気になるあの子
初めて会った時に比べると、今はだいぶ明るい方だ。無口かと言われるとそうではなく、ただ表情がなかっただけだったと記憶してる。
俺は興味があった。村の近くで倒れていたらしい少女に。仲良くなれればいいなとかそんな理由で、遠巻きに見ている奴らとは違って積極的に話に行こうと自分の中で決めていたんだ。
彼女は白いワンピースを着ていた。でも服はボロボロで、村長さんが新しい服を渡しても着てくれないらしい。意外と頑固。
「なぁ、お前一人なの?」
「見てわからないの? ……そうだけど」
「なんでそんなとこ座ってるの?」
「……別に」
そんな偉そうに言われてもな。俺のことを睨みつけていたが、俺が隣に座ってきたのを見て一人分くらい間を空けられた。
それ、地味に傷つくんだけど。
「村長さんから聞いたよ。ご飯食べないんだって?」
「……あんまりお腹空いてないから」
「食べないと元気出ないぞ」
ボロボロのワンピースからのぞく白い肌。でも手足は骨みたいに細い。ご飯食べろよって言ってやりたいとそんな事を考えていたら、身体をジロジロと見られて不審に思ったんだと思う。まんまるの瞳で俺の顔を覗き込んでくる。
「……ッ。き、綺麗な銀色だな」
「はぁ?」
素直に口にしてみたけど、彼女の表情に深くしわが刻まれる。何がと不機嫌そうに言う彼女に、俺は笑いながら伝えたんだ。正直な気持ちを。
「髪色、綺麗だなぁって思って」
どうやら彼女は怒ったみたいで立ち上がり、どこかに行こうとする。
「待てよっ!!」
俺は彼女の細い腕を掴んだ。彼女は嫌そうに表情を歪める。彼女のワンピースの裾が、風で揺れる。
「……名前聞かせて」
「名前。誰かから聞いてないの? 噂とかで」
「お、おれはそういうの苦手なんだよ。そういうのは本人から聞きたい」
「なにそれ……ふふっ。君って変わってるんだね」
そう言って彼女は微笑んだ。俺はひたすら彼女の関心をひきたくて、ひきたくてとりあえず話しまくった。
「自分に勝つためには人との関わりが大事とかいうだろ? 俺は立派な人間になりたいんだッ!! そして早く強くなりたいとも思ってる。そのための第一歩、他人を知ること……な、なんだよ」
勢いよく喋り出すのはいいが、途中恥ずかしくなってきて語尾が小さくなる。
「ノア……私はただのノア」
ポツリと彼女、ノアはそう教えてくれた。
「ノアか、俺の名前はアレン。よろしくな」
それから俺はノアにウザがられるぐらい話しかけ続けた。村長さんにはノアが少し元気になったよとか慰めの言葉をもらったりしたが、俺には気になってることがあった。
ノアといつも一緒にいるドール、メーアだ。俺はドールが怖い。メーアとかいうのがいつもいるせいで視線が泳いでしまう。メーアを直視できない。
それをノアは勘違いしたりして、誤解を解くのにかなり時間がかかった。
ノアは本当に可愛い。整った顔をしている。ただでさえチビだから、もっと小さくなったらドールだと言われても違和感はないと思う。ドールは美男美女だからな。
*****
ノアはひとりぼっちで泣いていた。メーアがいないか確認したあと、俺はすぐノアの元へと走っていった。
「またアレンか」
「俺しかいないだろう! 何かやられたのか?」
この村は基本的平和だ。大人達はノアに対して優しい。ただ、子どもは違う。どちらかというとノアのことを部外者としてみている奴らの方が多い。ノアが何者なのかわからないというのも不安を煽る原因だと俺は思う。
それに子どもは無邪気だ。イジメてはいないもののノアに対して、辛く当たっているのだろう。
「殴られたりしたら、俺に言えよ。殴り返してやる」
「暴力に暴力は、さいてーだと思う」
「……そうか」
慰めるつもりが正論を返された……だと。引きつりそうになる頰を、ポーカーフェイスでごまかす。
ここは話を変えた方がいいかな?
「ボーボー鳥って知ってるか?」
泣いてるノアに向かってポツリと独り言を言う。泣いてるから俺の言葉なんて聞いてないだろう、どうせ。
「体毛に覆われている鳥なんだが、すっっごく美味しいんだ。ここら辺だとパタパタ鳥とかが盛んだけど……あぁ、パタパタ鳥はパタパタ鳥で身が引き締まってて、うまいんだがな」
「その……ボーボー鳥はここら辺では食べれないの?」
おっ、食いついてきた。心なしかノアの顔が赤い。食べ物に興味があることはいいことだと思うんだけどな、俺。
ノアは最近、村長さんのシチューにハマっているらしい。ちらっと横目でノアの腕を確認すると最初に会った時よりは、肉がついてるように見える。けっして俺はノアのストーカーではない。
「いや、残念だけど」
「そう、なんだ。えっとボーボー鳥はどう美味しいの? パタパタ鳥はいつも走ってるから、身がキュッと引き締まってて茹でたりすると美味しいっていうのはわかるんだけど」
待って!! ノアは馬鹿なのか。パタパタ鳥の肉食べたくなるじゃないかよ。
「アレン?」
「……ジュルリ」
よだれが垂れそうだった、危ない。慌てて手で拭う。
「あー、ボーボー鳥は火の属性なんだ。つまり口から炎を吹くんだよ。あ! ノアって何の属性なんだっけ?」
「属性? 何それ、知らない」
「じゃあ今度、測るかもな。ちなみに俺は火と水、二つ使えるんだ!!」
「それってすごいの?」
俺の精一杯のアピールは儚く散る。そりゃそうだ属性のことを何も知らない奴に、話してもな。
「あと聖女サクラは全属性、使えたらしいぜ」
「……誰?」
「よし、あとで話してやるよ」
「それよりも話の続き……して?」
立ち上がった俺の裾をキュッと掴むノア。はにかむように微笑む姿は控えめに言って聖女のようだった。
「…………っ。神さま、聖女様」
「アレン? 大丈夫なの……メーー「だ、大丈夫だ!!! も、もんだいないさ」
メーアを呼ばれそうになって意識が戻った。危ない、危ない。
「ボーボー鳥は、料理して時間が経っても冷めないんだ。だから肉汁とか最高だぜ?」
「体の中の炎はどこに消えるの?」
「死ぬ時に体内の炎が魔力に戻って体の中を循環し始めるからだと、俺は勝手に想像してる」
「ふーーん」
ノアは俺の話を聞いて考えこむ。実はちょっと驚いてたりする。ノアがここまで真剣に聞いてくれるとは思ってなかったからな。
「ねぇ、アレン」
「ん?」
「食べてみたいね、ボーボー鳥」
その言葉を聞いて俺は、初心者でも簡単に作れるらしいボーボー鳥のサンドウィッチを作る練習を始めた。そしていつか食いしん坊のノアに「美味しい」って言ってもらえるように、頑張るんだ。
とりあえず俺は、ノアが笑顔になるまで食べ物の魅力でも語っておこうと思う。あんまりしつこくすると嫌われるかもしれないし、食べ物のことを語るとメーアはついてこない。なんだかんだで、俺にとって最高の時間なんだ。
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