目を覚まさせたのは

〈アレン視点〉



「話すか話さないか。それはアレンに任せるのよ」


 目の前のドールは淡々とした口調で、そう言った。思わず怒りが湧いたんだ。前からドールは嫌いだった。だが今回のことで見たくないほどに嫌になってしまったのは、仕方がないことなのか。それとも俺の甘えか。



「話す。だからメーアは何も言うな」


「アレンがそう言うなら従うのよ。メーアは人間には逆らえないの」


「適当なこと言うんだな。ノア以外はどうでもいいくせに」


「そっちこそ!! その言葉、そのままそっくり返すのよ」



 さっきからずっとこの調子だ。正直疲れてきた。


「チュンチュン、チュンチュチュンチュ」


 鳥の声がうるさい。なんだか知らんが煽られている気分になっちまう。



「……にしてもここどこだよ」


「知らないのよ。メーアが聞きたいくらいなのよ」



 俺達がいるのは知らない森の中だった。






 *****




〈ノア視点〉


 女神と話す夢を見た。なんだかフワフワしていて不思議。私は清々しい気分で目を覚ました。でも目の前の光景は、今までの夢見心地な気分さえ吹き飛んでしまうほどの衝撃。



「ノアに近づくなッ!」とアレンは剣を向けていた、しかもアレンはなぜかボロボロの状態で。見たこともある女性が立っている。そしてこっちに近づいてきた。


 夢で会いたいと思ったあの人が、唇と唇が数センチでくっついてしまうほどの近さで私を見ていた。



「ひぃ、ぎゃあああああ」


 その美貌が……とか気にせずに私は、その師匠の美しい顔に向かって水の魔法をぶっ放してしまった。


 あぁ、終わった。






「スイマセン、スイマセン。あぁ、スイマセン」


 壊れた機械のように呟く私に、師匠は何も言わずタオルで水を拭き取っていた。師匠はびしょ濡れになっただけで済んだ。もしあの時本気で襲いかかっても、多分負けるだろう。



「すいません、本当に知り合いだとは思ってなかったです」


「どうしてここに来たんだい?」


 師匠が尋ねるとアレンは、私の目を見た。


「ノアに聞きたいんだが、寝てる時魔法とか使ったか?」


「えっ、なんで?」


「……ノアを連れて逃げようとしたら地面に魔法陣が現れて、ここに飛ばされたんだよ」



 夢の女神様が飛ばしてくれたのかな? あの優しい声を私は覚えている。つまりあの出来事は夢だけど夢じゃなくて……現実?


 とりあえず女神は本当にいるってことでいいのかな?


「夢で、めが〈ーー誰にも言ってはいけませんよ〉…………っ」


 なぜかその言葉が頭に浮かんで消えた。一瞬思考が停止して、言葉が頭の中から消えてしまう。想像できないほどの怖さ。私は言葉を忘れてしまったの? アレン達に何かを伝えることが出来ない。


 言葉が出ないとは、このことか。


「どうした? ノア、具合でも悪いのか?……ん、この竜はなんだ」


 プルートも飛ばされて来たんだ。プルートは師匠を警戒している。やっぱり竜にも分かるんだ。……師匠の強さが。


「プルートって言います。俺の相棒っす」


「なんでもないです。……なんでそんな話し方なの?」



 あっ! 喋れた。よかった、よかったよ! 安心した。



「だってこの人、ノアの師匠なんだろ? ならタメ口なんて使えねぇよ。……弟子とか羨ましい」


「だから「っす」なの? 羨ましい? そうかな」



 別に大したことないと思うんだけど。アレン的にはちょっと違うらしい。



「そういうものだろう」


「そうなんだ」




 私達のやり取りを聞いていた師匠がポツリと呟いた。アレンは苦笑いで答えていた。


「うむ、いかにも男って感じだな」


「当たり前っす」


 どうやら師匠の前ではその喋りでいくらしい。うーん、正直違和感しか感じないんだけどな。




「師匠って今も毎日、タンクトップと短パンなんですね!」


 思わず口から出てしまった言葉は、誰にも聞こえずに消えていくことはなく、師匠のもとへと届いてしまったらしい。



「……ちゃんと洗ってるし、新しいのも買ってるんだぞ!! 誤解されそうなこと言うなっ」


 師匠に怒られてしまった。





 せっかくだから私が作ろうっ! と張り切る師匠を全力で止め、アレンに作ってもらうことにした。


 ちなみにアレンは「せっかくのご厚意だから……」とか言うから師匠の作り置きのシチューを口に突っ込んだら、顔を真っ青にしてもがいてた。


 師匠と一緒に笑い転げてしまった。メーアはアレンが毒を食べたのかと慌てていた。


 あぁなんて可愛い、メーア。





 私は師匠と一緒にご飯の材料を探しに行った。するとたくさんの野菜が手に入った。


「へぇ、ネバ芋か。これを使おうっと。師匠! これとこの調味料はありますかね?」


「ある」


「ありがとうございます、師匠」




 こうして出来たのは、ネバ芋のコロッケとネバ芋のソウメンだ。


 まずネバ芋を潰し、茹でる。茹でてる時に灰汁ののようなものが出てくる。それはネバネバしていて取り出した後、乾燥させるとツルツルのすごく細い麺ができる。


 潰したら中にチーズを入れ、丸める。そして小麦粉やらをつけたりしたら、油で揚げる。


 そうしてやっと完成だ。



 ソウメンはかみごたえがあって美味しい。夏に食べたらもっと最高なんだと思う。でもネバ芋からもソウメンが作れるなんて初めて知った。アレンはやっぱり凄いや。


 そしてラスボス。


 ソースにつけ、口に入れてみる。サクッとした衣を舌で味わっていると、粘り気のあるネバ芋が主張をしてくる。



「あっつ! ハフハフ……っ!?!?」



 熱さにハフハフと戦っていると……なんと熱いチーズが登場したのだ。


 溢れんばかりのチーズとネバ芋の融合。最高のコラボネーション。


 なんと美味しいことか。






 黙々と食事が進む中、私は一人盛り上がっていた。アレンがポツリと口にした。






「俺たちの村の名前を出すと、誰も商品を買ってくれなくなるんだ。……師匠はなんでか、知ってたりしますか? 教えてほしいっす」

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