トラウマ
「は〜、本当に美味しかった!」
「へへっ。だろ? 頑張った甲斐があったよ」
本当にアレンは嬉しそうに笑うよね。私の言葉でここまで反応してくれるなんて、なんだか私まで嬉しくなるよ。
「二人とも竜車が見えるのよ! アレン、あれは」
「あぁ、俺が用意した。歩くんじゃ、何日かかるんだよって思ってな」
竜を刺激しないように、ゆっくりと近づいて行くと竜はこっちをチラッと見た後、プイッとそっぽを向いてしまう。緑色の綺麗な鱗の竜だ。チラッと見えた瞳は紫色で賢そうな印象を受ける。だってお座りしてるんだもん。凄い、かわいい。
「へー、都会では何回か見たことはあったけど、乗るのは初めてだよっ!!」
昔は馬を使っていたみたいだけど、今は竜の方が速いらしく、馬車よりも竜車の方が圧倒的に多いのだ。
「可愛いね、この子。名前はあるの?」
「プルートっていうんだ。ちなみにメス。親父の竜だったんだけどノアと行くんだったらって……ッ。貸してくれたんだ」
「流石! アレンのお父さんだね」
「おうよ」
仲良く言い合いをしているメーアとアレン。そういえばアレンって……。
「そういえば、アレンってどうしてドールと一緒にいないの?」
「……っ。別に、皆と同じことをするのが嫌なだけだよ」
アレンの顔が嫌そうに歪められた。
「ノアに男のことを理解するなんて、無理な話なのよ」
「ふーん、そういうものなんだ。男の子の感覚ってわからないね」
「メーア。お前さ、竜車を走らせてくれないか?」
「は?」
「いや、俺まだ未成年だから。ドールなら平気だよな」
殺されたいのみたいな顔をしていたメーアは、アレンの発言に納得してくれたみたいで、すごーく嫌そうな顔をしながら頷いてくれた。今知ったんだけど、竜車は未成年だと動かしちゃダメらしい。事故になったら責任とれないからなのかな。
「メーア、お礼にキスとかどう?」
「すっごくいらない」
つれないメーアも、すっごくかわいい。
竜車に乗り込んだ私達は座っているだけで、することがないからたわいない会話をしていた。
「竜車ってあんまり揺れないんだね」
大きな石の上を走ったらガコッとかいって揺れるイメージだったんだけど、そうでもないのかな。
「万が一落ちたりしたら死ぬから、風の加護がついてるんだ」
「へー、ごめん。なんか……ねむ、くなってきちゃった」
「ん、おやすみ」
ちょうどいい温度の中、ゆるりと眠気が襲ってくる。誰かに頭を撫でられているような、温かいぬくもりを感じた。
*****
これは俺がドールと一緒にいたくない勝手な理由だ。嫌なら聞かなくてもいいんだが。
……そうか、ありがとう。
「村の外には変態さんが多いから気をつけなさいよ」
そんな母さんの忠告を思い出していた俺は、今自分がはぐれてしまっていることに気づいた。初めて出た村の外、テンションが舞い上がっていた。だから親父の止める声も無視して走り回っていた。
だから迷子になっていた。
きっと見つけられたら、怒られる。でも会えないのも寂しい。そんなことをグルグルと考えながら人を探していた。
「うええーーん、おやじ。おやじどこ?」
大人なら親父がどこにいるのか、分かるかなって思って。子どもらしい考えだよな。あと涙が止まらなかったよ、怖すぎて。
「あっ」
森の中をしばらく歩いて、クタクタになっていた時ブツブツと人の声が聞こえたんだよ。まあ俺は、すぐその人の元へ向かったんだけど。
まず目に入ったのは、バラバラになったドールだった。確か、女の子だったと思う。どこからか甘い匂いがする。甘いものは好きだけど、この匂いは好きになんてなれない。
バラバラになっているドールに目を奪われていると、近くに男がいたことに気づいた。
「はぁ……はぁっ。あぁ、キミかわいいよ。かわいい」
グチュリ、グチュリ。何の音だろうか。何かをかき混ぜたりする音が耳から離れない。
男がバラバラになっているドールに覆い被さった。何をしているんだろう。 でも様子を見に行くことなんかできない。
――怖い、怖い怖い怖い。
ガタガタと震える手足を抑え、ここからどうしようと考え始める。もしもアイツがこっちを向いたら? バレたら殺されるの?
人の声が聞こえた。
「おいっ! 俺は聖騎士だ。そこで何をやっている」
思わず顔を上げると、聖騎士とかいう男がはあはあしていた男に剣を向けていた。
「はぁ……はあ。うううう、美しいだろう? もっと見てごらんよ、素敵だろう」
男は狂ったように、バラバラになったドールを自慢しようと語り始める。
「まずこの手足さ。とてもいい切り口だと思わないか? やっぱり削いだやつが優秀だからだろう。そうに違いないさっ!!」
「……なんというドールに対する冒涜。死をもってつぐなえっっ!」
聖騎士は大きく剣を振り上げた。あぁ、そのままだと首に当たっちゃうと思った。でもそのまま死んでしまえばいいとも思ってしまった。
首がはねるのを見届ける前に、俺の意識は遠のいていった。
「それからドールが怖いんだ」
「それでドールを怖がるの? 人間を怖がる……の方がわかりやすいのよ」
メーアに言っていいのか? でも言わなきゃ気持ち悪いよな。
「あのドール。バラバラにされても生きてたんだよ」
聞こえたんだ。気を失う瞬間――「たすけて」って。
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