第4話 強襲
日が明け、それが真上に来る頃、シェリア達一行はダレンを含めた騎士団3名の護衛の元に街道を進んでいた。シェリス達とダレンが馬車に乗り込み、その側面を並ぶように馬に乗った二人の騎士が進んでいた。馬車の車輪と馬の蹄が織り成す音楽を聴きながら、一行は周囲を見張っていた。そんな中で一人、それを行いながらも別のことをしている者がいた。
シェリアだ。
彼女は周囲を見張りつつも、自身の目の前で小さな粒子砲の魔方陣を一つ形成し、それに魔力を充填しては、霧散させることを繰り返していた。
その様子を見ながらダレンはウィルに近付くと耳元で小さく問い掛けた。
「なぁ、ウィルの旦那。嬢ちゃんは一体何をしているんだ?」
「ああ、何でもアレンからの助言を形にするために練習をしている、と言うことらしい」
アレンから受けた助言、展開する数を減らせば、もっと攻撃の頻度を増やせるのでは無いか、という事から始まった彼女の行為である。それがどのような物なのか、そしてそのような彼女の行動を知らない彼にとっては、奇妙な物に見えるだろう。実際、他の騎士もチラチラと彼女の方を見ている。
さて、シェリアが行っているそれであるが、既に魔力の調整という成果は出ていた。そもそも魔力量の調整というのはそこまで難しい物ではない。自身の中でそれを想像すればその通りになるのだから、簡単な物である。
ならば何故彼女はそれを繰り返しているのだろうか。
その理由は単純な物で、戦闘の時にしっかりとそれを行えるようにする、という事にである。現在の落ち着いた状況と違い、戦闘時は当然慌てることもあろう。そして一瞬のミスが致命傷になりかねない事もある。故に彼女は何度も反復練習を行っているのだ。
「それにしても、飽きもせずにお前はそれをやるのな。もう少し肩の力を抜いたらどうだ?」
と、ウィルの言葉にシェリアはそれを一旦中止して、苦笑いを浮かべながら彼の方を向く。
「あはは、すみません。でも、折角自分が更に強くなれる可能性がありますから、楽しいんで問題ないです。もし迷惑だったら辞めますよ?」
「いや、心配すんな。お前が苦にならないってんなら、俺は文句はない。にしてもお前、ずっと魔力を溜めては霧散させているじゃねぇか。試しに撃ったりしないのか?」
「えっと、それは大丈夫なんですか? そんなことをしたら魔物に自分の居場所を教えるものじゃないんですか?」
「阿保か。確かに夜ならお前のど派手な魔法じゃ見付かるけどよ、ここまで日が昇って明るいなら大丈夫だ。お前の切り札を使うって言うなら話は別だけどよ」
「そうですか、そう言われるならやりたいと思います」
シェリアは前に向き直すと、目の前に展開している陣に魔力の注入を始める。そして斜め上に向けると、射撃を始めた。
次々に放たれる白い光線は青い空に白い軌跡を作りだしていきながら虚空に飛んでいく。その射撃のスピードは最大展開時よりも早くなっており、おおよそ一秒以内にはチャージが完了し、射撃を行っている。それをウィル、ロイ、アリアの三人は物珍しそうな様子で眺め、ダレン達、騎士団のメンバーは啞然とした表情で見ていた。
ある程度射撃が終わり、シェリアは一息吐くと満足したような様子で陣を解除した。
「ありがとうございました。ちょっと満足しました」
「そうか。で、どんな感じだ? 使えそうな感じなのか?」
「大丈夫だと思います。単体になっただけですから、威力は変わらないです。しかし、運用の仕方は変わると思います」
「変わるって、シェリアさんが何時もやっていた方法とは何か違うの?」
アリアは首を傾げながら話に参加してきた。確かに行っているそれは、今まで彼女が行っていたものを単体にしている程度の違いしかない。それにシェリアはアリアに顔を向ける。
「えっとですね、もし大多数を狙うのであるならば、いままで通り多数の陣を展開して攻撃する方が良いと思っているんです。で、今回のこれは、敵単体を狙って攻撃するようなものに使うような物になると思います。具体的には圧倒的な火力で敵を打ち倒すのでは無く、一体一体を確実に倒したい時に使うとかですかね。後は、町中とか周囲に気を付けなければならない時とかですね」
