邂逅
ともも
第1話
都内某所、6.5畳、75000円。
南向きの大きな窓へは太陽の木漏れ日がさんさんと降り注いでいた。
ネイビーの遮光カーテンの隙間から光が差し込み
ああ、もう夜が明けたかと僕は目を覚ます。
起きるべきか起きぬべきか。
決めきれない僕は丁度いい塩梅で寝返りを打つ。
これが最適解だ。
予定があろうとなかろうと関係ない。
ただ、寝返りを打つ。
これだけでいいんだ。
しかし今日はちがった。
僕は寝返りをうたなかったのではない。
うてなかったのだ。
まだボヤけた僕の視界に映るのは
鏡のように磨かれた肌の色。
朝の陽射しで光るその色は
どんな宝石にも変え難い輝きと
ゆるやかな曲線を描いていた。
人間は美しいものを見ると
ついつい触れてみたくなる。
これは自明の理である。
と、どこかの偉い学者が言っていたような気がする。
言っていなかったら僕が今言った。
体を半身起こし、右手で肌色を撫でる。
輝きの正体はなんなのか。僕の右手が捜索隊だ。
感触はなかった。いや、あった。あったはずだった。
これは宝石のようなゴツゴツした輝きではない。
むしろ、逆。
触れた手が触れたことにすら気がつかない。
感触が置き去りにされているのだ。
僕は輝きから感触を取り戻すためにもう一度
手を伸ばす。
今度は確かに逃げ出した感触を捕まえた。
そして僕の捜索隊はある現象に陥った。
それは捜索隊が肌色に飲み込まれていく感覚。
これ以上進んではダメだ。
これ以上は戻れなくなる。
隊長からの命令は届いていただろうか。
でも、僕はその不思議な現象に
捜索隊の命を投げ出した。
スっと、重力と共に肌色へ侵入したのだ。
沈み込む右手、たった5人の捜索隊は
次々と飲み込まれていく。
ああ、ここは底なし沼だったのか。
僕はとんでもないところに
彼らを派遣してしまったんだ。
捜索隊にも家族がいたろうに。
刹那───
恐るべき速さで肌色が
彼らを押し戻した。
隊員の中で最も小柄な者から
もっとも恰幅が良い者まで全てだ。
これはなんだ。
僕の指示か?いやちがう。
これは肌色の意思だ。
肌色は捜索隊を救ったのだ。
その跳ね返りによって。
理由は不明だ。全くわからない。
こんなにも不思議な現象がこの世にあっただろうか。
しかし、それは確かにここにあった。
この世界中探しても
見つからない何かが
ここにはあった。
肌色の意思は僕を虜にする
十二分の理由を持って
僕の思考を的確に捉えた。
「おはよう。」
「おはよう。今日も愛してる。」
僕の至福の時間は
ボヤけた世界がハッキリと映し出された頃に
呆気なく幕を閉じた。
また、今日が始まる。
これから僕は何度もこの肌色の
虜になり、溺れていくのだろうか。
罪なことかもしれない。
それでもいい。
濁流にのまれ、
溺れて溺れて
僕はまたキミと生きていく。
邂逅 ともも @GoodbyeHappyTurn
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