第2-1話 新たな出会い①
シェリアは何時もの夢を見ていた。
いつものようにどこか分からない草原に寝そべり、そして隣に座っている女性が話しかけてくる。何度見たか覚えていないほどであるが、シェリアは不思議とそれに飽きることがなかった。むしろ自分を心地よくリラックスさせてくれる、この空間のことが好きだった。そして何時ものように目の前が白くなっていく。しかし、今日この時は少し違った。最後の聞こえた言葉が彼女の記憶に残った。
『もう少しであなたに会えるわ。その時を楽しみにしているわね』
どういうことだ、と思ったときにはすでに遅かった。窓から指す日光の光を浴びながら彼女は目を開く。そこに見えている天井は彼女の見慣れたものではない。それも当然のことだ。今彼女が寝ているのはアンジェのアトリエの一室だ。いつもと違う天井なのは当たり前だろう。それを眺めながら先ほどの言葉を反復する。
「もう少しで会える。その時を楽しみにしている・・・か。本当にあの夢は一体何だろうか?」
彼女の疑問に答えるものはなく、ただただ部屋には朝の鳥の鳴き声が響くだけだった。
**
シェリアがアンジェの元を訪れてから次の日、彼女とウィルの姿はアンジェのアトリエの前にあった。ここにいる理由はほかでもない、いよいよ魔法の修練が始まろうとしているのだ。
なお、その場にオスマンの姿はない。と言うのもオスマンは、ギルドでの仕事があるとのことで早々にアリオンに戻っていった。そしてアンジェの人形であるフィリアは家事のため、アトリエの中で作業をしていた。そのため、今この場にいるのはシェリア、ウィル、アンジェのみであった。
アトリエを背にして紫色の三角帽子とドレス、そして右手に杖を持ったアンジェが立ち、そこから右にウィル、左にシェリアといった配置だ。
「それじゃ、これから魔法の修練を始めるけど・・・シェリアちゃんはその格好で良いの? 動きにくいように思えるけど」
そうアンジェに言われたシェリアの姿は、ここに来たときと同じあの白いドレスの格好のままだった。しかも、それを隠すように羽織っていた赤いコートはない。
「はい、大丈夫です。この服を着ていた方が気合いが入るので」
若干顔を赤らめながらシェリアはそう答えた。このドレスを着ることを恥ずかしがっていたシェリアが、これを着ているのには理由がある。
(まさか『次に出かける時』というあの条件が、未だに生きているとは思わなかった)
朝、シェリアが何気なくドレス以外の服を着たときに、あのミリスから受けた呪いが発動したのだ。それに驚いた彼女は急いでドレスに着替えた。すると何事もなかったかように呪いは収まり、彼女は安堵と同時に未だ呪いが続いていることに暗然とした気持ちになった。
だが、その時にはまだ彼女には心の余裕はあった。何故ならばあの赤いコートを着ればそれが解決するからである。あのコートで隠すことで、自分の恥ずかしいという気持ちは抑えられる。外は春の陽気でコートを着るには暑いが、我慢すれば何とかなると思っていた。では今何故彼女はそれを着ていないのだろうか。
(だが、それはまだ良い。問題なのはもう一つの方だ。あのクソ幼女・・・、呪いの発動条件を増やしやがった……!)
