第10話 この学校では俺の立ち位置はスクールカースト最底辺だ
入学から既に3ヶ月。
若干、毛色の違う授業はあるものの、基本的には平和で至って平穏な高校生活を俺は送っていた。
うん。普通だ。普通のはずだ。両脇に美人さんと可愛いロリっ娘が常に居る以外は。
そして彼女達と接しているおかげで誰1人として俺に友達が出来なくても、うん、普通だよ。こんなのは普通さ。
俺は普通と連呼しているが、Eクラス自体は他のクラスに比べて普通以下に見られている。
スクールカースト的にエリート集団である特待生の所属するSクラスが最も上位に位置し、ゴルドー神の加護を授かった者がAクラスとなり、物理、魔法に関わらず戦闘系加護を授かった者がBクラス。回復系の加護を授かった者はCクラスで支援系加護を授かるとDクラスの所属となる。
そしてEクラスはそれ以外の学校側としては有用と考えられていない加護を授かってしまった落ちこぼれクラスという扱いになっていた。
そんな中にあって俺達3人は加護を授からなかった“神から見放された者”という事で、落ちこぼれ集団の中でも更に底辺、スクールカーストで最底辺に位置しているらしく、誰も最初は声を掛けてこようとはしてこなかった。
だが、体育の時間に行われる戦闘技能授業――いわゆる格闘技や武器を使った戦闘訓練で、ユカリさんは剣術を学んでいた事が功を奏し、加護を手に入れて強化された身体能力の差を技術で埋めてその実力を皆に見せつけた。その容姿も相俟って注目を集めている。
そしてミサキさんは運動の方は苦手だが、記憶力に優れていて暗記問題がメインの座学の成績は優秀。先日行われた学期末テストではSクラスを除いて学年4位の好成績を修めていた。こちらも見た目と相俟って注目され始めている。
2人のスクールカーストは既に底辺を脱出して、日に日に上昇しているだろう。
その証拠に彼女達に話し掛けてくる者は増えて来ている。
それに対し俺は至って普通だ。
元々俺は運動も勉強もそれなりだったし、特別イケメンという訳でも無い。
一応、加護を持っていない事になっているので運動時も力を加減しているし、流石に戦闘技能授業の手合わせで“
いや、普通といったが、それは一般的な学校の場合の普通であり、俺がそう思っているだけの話。
はっきりと言ってこの学校での俺の立ち位置はスクールカースト最底辺だ。
目立たないようにしているのでそういう評価で仕方が無いと思うし、俺も今の所はそれで構わないと思っている。
けれどそんな成績も容姿もパッとしない俺に注目度がウナギ登りの美女と美少女が好意を持ち、常に寄り添って一緒に行動しているのだ。
そんな訳だから男子からは僻みと妬み、女子からは何か弱みを握って彼女達を従わせているんじゃないかと思われているのか侮蔑の視線を向けられている。
誤解を解こうにも俺の言った事は誰も信じちゃくれない…というか聞く耳を持たないし、ユカリさん達が言っても言わされているだけと思われて、相手にもされない。
色々と誤解はあるものの、俺だって彼女達が俺を好きだという事を未だに信じられないのだ。周囲の人間が信じられないのも無理は無いだろう。
だけど、事実はちゃんと受け止めないといけないし、彼女達の思いも受け止めなきゃいけないとは思っている。とはいえ、どちらを選ぶかなんて事は未だ決められないんだけど。
おっと、ちょっと話がずれたが、まぁ、そんな状態なものだから、友達が出来ないどころかクラスメイトとさえ、まともに交流が出来ていない。
クラス内では浮いていて孤立しているといっていい。無視という名のイジメという訳だ。
けれど1ヶ月もそれが続けば否が応でも耐性が付くというもの。慣れとは恐ろしいものだ。今ではこの状況を普通に思えている自分がいる。それゆえに俺の高校生活は普通なんだ。
まぁ、彼女達が俺から離れていかないから孤独感を感じないというのもあるのだけど。
ただ欲を言えば、せめて1人くらいは男同士でしか話せないよう愚痴とかを言える男友達が欲しい所だよなぁ。
というか日本人なら集団意識みたいな感じに右に倣えで無視を決め込む気質があるので分かるのだが、留学生までそれに便乗しているのは郷に入っては郷に従えの精神でも皆持っているのだろうか?それとも俺が知らないだけで外国ではこれが普通なのか?
というかそもそも日本語が通じているのだろうか?