「一体一体確実に? 俺、バカだからよく分からねぇけど、シェリアちゃんが今までやっていた戦いの方法が変わるって事か?」
「そうですね、そんな感じで考えて頂ければと思います」
「しかし、お前はよく次から次へと新しいことをやろうとするな。今回は助言が有ったとは言え、もうそこまで考えているのか」
「はい、勿論です。まぁ、もし使えなかったらまた考えるだけですけどね」
「そうかい。それでダレンさんよ、間近で見たコイツの魔法の感想は?」
そう言って彼は近くで固まったままのダレンに声をかける。それにハッとした様子を見せると、表情を崩しながら頭をかき始めた。
「いや、隊長から話を聞いたが、こう間近で見ると違う物だな。嬢ちゃん、あれはどのくらい威力があるんだ?」
「過去の実積だと、ゴブリンとかは一瞬で蒸発した筈ですね。硬い……、そのゴーレムなどの堅い目標には当てたことがないので、何処まで威力があるか分からないんですけどね」
「いや、それである程度測れる。本当に嬢ちゃんは惜しかったな。嬢ちゃんなら騎士団の上の人間に成れただろうに……」
「おいおい、勧誘か? アレンにも言ったが、コイツは手放すつもりはねぇからな」
「そうか、残念だな」
と、ダレンが残念そうに呟いたときだった。
「前方からゴブリンの群れが接近!」
ある騎士が発した言葉に全員の顔が強張る。シェリアはそちらの方を見ると、右前方から見慣れた姿のゴブリン数十体ほどがこちらに向かってきているのが見えた。彼女達は馬車を止め、それの前に出る。
「まだ距離があるわね。ウィル、どうするの?」
「とりあえずここにつくまで数を減らすとするか。頼めるか、シェリア」
「わかりました」
そう言ってシェリアは彼らの前に立つと8つの陣を展開する。放つのはプラズマ砲、先日のスノーウルフと違って速度が遅いからだ。斜め上に陣を向けると射撃を開始した。粒子砲に比べてゆっくりと進むそれはシェリアの能力による誘導を受けてうまく感覚をとりつつ進んでいく。
(このくらいの速度だったら簡単に誘導できるな。粒子砲の方もこれぐらい誘導できたら簡単なんだけどな……。いっそのこと速度を下げて……いや、それを考えるのは後回しだ)
やがてそれは下方を向き、ゴブリンの群れに向かっていく。それに気がついた彼らは散らばり、それから逃れようと動き出す。しかしそうはさせないと、シェリアはそれらも巻き込めるような位置に向かわせる。そして着弾。
青白い光をまき散らし、それがゴブリン達を包み込んでいく。やがてそれが収まった後、残っていたのは黒焦げてバラバラになった彼らの死体だけだった。しかし、やはり全てを巻き込むことは出来なかったようで、生き残った何体が一斉に逃げ始めた。
「あー、何体か逃がしてしまったんですけど……」
「大丈夫だろ。あの様子じゃ、もうこっちを襲うことはないだろうさ。で、そこの騎士団は口を呆けているが大丈夫か?」
「あ、ああ……」
目の前の光景が彼らの世界とかけ離れていたのだろう、戦う前の気迫に満ちあふれていた彼らがもう居らず、全員が呆けていた。しかし、それを見慣れているウィル達はいつも通りだ。そんな中でウィルはじっとゴブリンの死体を観察していた。そしてある結論に思い至ったのか、ダレンの方を向く。
「ダレンの旦那、一つ聞きたいんだけどさ、この先に村か何かあるか?」
「ああ、この先に小さな村があったはずだ。けど、今は村の住人全員が避難していて誰もいないはずだ……ってもしかして、そこから来たのか?」
「可能性はあるんじゃないか? 小さな村であっても拠点として使うには申し分ないだろうしな」
「だが、その村は巡回の途中にうちの隊長と一緒に一軒一軒確認している。それはないと思うが……」
ウィルに対しそのように答えるダレンであったが、しばし考えた後不安になったのか、自身の馬に飛び乗る。
「悪い、ちょっとあいつらの後をつけてくる。お前達はこのまま護衛を続けろ」
部下達にそう指示を飛ばすと彼は手綱を握って彼らの後を追っていった。
**
その日の夜、薪の火を囲みながら全員が顔を合わせていた。その理由はダレンが持ち帰った情報だ。
この先にある村、その外れにある小さな森の洞穴が彼らの拠点になっているようだった。しかも、外からわからないように大量の木々で巧妙にカモフラージュされていたとのことだった。
