第3-2話 城壁都市アリオン②

 アレンがテーブルに着くと早速彼はシェリアのことを説明し始める。彼女をどこで見つけた、どんな状況だったのか、どんな服装だったのかなどをいろいろとだ。それをアリアは真剣な表情で聴いていた。そして聴き終わった後の彼女の感想はこれだ。


「へぇー、そんなことがあったのね」

「……それだけかい? もっといろいろ言ってくると思っていたんだけどね」

「一応真剣にその話を聞いたけど、私にとってはそんな感想しか出てこないわ。それで名前とかは思い出せているのよね?」

「名前は思い出せたみたいだ。でも、書くことが出来ないみたいでね」


アレンがそう答える中、シェリアは内心冷や汗ものであった。実は書けました、など言おうものならゴブリンに襲われていた善良な市民から、警戒対象に変更だ。


「そ。で、ギルドマスターのところに連れて行って、面倒を見てもらうように頼むのよね?その後シェリアさんはどうするの? 多分だけどお金も何も持っていないんでしょ。普通の宿に泊まるにもギルドの寮に住むのもお金はかかるから、そのあたりはどうするのかしら?」


 そんなアリアの指摘にアレンは大丈夫と言って、安心させるような柔らかい笑みを浮かべると懐からあるものを取り出す。それは金色に輝き、表には人の顔で裏には剣を構えた一人の武人と思われる人が描かれたコインだ。全部で七枚。そのうち二枚は他の物よりも大きくなっている。それをシェリアは物珍しそうにそれを見つめ、一方でアリアはそれを見て驚愕していた。


「これだけあればすこしの間は生活していけるだろう?」

「いや、確かにそうだけど……。これアレンが出したの?」

「いや、出したのは団長だよ。さすがに私もこれだけの額をだす余裕はないから。そんなことをしたら一ヶ月は何も口に出来なくなる」

「そうよね。でもこれを常に持ち歩くのはさすがに危険じゃないかしら。あまりにも高額すぎるわ」


 そういってアリアはとても不安な様子だ。そんな二人の反応からシェリアもその金貨の価値はわからないものの、それでもかなりの金額ということは察した。


「そのあたりは団長と話してある。とりあえずこの金貨はギルドマスターに渡して、そこから彼女の当面の家賃などを工面してもらおうと思っている。それなら心配はないだろう」

「そうね、それなら心配はいらないわ。ところでシェリアさんはどこに住まわせるつもりなのかしら。そこはまだギルドマスターとは決めてないの?」

「ああ、そのあたりはギルドマスターに任せているから、明日ぐらいに答えを聞けるんじゃないかな?」

「そう。で、なんとなく察したんだけど、私に頼みたい事って明日までシェリアさんの事を見てほしいって事かしら?」


 アリアはアレンにそう問いかける。その問いかけをアレンは首を縦に振ることで肯定する。


「私は立場上、ここにずっといることは出来ない。外にいる部下を放っておくわけにはいかないからね。かといって、この人を一人ここに置いておくのも心配だったからちょうど良かった」

「そういうことね。いいわ、今日は非番だったし、幼馴染みを助けるのも悪くないし」

「ありがとうアリア。感謝する」

 

 頭を下げるアレンに対しアリアはやんわりとした笑顔を浮かべながらひらひらと手を動かしていた。気にしていない、そんな意味を感じる動きだ。


「ところでシェリアさんはもう夕食は食べたの?もし良かったら私のおごりでいいから一緒に食べに行かない?近くにおいしい店があるんだけどさ」

「そうなんですか?そうですね、是日行ってみたいですね」

「じゃあ、今から行きましょうよ。時間もちょうど良いし。で、アレンはどうするの?一緒に食べに行く?」

「いや、私は遠慮しておくよ。そろそろ隊に戻らないといけないからね」


 そう言って首を横に振るとアレンは腰元を探るような動作をした後、鍵のような物を取り出してシェリアの前にだした。それには部屋の番号と思われる数字が書かれている。


「今日泊まることになるお部屋の鍵です。部屋の場所はこのロビーの真ん中にある廊下を進んで一番奥の右側の部屋になります。もしわからなければアリアに聞いてください。では私はこれで。アリア、後は頼む」

