師匠と常識
属性は五種類ある。
水が一番多く、火、木、光、闇が一番少ない。私は楽しみにしていたんだ。自分が何の属性なのかを。
「ああーー!」
だけどそんな気分は、すぐに吹き飛んでしまった。
木っ端微塵、バラバラ。まるでチャーハンのよう。木のクズのようになってしまった、偽りの敵は師匠がまず手初めにと敵を出してくれたものだ。敵といっても弱そうなゴブリンだったけれど。
「えっと、すいません」
「正直これほどだとは、思ってなかったよ。わかった、私が相手になろう」
「えっ! 本当ですか。ん、でも人に向かってぶっ放すのはちょっと」
「私を誰だと思ってるんだ。余裕だ! よ・ゆ・う」
師匠はバラバラになってしまったモノに向かって、手をかざした。すると一瞬でバラバラなゴブリンは消えた。
「おおっ……すごい」
どうやってあんな敵を出したり消したりしているんだろ。
「これでいいか」
師匠は、近くに落ちていた真っ直ぐな木の棒を拾うと、一振りした。するとただの木の棒がキラキラと光っている。
「な、何したんですか!? キラキラしてますけど」
「フッ……企業秘密だ。あぁ、そうだノア。ただ魔力を込めて解放するのではなく、そうだな炎のイメージでぶつけてみろ!!」
「炎ですか? わ、分かりました。いきます」
足を肩幅に開き、両腕を前に出す。そして熱い炎をイメージする。
「はああっーーー」
グワアァァー。
そして私の手から飛び出したのは、炎だった。炎が出ているのに、手のひらは全く痛くない。
まるでドラゴンの炎のようにうねりを出し、凄い勢いだ。そんなことを考えていたら師匠の方に接近していることに気づく。師匠がケガをしてしまう!!
「師匠っ!?」
ものすごい炎が近づいているというのに、師匠は一歩も動かない。逃げる素振りもない。ただ堂々と立っている。カッコいい。
私が師匠に見惚れていると、飛ばされそうなほどの風が吹いた。簡単な結界を張っているとはいえ、多少の被害は出るんだと思う。木々が揺れ動いている。
風に荒れ狂う炎が吹き消された。ケーキに立っているロウソクみたいに一瞬で。
私は師匠が風を起こしたのだということに気がついた。キラキラと光る木の棒が振り下ろされていた。たった一振り、それだけで。
師匠は木属性だったのか、かなり魔力を高めないと風は起こせないと聞く。この人はどれだけ修行したんだろう。
師匠は凄い。師匠との差を感じさせられた、そんな出来事だった。
茫然としている私に、眉間にしわを寄せた師匠は告げた。
「さぁ、次だ。今度は水をイメージしてみろ! 増水した川のイメージだ」
*****
私は地面に倒れていた。ひんやりとしたのがちょうどいい。汚れで悩むのは後々!
「ししょ、う……ぜぃぜぇ、はぁ、うっ。もうむりー」
「うむ、光が一番強く、火属性と水属性は同じくらい。木は一般以下。闇は簡単な目くらましぐらいなら出来る……と。なるほどなぁ、面白いな」
「何も……面白くないです」
「おめでとう! ノア、全属性持ちだ」
疲れて、それどころではなかった。もう寝たい。そんな気分なのに、この人は。
「いや〜嬉しいな。よし、早速修行開始だ」
「……うっ」
自分から教えてくれと頼んだ手前、断るわけにはいかない。
「冗談だ。習得するのには、かなり時間がかかる。しばらくは私の家で暮らすといい。いちいち家に戻るのも大変だろうしな」
「ありがとうございます! 師匠」
そんな会話をして師匠の家に戻ろうとした時、木々が大きくざわめいた。
「……うむ」
草をかきわけながら、出てきたのは体長約三メートルのクマ。いやこのクマは――。
「――ヒッ、なんでシリグマが」
「山奥だからな。たまに出るぞ」
シリグマとは尻が大きいクマ。主に野菜を食べるらしいんだけど、最近は食べるものが減っているのか、イライラしているのか人を襲う事件が多発している。
「とはいえ、放っておくと村や街に行ってしまうからな。とりあえず倒す。見ていろッ!! 弟子二号」
弟子二号。なんで二号? でも弟子……なんて素敵な響きなんだ! と感激していると師匠がブツブツと何かを呟いた。
風が舞い、師匠の黒髪が揺らめく。青い光に照らされる師匠はとても美しく、そして幻想的。人が力を解放する時、私はその様子を世界で一番とても美しいと思うんだ。
師匠を包んでいた青い光は、キラキラの木の棒へと全て集まっていく。
「――おらッ」
師匠のフルスイングがシリグマへ。ぶち当たる。
目も開けられないほどの光に照らされ、とっさに目を覆った。
次に目を開けた時、シリグマの姿はおろか、肉片すら残っていなかった。
師匠が「実は、晩御飯にしようと思ってたんだ」と真っ青な顔をするまであと十秒。
小話 一
「そういえば技名とか叫ばないんですか?」
「技名? あぁ、昔は叫んでたな。でも今の若い子は技名すら恥ずかしいと言って……なぁ」
「そうなんですか? 幼馴染はよく叫んでるんですけどね」
「うむ。男とはそういうものだろう」
「なるほど?」
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