決意と忠義


 一瞬にして空気が凍る。張り詰めた空気の中、師匠は伸びをしながら言った。



「んー、ノア達はあの村出身だったか」


「あの村って、どういうことなのよ。何かやらかしてるのかしら?」


 あの村でどこなのか通じるんだね。そういえばなんて名前だっけ。あれ、自分の暮らしてた村なのに名前が出てこない。なんでだろう、どうして今まで、気にしてこなかったんだろう。


 得体の知れない怖さが徐々に広がっていく。


 真っ青で震えているだろう私の様子を見たアレンが尋ねる。



「ノア、あの村の名前わかるか?」


「それが、わからなくて……え? どうしよう、すごく怖い」


「もしかしたら何かの術に、かけられてるのかもしれないな。むやみには解いたりしない方がいいだろう。村の名前は言うな」


「わかったっす」



 ずっと黙っていたメーアが口を開いた。


「……せめてあの村がなぜ恐れられているか、教えてほしいのよ」


「フッ、随分と人が悪いなメーアは」


「メーアは人じゃなくてドールなのよ。二度と間違えないでほしいのよ!!」


「お前の顔など正直、見たくないものだが」


「メーアと師匠って知り合いなの?」


「……私がドールが苦手なだけだ」



 はっきりと言いきった。私は何か話そうとしていたけど、師匠はこれで終わりだと言う風にそっぽを向いてしまった。


 メーアはあんなに可愛いのに、アレンも師匠もわかってくれない。なんでだろう? ドールの何が怖いのかな。だってドールと一緒にいないなんて今時、珍しい。




「お前達が暮らしていた村は、聖女サクラが生まれ育った場所だ」


「本当に言ってますか? だってそれじゃ、サクラの呪いで隣の村が無くなったのは、なんだっていうんですかっ!!」


「『聖女の祟り』だろう」


「そんなのわかってますっ! そうじゃなくて……」


「聖女サクラが生まれたのはあの村で、聖女サクラを誘拐し、塔へと監禁したのが隣村のアーー「まぁ、そういうことだ。サクラが恨んでいたのは隣の村だ」


「じゃあ、なんで私たちの村が狙われたんですかっ!! どうして?! あんな酷い……酷い死に方を」


「ノア。君は理由があれば納得するのかい?」


「…………しない」



 しない。できるわけがない。どんな理由があろうとも私の家族を殺したことに変わりがない。殺してやりたい。殺してやりたい、あの聖騎士。



「だろうさ。人間とはそういうものだ、君がそう思ってしまうように、そいつらがやった理由も人間には理解出来ないものだろう」



「…………あいつらは狂人なのよ」


「復讐は何も生まないんだよ、ノア」


 メーアの慰めるような言葉。師匠のなだめるような言葉。



 自分の中で何かが壊れた音がした。机がパキリと嫌な音を立てた。



「なにっそれ、なにそれ!! 狂人だから仕方がないっていうの?! フェイさんはどれだけ苦しんで死んだと思ってんだよっっ。サクラちゃんは? ポムは? アンタ達にはどれだけ辛かったか分かるの……復讐しなきゃ、いけない、でしょ。私達が忘れないために」



 絶叫しながら、涙が溢れでてくる。悔しくて苦しくて仕方ない。胸の痛みが取れない、苦しいよぉ。



「ノアッ!! ノア、落ち着いて。ノア……フェイが渡してくれた、あのお守りの中を見るのよ」


「お守り?」





 そして私は決意した。お守りの中身はーー。





「ねぇ、メーア。あの白い髪の聖騎士を殺したい。苦しんで苦しんで、殺してと願ってきても殺してやらない。地獄の苦しみを味わってから死ねッ!!」


「そう、それがノアの願いなのね。ノアはメーアのご主人なの。メーアはノアの望みを叶えるために全力を尽くす……のよ」






 小話二、



 人間は生まれた時に、精霊から加護をもらい、属性が決まる。ある時、加護を一個ももらえず、無属性の男がいた。無属性のため、周りの人間は彼を冷たい目で非難するのであった。


 男は属性が欲しくて欲しくて、たまらなかった。ある日男は、精霊が住んでいると言われる森へ向かった。


 そして半殺しにされた。




 っていうおとぎ話がある。



「私、あの話好きなんですよね」


「へぇ、奇遇だなぁ。私も、クククッ。フッ私もだ」


 師匠も好きみたいだ、気があうなぁ。

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