「ええ、任されたわ。じゃあね」


 アレンは立ち上がると敬礼をして宿屋を出て行った。その後ろ姿を見送ったシェリアは少し寂しい気持ちになった。そんな時に声がかかる。


「それじゃあ行こうか、シェリアさん」

「はい、よろしくお願いします。そういえばここに泊まっている人たちは食事とかはどうしているのですか?見たところ食堂のようなものはないように見えるんですけど」

「実はここ、ご飯を食べる場所がないんだよね。で、ここに住んでいる奴らは皆、他の食事処に行くの。で、私たちもそれに漏れず他の場所に行くのよ。さ、行きましょ」


 アリアは立ち上がると宿の出口に向かって歩き始める。それを見て遅れないようにシェリアは急いで立ち上がると彼女の後をついて行く。宿を出るとアリアは大通りに沿って歩き始める。夕食時間だという事もあって道沿いの店舗には多くの人が入っている。


「アリアさんがいつも行っているところってこの大通り沿いにあるんですか?」

「んー、いやこの先に十字路があって、そこを左に曲がったところにあるのよ。もう少ししたら見えてくるわ」


 そうアリアに言われてしばらくすると十字路に差し掛かる。そこを左に曲がり少し歩くとアリアはある店の前で立ち止まる。


「ここが私の行きつけの店よ」

「ここは・・・」


 そこにあったのは一件の平屋店舗であった。壁や柱は樹木を加工せずそのまま使っており、いわゆるログハウスと呼ばれる物だ。周りの店舗と比べても明らかに違っているので遠くからも非常にわかりやすいだろう。


「さ、シェリアさん。早く入りましょ!」

「ちょ、ちょっとアリアさん!?」


 シェリアが建物をぼーっと眺めているとアリアは彼女を急かすように、そして楽しそうに背中をぐいぐい押し始める。押されている側は驚きながらもうまくバランスをとって倒れないようにしている。そんなこんなで彼女たちは店の中に入ると、見えたのはたくさんのお客と忙しそうに動き回っているウェイトレスだった。首を動かして店内を見渡すがどのテーブルにも人がすでに座っており、空いている席はないように思えた。


「あの、アリアさん。なんか空いている席、ないように見えるですけど・・・」


 シェリアは後ろにいるアリアにそう問いかける。するとアリアは彼女の後ろから頭だけをヒョコッと出すと店内を二、三度見渡していく。そして何かを思い出したかのように「あっ」と声を上げる。


「しまった、いつもこうなるから私たちが来るときって時間をずらして来てたんだった・・・」

「ああ・・・、ということはいつもこんな感じになるんですね」


 各テーブルに置かれている料理を見ると、どれもおいしそうに見える料理が置かれており、その量もなかなか多い。味の方もこれだけ繁盛していれば問題はないだろう。しかし座って食べることが出来なければどうしようもない。立って食べることも考えたが、非常に食べにくいのは簡単に想像がつく。アリアがいつもやっているように時間をずらして来た方がいいのかとシェリアが聞こうと思ったときだった。


「あ、アリアさん!いらっしゃいませー!」


 そう言って一人のウェイトレスが駆け寄ってくる。邪魔にならないよう後ろ頭に団子状にまとめられた青い髪。目尻が上がりパッチリとした目は強気で子供っぽい雰囲気を放っている。服装はエプロンを着てその下に薄黄色のワンピースのようなものを着ている。身長からしておおよその年齢は十三~十四といったところであろう。


「アリアさんと、初めての方ですね。いらっしゃいませ」

「こんばんは、ティアちゃん。今日は私とこの人の二人なんだけど、空いている席はあるかしら?」

「えっと・・・そうですね。ちょっとここで待っててください」


 そう言うとティアと呼ばれた少女は空いている席を探すためか、一旦彼女たちから離れる。しばらくすると嬉しそうな笑みを浮かべて戻ってきた。


「お待たせしました!奥の席にご案内しますー!」


 そう言って、ティアは先導するかのように二人をその席に案内する。そして着いたのは店の一番端っこ、壁際の席だった。そこではウェイトレスの一人がテーブルの上にある使用済みの食器を急いでかたづけている。その様子を見てティアは申し訳なさそうに眉を下げながらそう二人に頭を下げる。


