邪魔な奴ら
キーーン。
耳鳴りがする。あまりにもうるさくて目を開けた。ボヤけた視界が鮮明になってくる。耳鳴りは止まない。
この耳鳴りがする時は、近くで何か強い魔力が放出された証拠だ。私はアレンに声をかける。
「……アレン」
私の声は掠れていて聞こえていなかったのか、アレンは窓を遠い目をして見つめていた。何を考えているのかな。
ふと夢を思い出した。私は夢を見ていた、昔の夢。とてもとても幸せな夢だった。
何かが爆発するような音がした。その音がしてから、遅れて衝撃がくる。
「――ッ!? がはぁっ、ぐっ」
体が浮いて天井にぶつかる。衝撃の強さで息がつまる。そして床に叩きつけられた。理解が出来ないほどの痛みが私を襲ってくる。
「――がぁ、あ。いた、い」
「クソ……ノアッ!! 顔を上げるな! 何かにしがみつけ!」
アレンの声が聞こえたと思ったら、激流に飲み込まれたような音が辺りを包む。痛みに耐えながら私は慌てて、床に爪を立てる。竜車に乗る人間を守るための、風の加護が消えてしまった。
そのことに気づいたのは、吹き飛ばされそうなほどの強い風を体を受け、しがみついていた床が風でパズルみたいにバラバラになった瞬間だった。
「あっ……」
支えているものが無くなり体が浮いたなーと思った瞬間、激流のような風に飲み込まれてしまった。
「うわあああああぁあ」
軽々と持ち上げられ、空がよく見えた。そして私は勢いよく外に投げ出された。かき混ぜられるようにぐちゃぐちゃと、風に弄ばれる。
痛いなんてものじゃない。もう意味がわからない。
「うっ……あああ」
あぁ、死んだ。
地面が目の前まで近づいてきた時、私は死を悟った。血を見たくなかったから私は潔く目を閉じた。
「フィ――ドッ!!」
ポヨン、プヨプヨ。
何か柔らかいものに包まれた。おそるおそる目を開けてみると、薄い青色のスライムみたいなものに包まれて、私は地面に寝っ転がっていた。衝撃なんて一切感じなかった。
「えっ?」
フニフニとスライムみたいなものを触っていると、いきなりパァンと弾けてびしょ濡れになった。
「わ、悪いな。ギリギリになっちまって」
「アレンが助けてくれたの? ありがとう。……ところで、なんでビショビショになったのかな」
地面に剣を突き刺して、助かったらしいアレンにそう尋ねると、バツが悪いのか早口で答えてくれた。
「た、叩きつけられるのに固いフィールドだと痛いだろ? そう思って柔らかくしてみたんだけど初めてだったから……その」
アレンって言い訳する時、いつも早口だよね。
「でもありがとう、アレン。助けてくれて……でももうちょっと頑張ろうか。なんか囲まれてるみたいだからねッ!! 捕まえろっ、いけ! メーア」
私は後ろに控えていたメーアに、指示を飛ばした。メーアはすぐに行動に移してくれた。ざっと数えて五、六人。全員フードを被っており顔は見えない。
メーアは一番近くにいた奴に向かって、何かを振り下ろした。
――ジュグリ。トマトを潰したような音。
「――あ」
男の口から血が流れた。そして瞬きをする暇もなく、三本の剣? のようなものに貫かれた。
「あぁ……せい、サ」
三本の剣は素早く引き抜かれた。血が飛び散る。まるでスローモーションのように、男が崩れ落ちる。
私はその光景を、二度と忘れることはないだろう。
男の背後にメーアはいた。私は駆け寄ろうとしていた足を止める。メーアは血まみれだった。それはわかる、メーアの近くにいたんだから。でも――
「メーア……どうして」
メーアの可愛い手は、まるで三本指だ。鋭く鋭利、三つの鋼が手にくっついていた。先の方は曲がっており、触れられてしまえばたちまち斬り捨ててしまうだろう。
まるで昔、絵本で読んだ
「聖騎士団なのよッ!! 逃げるか戦うかどっちかなのよ」
「嘘、聖騎士団なんて」
「あ……あ。お、おれは」
アレンの様子がおかしい。瞳は虚ろで震えている。
「ノアを守れるのはアレンだけなのよ」
「――ッ!!」
メーアのその言葉にアレンの震えが止まる。
「殺せなんて言わない。ただノアを守ってほしいの!!!」
メーアの強い言葉にアレンの瞳に光が宿る。
「私、守ってもらうほど弱くないのに」
ちょっと文句言うくらいは許してほしい。メーアを睨みつけると、知らないふりをされ視線をそらされた。
地面に突き刺してあった剣を引き抜くと、アレンは何かを呟いた。するとアレンが持っていた剣に炎がまとう。
「そんな使い方があるんだ……。すごいなぁ」
余裕がある私はポツリとそんなことをつぶやいちゃったけど、それにしてもアレンは次々に敵を倒していく。多分殺してないはず……大丈夫だよね?
結局アレンは一人で残りの人数を倒した。
「うん……死んではないよ。気絶してるだけ」
口に手を近づけたり脈をとってみたり、簡単にだけど確認してみる。気絶しているだけ、みたいで少し安心した。死んでたらアレンは病んじゃうだろうからね。
「あぁプルート。よかった、どこもケガはないな」
アレンは怯えて震えていたプルートに近寄る。アレンだと気づいたプルートは嬉しそうに頬ずりする。
うわぁ、かわいいな。
私はにやけそうになりながら、メーアに指をさしながら質問する。
「メーアは私にあれ、やってほしいなーなんて思わないの?」
「はぁあ!? ノアは赤ん坊からやり直ししたほうがいいのよ!! なーに言ってるのよっ」
凄い勢いで拒否されてしまった。まぁ、いつものことだからポジティブで行こう。うん、そうしよう。
「ねぇ、二人ともやっぱり一度村に戻ろうよ」
私がそう提案すると、メーアの美しい顔が歪んだ。
「……メーアは反対な「いいと思う。プルートがいれば、まだ走れるしな。プルートの上に直に座らせてもらう感じになってしまうが、仕方ないよな」
アレンはプルートの機嫌をとるために、顎を撫でる。「あとで好物買ってやるから」とか耳元で囁いている。女の子の扱いは任せとけーって感じなんだろうか。
「そうだね、仕方ないね」
うん、なら仕方ないよね。
「メーアは……」
メーアは苦しそうにアレンを見つめる。アレンは優しくメーアをなだめているように見えるが、強い決意みたいなものを感じられる。
「いいよな? メーア。俺はそうするべきだと思う。メーアには悪いけど」
「……そう」
アレンの言葉を聞いてメーアは抜け落ちたように表情が無くなった。
「なら急ぐのよ。……間に合うかわからないのよ」
メーアはすっかりいつもの調子に戻っていた。能面みたいなメーアは気のせいだったみたいだ。
生ぬるい風が吹いて、生臭い匂いが鼻につく。血の匂いだ。風が肌を撫でるたびに鳥肌がたつ。なんだろう、胸が苦しくなってふと空を見上げた。
見上げた空は星も見えず、ただただ真っ暗だった。
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