第5話 男子アイドル同好会
「ねぇ、なんで男子アイドル同好会なの?」
同好会は教室申請をする必要がある。全員が部活動をしなければいけないという学校の都合上、同好会は結構な数が存在している。名ばかりのところも多いらしいけど。
職員室前の掲示板には各教室の利用状況が書き込まれていた。男子アイドル同好会は、知ってか知らずか、私の教室だった。
「僕のように可愛くなりたいと秘かに考えている男子の受け皿としてさ」
彼はその掲示板に部員募集の張り紙を貼りつけて続ける。
「性の多様化、といえば大仰かも知れない。けれど実際にそういう人は少なくない。それに、どう生きたいかとか、自分らしさとか、そういうことを考える、考えてもらうきっかけになりたいって思ってる」
ずいぶんしっかりとしたことを考えていたんだなぁと私は感心した。
「そういう大義名分で同好会設立を先生にお願いしたのでした」
「台無しだよ!」
「まぁまぁ、まずは新たな部員獲得を目指して学内ライブについて考えようじゃないか」
そういって歩こうとするりゅうくんを私は引きとめた。
「それも大事だけど、まずはりゅうくん自身が、どういうアイドルになりたいのか詳しく聞いておきたい」
りゅうくんはそれを聞くと吹き出した。
「え、なんで笑ってんの!?」
「いや、なんだかんだでめちゃくちゃ協力してくれるんだなぁって。嬉しいよ、ありがとう」
彼は私の頭を撫でた。照れ臭くてすぐにはねのけた。
教室に移動して、まずは色々ヒアリング。購買で買ったお菓子をつまみながらノートにメモする。机を向かい合わせて面接形式。
「あなたはどんなアイドルを目指しますか?」
「可愛くて、会う人みんなを励ますことができるアイドル」
「その可愛いとはどのような可愛さですか?」
「愛嬌のあるかんじ、かな?」
「会う人とはこの学校の全校生徒ですか?」
「いずれは全国に」
「規模がでかいな……、えーと、ソロ活動ですか?」
「今はそうだけど、他にもいるならみんなで目指したい」
「目指すって、何を?」
「武道館?」
「……」
アイドル像的にはこんな感じ。続いてそれを目指すためのヒアリングだ。
「化粧のテクニックを知ってますか?」
「ネットで調べたぐらい」
「あの衣装は手作りですか?」
「ううん、ドンキのやつ」
「……。女の子の声はどのくらいだせますか?」
「練習中です(低音)」
「ふざけないで!」
……ほんとにやる気あるのかな?
「それではヒアリングの結果を発表します」
私は黒板の前に立つ。りゅうくんは一番前の座席に座る。
「りゅうくんはまず身長を縮めてください」
「いきなり無理難題」
「可愛いとは人それぞれだけど、小さいものに言うことが多いの。りゅうくん、身長は?」
「176センチメートル」
「そんな女子アイドルほぼいないわ。いてもクール系とかイケメン枠ね。モデルなら理想だけど、アイドルの理想は157センチだから、せいぜい20センチは縮めなきゃ」
「でも縮めるのは流石に無理じゃ」
「そう。だから衣装と化粧でごまかす感じにします」
「ふむ」
「衣装はコスプレサークルでもどこでもいいから頼んで作ってもらって。安物だと、なんというかイタイから」
「うぐっ……」
「それで、体の大きさを活かした派手めな衣装にするの。可愛いの定番はピンクとかだけど、今回は黄色やオレンジあたりを主体にしたイメージで」
「フリルはつけてもらってもいいの?」
「体が大きいからつけすぎると見た目が重いかも。最小限で」
「ふむふむ」
りゅうくんはメモを取り出した。
「それで化粧なんだけど、りゅうくん割と普通の顔してるから、やり方次第で可愛い系もクール系も作ることができると思う」
たぶん世に言う塩顔の部類だ。肌はきめ細かいのでもう少し美白すればいい感じになるはずだ。
「ちょこちょこディスるね、はーちゃん」
なんだか落ち込んでるようだか気にしない。
「あとは声よね、裏声での発声練習を毎日やること。そんなの太い声で可愛いなんて言われないから。はい、あめんぼ赤いなあいおうお」
「アメンボアカイナアイウエオ」
「……ふっ」
「鼻で笑われた!」
そのあとはひたすら裏声や高いキーでの発声練習を続けた。これなら次からは音楽室の方が良さそうである。
「はーちゃん、ありがとう、また明日」
すでに高い声を使い慣れはじめている。
「え、明日土曜日」
聞き逃さなくてよかった。
「練習するに決まってるじゃん。1にレッスン、2にレッスンだよ」
「いやいや、私バイトあるから!」
「えー? てかはーちゃん、子役のときのお金持ってるんじゃないの?」
「ないわよ。というかりゅうくんはてっきり知ってるのかと思ってた」
「なにを?」
私は少しだけ間をおいた。
「マネージャーだった母親が、事務所のお金横領して捕まったの」
アイドル男子 ワラシ モカ @KJ7th
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