「なぁ、そういえば、今更だけどさ。この学校の授業って基本的に日本語だし、現国とか古典とかはあるのに外国語の授業って無いよな?なんでだ?それに留学生もちゃんと日本語を理解してるみたいだし、もしかしてここに入学する条件って日本語が出来る事が前提なのか?」
今日の授業を終え、買い出し後に寄ったハンバーガー屋で、俺は3ヶ月も経って今更ながらの疑問をふと抱く。
「アハハハッ!ユウキってば、ホントに今更。留学生と喋ってたらすぐに分かると思うんだけど?」
ミサキさんがポテトを摘まみながら笑う。
いや、そりゃ、ミサキさんは可愛い上に頭も良いって事が分かったので色んな人から声を掛けられているんだろう。
なんでも既に別のクラスや上級生など10人くらいから告白もされているらしい。全て俺を理由に断っているので、Eクラス以外でも最低10人は俺を敵視している奴がいる事になるが、まぁ、それは別にいいや。元々味方が殆ど居ない状態なんだし。
彼女に告白してきた中には留学生も含まれていたらしいし、Eクラス内の留学生とも彼女は普通に喋っていたのを見ている。
だが俺は他クラスどころか同じクラスの人とも殆ど喋った事が無い。留学生となんて会話は皆無だ。
自分で言っててちょっと虚しくなるが、会話が無いのでミサキさんが言うような事は分からない。
「このアスガリアでは自動的に私達が理解出来る言語に変換されているようなのです。相手が英語で喋っていてもユウキさんには日本語に聞こえ、逆にユウキさんが日本語で喋っていても相手は自分が理解出来る言語に置き換わって聞こえるそうです。ですので例えば英会話の授業をしたとしても、英語が主言語の人にしか英語に聞こえないんですよ」
俺がミサキさんに尋ねる前にユカリさんが分かりやすいようにそう説明してくれた。
「そうそう。だからアタシの口元をよ~く見ててね♪」
ミサキさんに言われて俺は彼女の口元を見る。
リップでも塗ってあるのか、彼女の唇は艶めかしいくらいの艶があり、ちょっとドキドキする。
「ユウキ、
艶めかしい唇から紡がれた言葉に俺の心臓が跳ね上がる。
ただそんな状態でも俺は分かった。
俺の耳には「愛してるよ」と聞こえたが、彼女の口は「アイ・ラブ・ユー」と動いていたのだ。
理屈は分からないが、英語が日本語に勝手に翻訳されて聞こえたのだ。自動翻訳機も真っ青である。
俺はそんな事を真っ直ぐに言われてしまって真っ赤だが。
「ミサキさん。抜け駆けは無しですよ!」
「えぇ~、こんなの抜け駆けの内に入らないって~。それじゃユカリんも今言っちゃいなよ!それでおあいこでしょ?」
「え……そ、それは……あ…あ…あい………って、こんな所じゃ恥ずかしくて言えません!!」
ユカリさんの頬を赤くして恥じらう姿は、普段とのギャップ差でドキリとさせられる。
クラス内で孤立する事には慣れてしまったというのに、2人の全く異なった魅力には3ヶ月経った今でもドキドキする。
どれくらい過ごしたら慣れるのか、それともこのままずっと慣れないのかは分からないが、実の所、こういう雰囲気は悪くない。正直に言えば楽しくて幸せを感じるくらいだ。
クラスに馴染めなくても彼女達がいるだけで十分な気になってくるのだから、現金なものだ。
彼女達の存在がなかったら俺はもしかすると、イジメに耐えられなくて退学していたかもしれないな。そう考えるとユカリさんとミサキさんには感謝してもしきれないな。
* * * * * * * * * *
「――もうすぐ夏期休暇に入ります。ですが、1年生の皆さんには特別講習が課せられます」
夏休み前のだらけた雰囲気の中、いつも通りの連絡事項だろうと朝のホームルームでの宗村先生の言葉を聞き流していたのだが、聞き逃しちゃいけない単語が耳に入って来る。
「休暇明けからは必修科目に外周探索授業が追加されますが――」
探索はこの学校の本分となる授業だ。いわゆる街の外に出て、探索技術を学ぶのが目的となる。
外周探索授業はその名の通り、遠出はせずに比較的安全な街の周囲を探索する授業である。薬草の採取方法や狩りの仕方などのサバイバル技術をはじめ、時にはモンスターを倒す事も内容に含まれている。
戦闘技能授業は受けているが、あれはあくまで対人戦だし、木剣を使った訓練でしか無い。
戦う相手は弱いモンスターなので、それ程心配は無いだろうが、信徒ならばもし死んでも生き返られるので、実戦を積ませる事が目的なのだろう。