「すみません、もう少し待っててください。今片付けていますので」

「ううん、構わないわよ。それにしても相変わらず繁盛しているわね。でもここの料理はおいしいから仕方がないわよね」

「ありがとうございます。そういえばアリアさん、そちらの人はどなたですか?初めて見る人ですけど……」


 そう言ってティアはシェリアに視線を移す。その視線は珍しいものを見るように上から下へ、またはその反対とせわしなく動いている。そんなに自分のことが珍しいのかと心の中でシェリアは呟く。


「この人はね、今日のゲストよ。アレンに今日一日面倒を見るように頼まれたのよ」

「えっ……。もしかしてアレンさん、帰ってきているんですか?」

「ええ、でもこの人を送った後に城壁の外にいる部隊に戻ったわ。明日またギルドの関係でまた来るみたいだけど」

「そうですか。久しぶりに会えるかなと思ったんですけど……」


 そう言って視線を落とし先ほどまで発していた元気な雰囲気がなりを潜めた。表情も少し悲しそうな、残念そうな様々な色を見せる。その様子から彼女にとってアレンは何か特別な存在なのだろうとシェリアは考えた。その時、テーブルの片付けが終わったウェイトレスがティアに声をかける。それを聞いたティアは頭を強く何かを振り払うように動かすと再び笑顔をシェリアとアリアに見せる。


「失礼しました。えっと、片付けの方も終わったみたいですのでどうぞ」


 そう促された二人につく。テーブルの真ん中には茶色の皮でカバーされたメニューは二冊置かれているだけであり、調味料などは置かれていない。


「ご注文はいかがいたしましょうか?」

「そうね、シェリアさんもまだ初めてでわからないだろうし。いつものを二人前で。シェリアさんもそれでいい?」

「はい、お願いします」

「わかりました、ではお待ちください!」


 そう言ってティアはまた元気いっぱいで片付けを行っていたウェイトレスと共に厨房に向かって行った。


「元気な子ですね。アリアさんの知り合いのようでしたけど」

「あの子はこの食堂の女将さんの娘なのよ。この食堂はその親子で切り盛りしていてね。まぁ、お客が増えてからは他の人も雇いだしたみたいですけど」

「そうなんですか。そういえばアリアさんが注文していた料理ってどんなものなんですか?」

「それは来てからのお楽しみ。そういえばシェリアさんは今何歳なの?私より歳が上のように思えるけど?」

「私ですか?私は今……21ですね」

「21……?え、本当に21?」

「はい、そうです」


 元の世界の年齢とはいえわざわざ変える必要は無いだろう、そう思ったシェリアは事も無げにそう答える。するとアリアの視線がせわしなく動き始める。それと共に挙動もおかしくなっていく。


「アリアさん、大丈夫ですか?落ち着いてください」


 混乱している彼女を心配したシェリアは落ち着かせるように優しく声をかけるとアリアは我に帰り少々顔を赤らめながら俯く。


「あ、うん。大丈夫。てっきり年上かと思っていたんだけど、まさかあたしより二歳年下なんて・・・」

「そういうことですか……。と言うよりそんな雰囲気でしたか?」

「うん、何というか年上のお姉さんという感じだったよ」


 アリアのそんな答えにシェリアは自身の姿を思い出して心の中で納得する。ああ、確かにそんな感じはすると、そう思った。 


「あはは、そんな風に思われていたんですね。ところで話は変わりますけど、アリアさんって一人で冒険者をされているんですか?」

「いや違うよ。別のクエストに行っていて今日はいないんだけど、あと二人いるのよ。ウィルっていう奴とロイってやつね。で、いつもは三人でクエストに行っているんだけど、定員の関係で私がはじかれたってわけ。まぁ、支払いが良かったから人が集まったっていうのもあるみたいだけどね」

