんだ。引き出し手数料で少しばかり頂くけど、まあ気にする程の量じゃあない。


 何のメリットがあるかって? まあまあ落ち着いて聞いてくれよ。

 倦怠期、なんていうのがあるだろう。二人の関係が新鮮さを失ってくる頃だ。せっかく出来た恋人が、倦怠期を乗り切れずに別れちまったんじゃあ勿体ない。

 こういう時に銀行からフレッシュな恋心を引き出すんだよ。


 ええ? あぁ、そりゃあそうだ。倦怠期を乗り越えることも出来ないようじゃあ、恋人として失格かも知れない。でも君、今の彼女が出来るまでずいぶんと苦労したそうじゃないか。

 恋人もちってのは立派なステータスだぞ? 恋愛に不得手な君がこれから彼女を失ってみろ。辛い日々になりそうじゃあないか。

 彼女の方にも、僕から銀行の利用を持ち掛けてみるよ。二人で口座を作って、お互い恋心に不安が生まれたとき、引き出せばいい。うまく使えば彼女は一生君のもんになるんだぜ。


 何だって? まったく心配性だな君は。


 あぁそうかい。分かった、分かったって。

 仕方ないね。怪しさ満点ってのは認めるよ。ネットで検索したって載ってないし、政府に認可されたビジネスでもない。だってさ、ウチの銀行は神々の世界に本店を置く、ワールドワイドな組織なんだ。こんな末端の世界にまで支店を置いてたらキリが無いよ。

 だからこうして営業に来てる訳だな。ちなみに、この世界では五万七千くらいの口座が作られているね。全部僕の顧客さ。多くのカップルが幸せにゴールインしている。夫婦になってからも利用してくれるお客様だって少なくない。

 まあ突然信じろっていうのも悪いから。

 今日はご紹介ってことで。また君が恋に迷った頃に現れるよ。


 そうそう、こっそり僕の写真を撮ってたのは気づいてたんだ。ちゃんと撮れてるか見返してみることだね。

 僕は写真に

 じゃあ、また今度ね。

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