終焉
ともも
第1話
「私はもう死にたい」
彼女はそう呟いた。
服が散乱した僕の部屋に凛とした彼女の声は
四方まで響き、反響し、
そして僕の鼓膜をしっとりと震わせた。
「死にたいと、言ったの」
彼女はもう一度告げる。
僕に伝えたのではない。これは
自分の心に再確認をしたのだ。
真面目で不器用な彼女は自分の心にも
ダブルチェックを行うのかと
少し苦笑が漏れそうになる。
僕はどうしてあげるのがいいのだろう。
どんな顔をしていいのかわからない僕の瞳は
真っ暗闇で彼女の姿を探した。
純白のシーツを身にまとった彼女は
それはまるで婚姻の衣装のようで
天使がまといし天の羽衣のようで
月の光が反射した白は
漆黒が包む部屋で怪しくぼんやりと光り
また彼女の輪郭を奪っていく。
どうして、僕は声にならぬ声で
ボヤけた存在に尋ねる。
怪しく光る白は
吸収した光を失いつつあった。
彼女は少しずつ一歩一歩
闇に帰って行く。
「 」
もう、僕には届かなかった。
彼女の旋律は
再び僕の鼓膜を震わせることはなかった。
白と黒が支配するこの夜は
朝の陽射しを浴びて
7割の白、2割の黒、そして、1割の赤を
この世に生み出していった。
はっきりとした輪郭、
聖者と思えぬ青と肌色。
そして拡大し続ける赤。
僕は赤に口づけをする。
それは彼女への償い、そして彼女への別れの言葉。
美しくありたいと願った彼女は
もうこの世にはいない。
美しくありたいと願った彼女は
命の灯火が消える瞬間を
夜の闇に葬り、美しく散った。
こうして、また新しい朝が来た。
終焉 ともも @GoodbyeHappyTurn
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