これが、彼女がコートを着ていない理由である。
これが発覚したのは朝、アンジェ達に挨拶をしたときである。コートを着たまま彼女たちの元に行き挨拶をしたのだ。その時彼女の口から出てきた言葉が『おはようございますにゃん!』であった。
どうやらコートを着てドレスを隠すという行為も発動条件に加えられたようだ。そんなことを知る由もない彼女は、いつも通り元気よく挨拶をして盛大に爆発したのだった。無論、語尾に付いた言葉に突っ込まれたシェリアは、顔を真っ赤にして部屋に引っ込んだ。
その後コートを脱いで彼女たちの元に戻ったとき、二人は何事もなく自分に接してくれたことに彼女は感謝した。そしてミリスへの復讐を誓った。
(あのクソ幼女、次に会ったとき覚えていろよ……。絶対に一発かましてやる)
そんなことを腹の中で考えながらシェリスは修練に臨む。
「それじゃ、まずは魔法の使い方だけど、どうすれば良いのか知っているかしら?」
「えっと、確か精霊の力を借りて使う方と、自分自身で魔方陣を作って使うという方法ですよね?」
「そう、大まかに二つに分けられるの。まず、精霊の力を使っての方法ね」
この世界における精霊魔法は精霊とのリンクを開くことから始まる。そのリンクを開いた後に精霊から力を借り、その力を使って魔法を行使する。このリンクがどの精霊と開きやすいか、というのはその者の属性によって変わる。
この属性というのが特に重要で、リンクを開きやすいと言うことは強力な魔法を使用する際に大きな力を得やすいという意味になる。では誰でも大きな力を得られるというとそうではない。ここで回路強度という物が意味を成す。この回路強度という物は例えるならば水が流れる水路のような物だ。そしてそこに流れている水は精霊から送られてくる力とする。頑丈で幅が広い水路ということになり大きければ大きいほど、そして強度が強いほど大量の水が流せる。逆に水路が狭く強度が弱い状態では大量の水を流すことは出来ない。無理矢理流そうとすれば水の勢いに耐えられず水路は壊れてしまうだろう。
「一番簡単に、そして大きな力を出せるのは間違いなくこの精霊魔法の方ね。けどあなたの場合は属性も分からないし、それを使うための回路強度も小さい。これではとても精霊魔法を使うことは出来ないわね……」
「それじゃ婆さん、魔方陣を使う方はどうなんだ? 前にジイさんにさらっと聞いたが、あれなら属性関係なく使えるだろう?」
「属性関係なく? それは本当ですか?」
「そうね……。そちらも説明しておきましょうか」
魔方陣での発動において必要なのは魔方陣を描くための知識と技術である。それを用いて魔方陣を作成すれば魔法が使用できる。そしてそれを使うために精霊の力を借りる必要はなく、借りる必要が無いと言うことは属性に縛られることがないと言うことだ。つまり誰であってもいろいろな属性の魔法を使うことが出来る、と言うことである。
これは大きなメリットだ。何せ知識と技術があればどんな魔法でも使うことが出来る。ただしこれも回路強度が大きく影響する。たしかに魔力さえ送り込めれば使用が可能なため回路強度が小さくても使用することが出来るが、送り込める量が小さいため、使用するのに時間がかかってしまうのが難点であろう。とても戦闘中に行うことは出来ない。罠などであれば可能であるかもしれない。
「現状、あなたの回路強度ではそれを使えるようになるまで、時間がかかるかも知れない。でも確かにそれが一番良いかもしれないわね。じゃあ、それを目指して魔法を覚えていきましょう。ではまず、魔力というものを感じてみましょうか」
「魔力を、感じる?」
よく分からない言葉にシェリアは首を傾げる。科学が発達した世界でそもそも魔力という物が空想の世界にしかなかった彼女にとって当然理解できるものでない。
アンジェはシェリアの言葉に首を前に振ると続ける。
「とりあえず、まずは魔力がどんな物か感じる事から始めましょう。まずは魔力という物がどのような物か分からないと魔方陣を作っても意味がないから。それじゃまず目を瞑って肩の力を抜いてね」
「はい」
その言葉に従ってシェリアは肩の力を抜き、ゆっくりと目を瞑る。それと共に彼女はなんとなく感覚が鋭くなったような、そんな気持ちが湧き上がってきた。体の中から聞こえる心音と周囲の音が聴覚に響いて来る。
「ちなみに婆さん。俺は何をしていれば良いんだ? 魔力を感じるのは余裕で出来るけどよ」
シェリアの耳にウィルの言葉が聞こえてくる。その言葉に少しの間隔が空いた後、アンジェの声が聞こえてきた。
「とりあえずあなたも同じようにしましょう。良い復習になるわ。じゃあ、目を瞑ったら二人とも手の平を前に突き出すように上げて」
その言葉に従い、シェリアはゆっくりと右腕を上げて手のひらを前に向ける。
「次に体の中にある魔力を手の平に集めるのよ」
(魔力を集める・・・?)