「やっぱりな、あの時の敗残兵とはいえ妙に体格が良かったからな。絶対どっかに拠点を作っているんだろうな、って考えてた」
「すまない、もっと周辺を探索すべきだった。それをしていればこんなことにはならなかった」
そうダレンは視線を落としながら後悔するように言う。何せ、街道の安全を守るという目的が果たせていなかったのだ。これは 彼、というよりも騎士団の大きな失態だろう。
しかし、シェリア達はそれに対して特に気にしたような雰囲気はない。
「いや、気にすることはねーよ。そもそも巧妙に隠されていたんじゃ気づけるわけがない。で、そこは街道に近いのか?」
「割と近い位置にある。もしかしたら通る際にまた襲撃をされるかもしれない」
「まずいわよね、昼は向こうから来るのが見えたから対応できたけど、奇襲とかされたらそうは行かないかもね」
「なぁウィル、迂回とか出来ねーの? それか街道じゃなく、脇に逸れた草道を進むとか出来ねーのか?」
「迂回……それは難しいだろうな。だろ、おっちゃん?」
と、ウィルは首を動かし、彼らの後ろで話を聞いていた御者に話しかける。
「ああ、この辺りに迂回できるような道はない。あと、道なき道を進むのは勘弁してくれ。こいつは街道を進むことを前提に作られているんだ。整備もされちゃいない道を進めば壊れちまう可能性があるからな」
「と、言うことだが、ほかに意見のあるヤツはいるか?」
と、ウィルが全員に問いかけるが、誰も彼もが腕を組んだり顔を空へ仰いだりと誰も言葉を発さない。しばらくして、ウィルは一人に問いかけた。
「シェリア、お前はどう思う?」
「わ、私ですか!? そうですね……」
腕を組み、首を傾けながらシェリアは考える。頭の中でいくつもの方法を考え、脳内でシミュレートし、リスクなどを考えながら一番良い方法を探していく。やがて、シェリアは答えを導き出した。
「私が提示できる案は二つです。そこを強行突破するか、もしくは先制攻撃を浴びせて占拠するか」
「具体的には?」
「強行突破はその文字の通りですね。馬車の速度を上げるだけ上げて無理矢理突破する、ですね。でも当然奇襲を浴びれば対応は出来ないでしょうし、被害も大きくなりますのであまり採用したくありません」
「もう一つは?」
「こっちから敵の拠点に奇襲攻撃を行い、占拠し、安全を確保してから馬車を通過させる案ですね。こっちならば馬車への被害はまずありません。私たちは被害を受けるかもしれませんが……」
「そうか。で、ダレンの旦那、どちらの案が良いと思う?」
「俺としては先制攻撃を行う案を推したい。そもそも俺たちの目的は商隊の護衛だからな。するなら被害が出ない方法にしたい」
「そうか、なら採用だな。作戦は俺とダレンの旦那で考える。決まり次第、全員に伝えるからな」
**
その日の夜、寝所に横になりながらシェリアはじっと考えていた。
彼女の発案で決まった作戦がうまくいくかという事についてだ。作戦の細部はウィルやダレンが決めるため問題はないだろう。後はそれに基づいてしっかりと動けばいい。そのために彼女は脳内で何度もシミュレートを行っていた。
『いい加減に休んだらどう? 明日は大変になるわよ』
それを感じ取っているのか、アイリスが体の内から呆れているような口調で話し掛けてきた。シェリアは少し上半身を起こすと、不寝の番をしているロイと、同じように番をしている一人の騎士との距離を確認して再び寝所に体を沈める。そしてなるべく小さな声で返した。
「そう言ったって気になって眠れないんだよ。明日はいつもとは違う戦い方になるだろうしね。どう動くかはしっかり考えておかないと……」
『それは分かるけどね。でも貴方の役割は遠距離から確実に敵を貫く事でしょ?貴方は”びーむ”を誘導できるんだがらそれは簡単じゃない?」
「まぁ、そっちはね。不安がないと言えば嘘になるけど、なんとかなると思う。問題は穴に入った時なんだよね。穴の中じゃ魔法陣は邪魔になるだろうから展開できないし」
『あー、なるほどね。でも仕方がないんじゃない? 貴方は元々接近戦を想定していないんだし、それは魔法使いの戦い方じゃないわ』