「そうなんですか。ちなみにどんな人たちなんですか?」


 シェリアがそう聞くとアリアは顎に人差し指をあて視線を上に向ける。


「んー、そうね。まずロイは一言で言えばバカ、かな?」

「バカ、ですか?」

「うん、バカ。まっすぐ過ぎてね。でも仲間や友達を思いやる気持ちは私たちの中でも一番強いかな。昔からそうなのよねー」


 と、アリアは困ったような、でもどこか気恥ずかしい複雑な感情が入り交じった表情で答える。またその気持ちを表しているのか、右手で前髪をくるくるともてあそんでいる。


「昔からと言うことは、小さい頃から知っているんですか?」

「うん、あたしとロイは幼馴染みだからね。アレンを含めてよく一緒にバカをやったもんだわ」

「なるほど。で、もう一人のウィルさんってどんな人なんです?」

「ウィルはあたしたちのリーダーみたいな奴ね。気怠げだけど、やるときはやる奴って感じかしら。五年前ぐらいにこの町に来て以来、私たちとチームを組んでいるわ」

「あっ、この町の出身じゃなかったんですね。前はどんなことをされていたんですか?」


 そう首をかしげて聞くシェリアにアリアは腕を組み視線を下げて考え始める。


「うーん、アレンの話だと同じ騎士団にいたみたい。でもすぐにやめちゃってここに来たんだって。その詳しい話はあいつもアレンも聞かせてくれなかったのよね。でもしっかり仕事はしてくれるから別にいいんだけど」

「そうなんですか。近いうちにお会いしたいですね」

「明日には帰ってくるって予定だったから多分会えるわ。それでシェリアさんはギルドに入った後どうするの?」

「どうする……とは?」


 アリアの問いの意味がわからず、首をかしげて答えるシェリア。その様子に苦笑しながらアリアは続ける。


「えっとね、多分ギルドに行った時に説明を受けると思うんだけど、ギルドっていくつかの種類に分かれているのよ。で、それによってある程度の方向性が決まるんだけど、シェリアさんはどんなことをやりたいとか希望はある?」


 そうアリアに言われてシェリアは腕を組み椅子の背にもたれながら考え始める。とにかく今の彼女の優先事項は生活のために安全にお金を稼ぐことである。故にこの町でアルバイトのように働ければと思っていた。この世界の全容がわからぬ今、例え金払いがいい仕事でも街から大きく離れるのは危険だ。


「そうですね。とにかくこの町の中で日雇いのような物が受けられればと思います」

「そっか。それじゃ冒険者ギルドか商業ギルドの二択になるかしら?工業ギルドは技術がいるし・・・」

「三つあるんですか。どんなところなんですか?」

「商業ギルドと工業ギルドは名前のままね。商品を売り捌く側とそれを作るところってところかしら。で、あたしも所属している冒険者ギルドは何でも屋って位置づけね。魔物の討伐から街の雑用とかを引き受けたりしているわ」

「そうですか……。ちなみに冒険者ギルドは、その新人にも魔物の討伐を行わせたりするのでしょうか?」

「それはないわ。ギルドに入ったばかりの人は、しばらく街の雑用のクエストしか受けれないのよ。で、一定数こなしてようやく討伐クエストが受けれるようになるの。けどそれにもランクが設定されているから、いきなり難しいクエストを受けさせることはないわね」

「そうですか」


 と、シェリアは胸をなで下ろす。討伐クエストなど危険極まりないものを受けるつもりは毛頭無いが、ギルドから言われたらどうしようと少し考えていたところがあったからだ。


「もっとも、完全にないってことはないわ。例えば街に強力な魔物が攻めてきて人手が足りないって時は引っ張り出されるかもね」

「えっ、そんなことがあるんですか?」

「昔はあったみたいだよ。その時はギルドに所属している人も少なかったみたいだし、小さな村とかそもそも人がいない場所では当然人手が足りないから召集される事は多いわね」

「ああ、それなら仕方がないですね」


 と、納得したようにシェリアが言葉を返しているとき、先ほどこの席に案内したティアが二つの料理がのったお盆を持ちながら二人の元に来た。


「お待たせしました、ご注文の品です」


 そう言ってティアが二人の前に料理を配置する。料理は一枚の皿に収められており、手のひらサイズのパンが二つ、ソーセージのような物が三本、他にジャガイモを薄切りにして焼いた物などであり、ぱっと見ではインターネットで見たことのあるドイツ料理のようなものに彼女は思えた。ティアは料理とフォークのような食器が入った入れ物を置くと、頭を下げてまた別の場所に向かっていった。