そう聞いたシェリアは頭の中で魔力がどのような物かを想像する。想像したのは体の中を流れる何らかのエネルギーだ。それが手のひらに向かって集まるような想像をする。
「それじゃ次にこう唱えて。『力と破壊の象徴たる火の精霊よ、あたりを照らせ、灯火』」
「「力と破壊の象徴たる火の精霊よ、あたりを照らせ、灯火」」
そう二人が唱えた瞬間、シェリアの耳にウィルの方から『ボッ』と言う音が聞こえてきた。まるで何かに火が付いたかのような音だ。
「いいわ、二人とも目を開けて」
その言葉に従ってシェリアは目を開ける。まず見えたのは見慣れた自分の右手。何の変わりもなくそこに綺麗なまま存在している。何にも変わっていない手の平に複雑な表情を浮かべながらその視線はゆっくりとウィルの方を向いた。そこで彼女の目は大きく見開かれることになる。
突き出されたウィルの手の平、その前に小さな炎が浮かび上がっていたのだ。それは大きさこそロウソクに灯された炎程度の大きさである。しかし火元も何もなく、そこに浮かび上がっていた。
「うん、良くできているわ、ウィル。長い期間魔法を使っていなかったにしては安定した火を出せたわね」
「当たり前だ。ジイさんや婆さんに徹底的に教わったからな。で、コイツは……やっぱり出来ていないのか」
そう言ってウィルはシェリアの方を向いて何も変化しない手のひらを見ると仕方がないと言わんばかりに小さく嘆息する。
「仕方がないわ。今のは精霊魔法だし、あなたは火の属性を持っているから出来て当たり前よ。でもこれで彼女は火の属性じゃないことが分かったわね」
「えっと、それはどういうことです?」
アンジェの言葉にシェリアは視線を彼女に向けるとそう問いかける。
「私ぐらいになると魔力の流れを感じることが出来るの。それは勘に近いけどほとんど当たっているわ。で、ウィルはともかく、あなたの手のひらに微弱だけど魔力の流れを感じたの。それで火属性魔法で基本中の基本である『灯火』の魔法を唱えさせたのよ。この魔法はとても弱い物でね、杖や媒体なんかがなくても使用することが出来るくらいの物なの。もしあなたが火の属性を持っていれば唱えた瞬間に発動するはずなんだけどね」
「そうなんですか。」
シェリアは今一度ウィルの方を見る。彼の手のひらに出来た小さな炎は消えることなく、そこに存在している。これが魔法なのか、とシェリスはしみじみそう思った。
「とにかく他の属性を試してみましょう。ウィル、あなたはそのままファイヤボールなどの魔法を練習していなさい。詠唱は覚えているでしょう?」
「……所々抜けているが、それでも良いなら……な」
「良いわけないでしょう。『力と破壊の象徴たる火の精霊よ、炎弾となりて焼き尽くせ』よ」
「了解」
そう言ってウィルはそこから少し離れて練習を始める。それを見送ったアンジェはシェリアにむき直す。
「それじゃ、他の魔法を試してみましょう」
「はい、お願いいたします」
その後、シェリアはアンジェの指導の下、他の水、風、雷、地の属性が使えるかどうかを確かめていった。やり方は先ほどの火の時と同じ、手のひらに魔力を集めて基本的な魔法を使うやり方だ。
しかしどの属性も結果は火属性と変わらず使うことが出来なかった。結果分かったのは本当に彼女はどの属性にも当てはまらない、もしくは属性自体を持っていないと言うことだった。
「うーん、どれもダメなのね。魔力は集まっているような感じはするんだけど・・・。さすが異世界の人、常識が通用しないわね。ここまでの結果を考えるとやっぱりあなたは精霊魔法を使うことは出来ないみたいね」
「そうですか……。あの今更な質問なんですけど、魔力ってどんな感じなんですか? 手のひらに集まっていると言っても何も感じないんですけど……」
「それは集まっているのが微量って事もあるけど……。そういえばあなた自身異世界の人だったわね。あなたの世界では魔力は無かったの?」
「はい。と言うより魔法その物が空想上の産物と考えられていました」
「うーん、それはちょっと不味いわね。魔方陣の魔法を使うにしても魔力を感じるようにならないと送り込むのも苦労するだろうし……。そうだわ!」