「確かにその通りなんだけどね、やっぱり非常用としてあの剣以外に飛び道具は持っておきたいんだよ。それも味方を巻き込みづらい攻撃で」
『でも、そんな都合の良い物なんてあるかしら?』
「とりあえず魔法陣を小型化すれば良いと思う。あれは元々私が想像しやすくして能力を最大限に使うための手段だからね。後はどんな感じに使用するかだけど……」
シェリアは何と無く手を銃の形にして片目を瞑ってみる。すると親指が銃のスコープの役割を果たしているようで狙い易いとシェリアは感じた。そのまま人差し指の先端に魔方陣を形成し、魔力を溜める。溜めた魔力によって親指の先が隠れたものの、随分と狙いやすくなった。
彼女は小さく頷く。
「よし、これで行こう。しかもこれなら瞬時に狙いを定められるから、突発的に事が起こっても対処できそうだ」
そう彼女は呟いた。
**
誰もいなくなり、廃墟となりつつある村の外れ。
そこには周囲を小さな森で囲まれた洞窟があったが、現在その入り口は多数の草木によって隠されており、同じように自身もカモフラージュしたゴブリン3体が息を潜めて隠れていた。それぞれの手には木で作られた弓矢が握られており、矢をつがえていつでも放てるようにしていた。
彼らがそこまで警戒しているのには理由がある。前日にある商隊に攻撃を行ったが、見事に反撃に会い、戦力の大部分を失った。しかも逃げ帰った奴らが後を付けられたため、ここの場所がばれてしまった。
幸いにも後を追ってきた騎士は撃退できたが、後々ここを攻撃に来るだろう。
その考えが彼らをここまで警戒させている要因となっていた。
やがて朝日が高く上った時だ、彼らが見張っている方向の向こうに複数の人影が見えてきた。正面に金髪の長い髪を持つ女がおり、その後ろに二つの人影。それの一つが昨日後を付けてきた騎士であることがわかった。
ギッ、とあるゴブリンが指示を出すと、一体が敵襲を知らせるために洞窟内に戻る。
残った二体はじっと身を潜めながらゆっくりと矢をつがえ、狙いを定めながら相手を引きつける。
だが、もう少しといったところで状況が変わった。
一番前にいた女が正面に薄い白色の膜のような物を張ったのだ。
突然のことに動揺した二体だったが、すぐに立て直すと女に向けて矢を放った。だがそれは膜にあった瞬間に軽い音を放ちながら跳ね返ってしまった。
「ギッ!?」
馬鹿な、そう思いながら次の矢を用意しようとした時、白い光とともに額に熱を感じた後、彼らの意識は途切れた。
「ゴブリン二体、多分殺しました」
「おう、やっぱり待ち伏せていたな」
手を銃の形にして構えているシェリアにウィルはそう答える。
以前の防衛戦でかなりの知能を持っていると考えていたウィルは、確実に待ち伏せが行われていると考えていた。それらを防ぐためにシェリアを先頭にし、障壁を張りつつ近づく戦法をとった。そしてそれは見事に的中した。
「それにしても見事に隠れていましたね。矢を放ってくれなければわかりませんでしたよ」
「待て待て、嬢ちゃんはあれの姿が見えたのか、この距離で?」
「私、目がとっても良いんですよ。この距離だったら大丈夫です」
「はぁ、本当に嬢ちゃんはいろいろと反則だな。それでウィルの旦那、この後は?」
「予定通りこのまま制圧するぜ。で、その後に馬車を通過させてこの場からさっさとおさらばだ」
「わかった……ん?」
ちょうどその時、洞窟から次々とゴブリンが飛び出してきた。数は五。
「ありがてぇ、向こうから出てきてくれるなんてな。ダレンの旦那、中に入る手間が省けたぜ」
「ああ、そのようだ。嬢ちゃんは援護を頼む」
「はい!」
ウィルとダレンが剣を抜き、敵に向かって走り始めると、シェリアは同士討ちをしないように狙いを定め、一本の白いレーザーを放つ。じっと狙いを定めているため、彼女の能力によって自動的に誘導されるのだろう。それは外れることなく一体のゴブリンの脳天をたやすく貫いた。さらにもう一体、撃ち抜く。
しかし、仲間が倒れても彼らは止まることはない。まるで何かに取り憑かれているかのように向かってくる。
やがて両者が接触しそうになった時、どちらも互いの武器を振り上げ、互いに打ち付けた。両者ともに2人ずつであり、余ったゴブリンは相手を横を攻撃しようと動いた時、シェリアのレーザーに貫かれた。