「それじゃ食べましょうか。ここの腸詰めはおいしいわよ」


 そう言ってアリアは食器を手に取るとそれを突き刺し口に運ぶ。そして一口。とてもおいしいのか、その顔はかなり緩んでいる。若干ではあるがその幼さが残る顔とその様子からとても自分よりも年上とは思えないと、そう彼女は思う。


(ていうか可愛いな。まるで小動物を見ているみたいだ)


 シェリアはそんな彼女を眺めているとそれに気づいたアリアが首を横に小さく傾け不思議そうな顔を向ける。


「どうしたの?食べないの?」

「あ、いえ、いただきます」


 そう言って少し焦った様子でフォークを手に取るとソーセージに刺して口に運んだ。その食感は元の世界で幾度となく食べたものにそっくりであり、味は少々濃いめであるものの、非常に良いものであるとシェリアは思った。


「どう?」

「はい、とてもおいしいです!」

「良かった、口に合って。今日はあたしのおごりだからさ、気にせず食べてね」

「はい、ありがとうございます」


    **


「アリアさん、今日はありがとうございました。とてもおいしかったです」

 そういったシェリアが今いるのは彼女が泊まる宿の廊下だ。おいしい料理に舌鼓をうった二人はそのまま宿に戻ってきていた。そして今は自分の部屋に向かって歩いている。


「ううん、気にしなくてもいいよ。で、明日ギルドに行くんだよね?」

「はい。でもここへの滞在を認めてもらえるか不安です」

「心配いらないよ。あたしギルドマスターのこと知っているけど、いい人だからさ、きっとシェリアさんの事も助けてくれるって」

「そうですか。わかりました。おっと、では私はここで」


 部屋のドアの前に着くと、シェリアはアリアに小さく頭を下げる。


「うん、またね」


 そう言って、アリアは元気に手を振ると廊下を駆け足で進み、あっという間に二階へと向かう階段に消えていった。

 アリアの姿を見送ったシェリアは持っていた鍵を使いドアを開けて中へと入る。部屋の中はカーテンが閉められている窓、そのそばにシングルサイズのベッドが設置されている。また大きな鏡が付いた化粧台も設置されており、壁には衣服を掛けるハンガーのようなものがあった。しかし、置かれている家具はそれだけであり内装は全体的に非常にシンプルな印象を感じる部屋であった。


 そしてそれらを電球色で優しく照らしている手提げランプのような物が机に置かれていた。だが、彼女が見ているものは明らかに他のランプとはものが違っていた。500mlのペットボトルくらいの大きさで、ガラス容器の中に小さな宝石のようなものが入っていた。その宝石には魔法陣のような模様が刻まれており、さらに土台の部分にも陣が描かれており、同じ色で光っていた。


「これ……、普通のランプじゃないよな? アーティファクトって呼ばれているやつか?」


 恐る恐る土台の魔法陣に手を触れると、一瞬少し強い光を放ち、土台の魔法陣とそれと宝石から放たれていた光が消えた。もう一度それに触れると、再びどちらも光を放ち始めた。


「すごいな、魔法の力でランプを再現しているのか。一体どういう原理で動いているんだか……」


 そう言うと彼女は壁に向かい、そして掛かっているハンガーに着ていた赤いコートを掛けた。

 そしてドレスを脱ごうとして、止まる。今彼女の持っている衣服はハンガーに掛けているコートと現在着ているドレスしかない。つまり、今着ているドレスを脱ぐと下着姿で眠ることになる。


(うーん、正直言って下着姿で寝るのはあんまり好きじゃないんだよな。それをして万が一風邪とか引いたら大事だし・・・)


 彼女はそう思うと部屋を暗くしてその格好のままベッドに向かい布団に潜り込んだ。きれいなドレスが皺になってしまうかもしれなかったが、柔らかい布団の感触に自然と頬が緩みもうどうでもいいと彼女はそう考えた。


「収入が入るようになったらいろいろ服を買わないとな。あーでもこのドレスで仕事はまずいからいくつかは必要かな?」


 そう呟きながら彼女は目を瞑り眠りについた。

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