両手を合わせながら何かを思いついたアンジェは彼女に近づくとその突き出している右手を手に取る。突然の行動にシェリアは困惑の色を隠せない。
「えっと、アンジェさん? 一体どうしたんです?」
「今から私があなたに魔力を送るわ。そしてあなたはそれを感じて。そうしたらあなたも魔力がどんな物が分かるでしょ?」
「なるほど、確かに……」
今現在問題なのはシェリアが魔力と言うものがわからないと言うことである。だからこそ、魔力というものを感じることが出来れば想像もやりやすくなるのではないか、ということだろう。
「それじゃあ、今から流すけど準備は良いかしら?」
「はい、お願いします」
彼女がそう言うと、アンジェは首を縦に振り目を瞑る。するとアンジェの体が淡く光る。それはほんの少しの変化だがシェリアはそれに気がつく。そして次の瞬間、右手から何か暖かいものが流れ込んでくる感覚に包まれる。決して不快なものでなく、むしろ心地良さを感じるものだ。それは例えるならば暖かな春風のようなものであろう。やがてそれは全身に広がっていき、まるでぬるま湯に浸かっているかのような安らぎを彼女にもたらした。
やがて右手から流れてくるものが止まり、それも終わりになった。
「どう、何か感じた?」
「はい。何というか、とても暖かくて心地よい物でした。今のが魔力なのですか?」
「そう、例えるならば『体の奥底から湧き出る力』のようなものかしら? 良い例えが思いつかなかったから、とりあえずそんな感じの物と思ってくれればいいわ」
「なるほど。ありがとうございます」
「それじゃ、魔力が何か分かったところでもう一度さっきのを試してみましょうか」
「はい」
再びアンジェが元の立ち位置に戻ったのを確認するとシェリアは目を瞑り、右手を前に突き出す。想像するのはアンジェの言っていた『体の奥底から湧き出る力』である。具体的には先ほど想像した体を流れるものではなく、泉の底から湧き出る水のような物を想像する。すると先ほどは感じなかった暖かいものが体の奥底から湧き出るように全身に広がっていく。
「いいわ、その調子よ」
聞こえてきたアンジェの言葉に自信を深めた彼女は全身に広がっているものを突き出している手のひらの先に集めていく。体に広がっていた感覚は何時しか右手に集中していく。やがてそれは暖かいと言うより暑いという感覚に変わっていく。うまくいっているのかな、と彼女が思っているときだった。
「ちょっと、あなた何しているの?」
「へ?」
その時アンジェに声をかけられシェリアは目を開ける。見えてきたのは目を大きく開き驚愕の表情を浮かべる彼女の姿だ。そしてもう一つ、突き出している手のひらの前に白い球体が出来上がっていたのだ。
「え、何これ?」
シェリアはそう呟きながらジッとそれを見つめる。その球体は白く、光を放っているように思える。そして手の平から感じるのは暑いという、彼女が目を瞑っていた時と同じ感覚だ。シェリアは手のひらを動かすとそこにくっついているかのように動く。腕を上下に横に大きく振ってもそれは変わらない。
「あのこれ何でしょうか……」
「……私の推測だけど、それはあなた自身の魔力かもしれない」
そうアンジェは曖昧に答える。その様子からアンジェ自身も見たことがないのだろう、シェリアはそう考えると、まず目の前の球体をどうするかを考え始めた。
(えっと、確か感じた魔力を一点に集めるように想像したらこれが出来たんだよな?って事は分解して空気中に散るような想像をすれば消せるかも)
シェリアはその魔力の塊が徐々に分解して霧散していくのを想像する。すると白い塊はその想像通りに白い粒子をまき散らせながら消失した。
「お、うまくいった。どうにか消せましたよ」
「そ、そう。それはなりよりだわ」
何らかの問題が起きる前に消すことが出来て安堵するシェリアに対して未だ先ほどの光景にアンジェは困惑したままだ。なお、それを見ていたのはアンジェだけではない。
「おいお前、一体何をしたんだ?」
一人離れたところで魔法の練習をしていたウィルが近づいてきた。