だが俺も加護を持っていても、あの日以降ジジイも猫耳も姿を現さないので、生き返れるかどうか尋ねることが出来ていないので分かっていないし、試す事も出来ない。ユカリさんとミサキさんに至っては死んでしまったら完全に生き返る保証が無い。
つまり俺達3人にとって探索や実戦演習は本当に命懸けの行為なのだ。
なのでダラけていた気持ちを引き締める。
「その為の事前準備講習となります。これはAクラス以下合同で行いますので、皆さんも必ず出席して下さい」
地球時間ではゴールデンウィークにあたる時期だが、ここの生徒で帰省する者は俺を含めて余程の事が無い限り居ないだろう。
夏期休暇は30日あり、前半に今回の特別講習が5日間行われ、後半の10日間には夏期集中授業がある。つまり集中授業を履修している場合、休みの半分が潰れる訳だが、それでも15日残る計算になる。だがもし地球へ帰省した場合は時間の流れが違う為5日しか無い事になってしまう。
それならばアスガリアに残って15日間を休む方が断然に良いからだ。
それに宿題は無いが、休み明けにはテストも実施されるので、勉強出来る時間は多いに越した事は無いというのもある。
「この特別講習ですが、基本的に4人1組のパーティー単位で行動して貰う形となります。ただこのクラスは……」
言い淀んでから宗村先生が視線を向けた先には俺。
どうやら宗村先生も俺がこのクラスで1人だけ浮いている事に気が付いていたようだ。結構、あからさまに無視されているので気付いているのも当然か。
ちなみにA~Dクラスは各クラス毎に加護の能力が分かれている為、バランスを取る意味で各クラス1人ずつが集まってパーティーを作るらしい。Eクラスが除外されているのは、使えない落ちこぼれ集団と見做されているからだ。
Eクラスの人数はちょうど20人。
そして4人1組だとすると、ユカリさんとミサキさんはたとえ俺が嫌だと言っても同じパーティーになるのは確定なので、それ以外に誰か1人を迎えないといけない訳になる。
つまり俺はこのクラスからパーティーを作れずにあぶれた人物と組まなければいけないという事になる。その人物が俺を受け入れられるかは別問題として。
ただ一応、尋ねておく。
「先生。絶対に4人じゃないと駄目なんですか?例えば5人とか3人とか?」
「はい。街の外は4人以上のパーティーでの探索が基本となります。これは知識も経験も少ない皆さんの安全を確保可能な最少人数ですので、3人以下では探索許可が下りません。5人でも構わないのですが、これは授業ですので、他の生徒との平等性を考えて4人固定となります」
既にクラス別けの段階で平等性もあったものではないと思うのだが、4人1組は絶対のようだ。
俺の質問が終わると周囲がザワつき始める。
まぁ、それも当然だろう。
こいつらからしてみればクラスの中から誰か一人を俺への生贄にしなければいけないのだから。
とはいえこればかりは俺1人ではどうしようもない問題だ。
この3ヶ月に俺の方からちゃんと交流を持とうと話し掛けたり、遊びに誘ったりしていたのを、皆の方が聞こえない振りをしたり、無視したり、適当に相槌を打つだけで取り合わなかったりし続けてきたのだ。
直接的な暴力によるイジメに発展しなかったのは、クラスに暴力的なリーダー格といえるような人物が居なく、またEクラス自体が他のクラスから同じような扱いを受けていたからだろうと思う。
まぁ、後はいつもユカリさんとミサキさんが俺にべったりだったので手を出しにくかったというのもあるかもしれない。
「特別講習開始までには1週間ありますので、それまでに皆さんで相談してパーティーを組んだら、端末からパーティー登録をして下さい。2学期から行われる外周探索授業では登録したそのメンバーで今年度の授業を受けて貰いますので、宜しくお願いします」
宗村先生のその言葉が更に周囲のざわめきを拡大させる。
特別講習の5日間だけならば辛抱強い人なら我慢も可能だろう。だけどそれが今年度ずっととなるとまた異なってくる。
まぁ、何にせよこっちから指名する訳にもいかないので、俺としては待つ事しか出来ない。
たった1人の犠牲者が誰になるのかを。
異世界ハイスクールライフ ~課金厨をぶっとばせ~ 龍神雷 @tatugami_azuma
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