そして残った二体もウィルとダレンにつば競り合いをしたが、軽く交わされ、彼らの剣によって切られ、赤い血を吹き出しながら倒れた。
「よし、これで制圧だ。シェリア、花火を貸してくれ」
「はい」
そう言ってポケットに入れていた持ち運び用の花火を取り出すと、彼に手渡す。ウィルはそれを地面に置くと火の魔法で導火線に火を付けて発射した。空には青色の爆発が起きる。作戦成功の合図だ。
「あの、たすけて……ください」
三人がホッと息をついた時、今にも途切れそうな小さな声が聞こえてきた。そちらの方を見ると隠されていた洞窟からボロボロの布切れで全身を隠した人が出てきて、そのまま倒れてしまった。
「っ! 人がいたのか!?」
そう言ってダレンは駆け寄ると、その人を抱きかかえる。意識はあるようだが、苦しげに呼吸をしている。布きれの胸の部分に膨らみがあることからそれが女性であることがうかがい知ることが出来る。
「おいおい、捕らえられていたヤツがいたのかよ。仕方がねぇ、ここを離れる時はこいつも連れて行く」
「そうですね。でも、その後はどうするんですか? 次の都市で保護してもらいますか?」
「そうだな、それが良いだろう」
**
次の日、シェリアの商隊は次の休憩場所である都市にあった。周囲は城壁に囲まれているが、アリオンほどの高さはなく、また石を積み上げただけの物にも見えた。しかし、これがあるとないとでは違うと言うことも明らかであり、ここには周辺の村々から避難してきた人々でいっぱいだった。
ここで彼女たちは物資を補給した後、次の日に出発することになっていた。
彼女たちは都市に入ると入り口付近に商隊を止めると、女性をギルドに預けるためにウィル、そして捕らえられていた女性を抱きかかえているダレンはギルドに向かっていた。
なお都市につくまでダレンが何度か事情を聞くため話しかけていたが、思い出したくないのか、一言二言話すだけで、何があったのかうかがい知ることが出来なかった。
やがてギルドに到着し、事情を説明して彼女はギルドの職員に奥へと連れて行かれた。
「では、彼女の身柄はこちらで預かります」
「ありがどう、もし何かあったら騎士団の方へ連絡をしてくれ」
ダレンがギルドにそう伝えた後、三人は商隊に戻るために、再び来た道を戻り始めた。
「にしても、あの女は一体何だったんだろうな……」
「どうしたんだ、ウィルの旦那? あれはゴブリンに捕まっていた人だろう?」
「確かにそうなんだけどよ、どうも気になることがあってな」
「気になること? 一体どういうことだ」
「あの女はゴブリンの巣にいた。で、基本そんなところにいた女は大なり小なり体は傷だらけのはずだ。にも関わらずあの女の体にはそういう物が見受けられなかった。一体何故だ?」
「それは……」
「まぁ、あとはギルドに任せるか」
――次の日。
「おい、ここに来ているか!?」
「いや、どこにもいない。一体どこに行ったんだ?」
ギルドの職員が支店内を右往左往していた。その理由は単純、ゴブリンにさらわれていたと思われる女性がいなくなっていたのだ。夕食後、眠いとの言葉を受けた職員は彼女を休憩室に連れて行き、そこで眠らせていた。そして朝、彼女を起こすため職員が休憩室に足を運ぶと、彼女の姿は忽然と消えていたのだ。
そんなギルドを尻目に、その人はすでに町の外に出ていた。そこで何を待っているかのようにずっと立っている。
すると一匹の白く巨大なオオカミが彼女の前に現れる。
『お待たせいたしました、我が主』
「ご苦労、少々遅かったな」
『王国の騎士達が巡回しておりました故、申し訳ありません。それでいかがでしたか、彼の者は?』
「ふむ、あまり収穫はなかった。しかし、その内に多くの魔力を抱えていることはわかった」
『作用で御座いますか。私も一度あってみたいと思いますが……』
「あの者達はサルバドールを目指しておる。その時に合えば良いだろう」
「わかりました、ではそのように……」
そしてオオカミは主と呼んだその人を背中に乗せると、颯爽とそこを立ち去っていった。
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