「ウィルさん?練習はもう良いですか?」
「もう散々やった。そんなことよりも今のは一体何だ?新手の精霊魔法か?」
と、ウィルは呆れ口調だ。色々と彼女に驚かされてきたためか、ある程度耐性が付いているようでアンジェのように驚くことはないようだった。そんな彼にシェリアが返す。
「それが、私にも分からないです。魔力を掌に集めていたらあんなことになっていたんですよ。正直言って私が知りたいぐらいです」
「あのな、普通は魔力を集めると言っても、普通はあんな球体は出来ないぞ。せいぜい集めている場所が光るぐらいだ。そうだろ、婆さん?」
「え、ええ。普通はそのぐらいね。ただ強力な魔法を放つときはそれに応じて光も強くなるのよ。でも球体が出来ることはないわね。それにあの球体はかなりの魔力を感じた。あなたの回路強度を考えるとあんな芸当は出来ないはずだけど……」
「そうなのですか?でもそうなると何が原因なんでしょうか」
シェリアは思考を巡らせる。ウィルやアンジェと比べて自身との違いは何だろうか。彼らと比べて回路強度が著しく小さい、しかし内包している魔力は比べるまでもなく圧倒的な量を誇る。特定の属性を持たない。そして彼女が持つ固有の能力。
(もしかして先ほどの魔力の動きって、自分の能力を使って移動させたのか?あれは回路強度に依存しないようだし……)
彼女の能力は回路強度に依存しない。これは彼女が何度も能力を試していく中で導き出した答えだ。理由としては主に能力の効果範囲である。能力の効果範囲は自分が見えている範囲なら空にある雲でさえも操ることが出来ると言う点。回路強度に依存するならこの範囲が著しく狭いはずだと彼女は考えた。
そして彼女の能力の発動は常時であり使い方はただ想像するだけでいい。そして彼女の経験則だが、それは正確であればあるほど元素は彼女に答えてくれる。
(最初はよく分からないものを想像していたからうまくいかなかった。二度目は魔力を感じることが出来たからもっと正確に想像でき、そしてあれが生まれた。これをもっと正確にそして自分自身でわかりやすく想像すれば……)
彼女が想うのは先ほど球体が散るときに見えた粒子のような物質。そしてそれが自分の体の中にある開閉するための弁が付けられた膨大なエネルギータンクの中にぎっしり詰め込まれているのを想像する。
そしてその弁を少し開くと、そこから粒子のような魔力が水のように流れ出る魔力を想像した。そしてそれが流れ、溜まる場所は自身の目の前に流れるようにする。
変化はすぐに現れた。自分の目の前に小さな球体が生まれたかと思うと、みるみるうちに大きくなっていく。それに比例するようにそれから発せられる熱量も大きくなっていった。
シェリアは弁を閉じる想像をして流入を止めると球体もそれ以上大きくなることはなかった。
(あー、やっぱりか。ということは私に属性や回路強度がないのは、そもそも精霊魔法や魔方陣を組んで魔法を使用する必要がないからか。必要がないから削ったと。なんとも合理的な考え方だな)
体から流れ出た魔力は大きなエネルギーを持っている、ということはこれをそのまま利用して攻撃に転用することも可能と考えられた。幸い彼女の持つ魔力は途方も無い量だ。使う分には困らないだろう。
シェリアは球体を消して一息つく。ようやく有効な攻撃手段になり得そうなものを手に入れたことに安心したのだ。ふと、ウィルとアンジェの方に首を向ける。ウィルはどこか疲れたような、唖然としたような感情が入り交じった顔をし、アンジェは唖然としているが、やがて面白いものを見つけたように笑う。そしてシェリアに近づくと肩を掴んできた。その力は細い腕の力のどこから出てきているのかと思うほど強く、彼女は痛みを感じるほどだった。そんな風に肩を掴みながらアンジェは言った。
「ねぇ、今一体何をしたのかしら?説明してくれる?」
すごい良い笑顔で言ってくるアンジェにこりゃ逃げられないな、と思いながらシェリアはさっさと観念することに決めた。
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