第3話 幼馴染はやっぱりこじれていた件

「で、なにしてるの?」

 久しぶりの再会をよそに、1番の問題に切り込む。

 バイト終わりまで彼に待ってもらい、コンビニであんまんを頬張る。彼は肉まん。夜はまだ肌寒い。

 ようやく見ることができた学生服姿の彼は、どこから見ても普通の男子高校生だ。周りが見ればカップルのように見えるかもしれない。

「今日の反省会。ステップを間違えちゃって」

「そうじゃなくって! なんで、女装して踊ってるのか!」

「……まぁ、歩きながら話そうか」

 彼はそういうと、残りの肉まんを口に放り込んだ。学生鞄を背負って、右手に衣装の入った紙袋を持って歩きだす。私もそれについて行って左側を歩く。

「僕さ、可愛いアイドルみたいになりたいんだ」

「……は?」

 結論過ぎる。しかも振り切れている。歩きながら話すような話じゃない。

 どうリアクションをとればいいか迷っているうちに彼は続けて話す。

「アイドルのアニメってあるでしょ? それのライブシーンがすごくて、ハマって見てたんだ。それで、キャラクターの声優さんが、その役でライブをするのを生で見た時、感動して、僕もああなりたいって思ったんだ」

「そ、そうなんだ……」

 まさか、りゅうくんがそういうのを見てオタクになっているとは……。いや、別にそこまでだったらよかったんだ。なりたいってなんだ? これはあれか、こじらせているというやつか。

「流石に今日のオリエンテーションでアニソン踊ったらドン引かれるかなーって思ってあれにしたけど」

「その判断だけは良かったと思う」

「あのパフォーマンス見てどう思った?」

「どうかな…、みんなはパフォーマンスというよりは、男子がアイドルを踊ってるってことに注目してた感じだから」

「はーちゃんはどう思ったの?」

「どうって…まずりゅうくんだったことにびっくりしてたけど、そうね。一生懸命ではあったかな。真剣だった」

「そっか、ありがとう」

 しかし私は続けて言う。

「でも、その真剣はパフォーマンスをうまくやらなきゃってだけのもので本当に見ている人を励まそうっていう真剣じゃなかった。それがなきゃ、舞台に立っても輝けないよ」

 彼は立ち止まった。そして苦笑いを浮かべた。

「やっぱり、元天才子役なだけあるね。はーちゃんは」

「本当に"もと"だけどね」

 今は辞めてしまったけれど、中学生になるまでは子役として道を歩んでいたことがあった。それだけのことだ。

「そんなことより、これからどうするつもりなの?」

 彼は少し考えるように俯いていたが、急に弾けたようにして私の手を取った。代わりに投げ出された紙袋は地面に横倒しになった。

「そうだ! はーちゃん。僕に色々教えてよ! 化粧の仕方もそうだけど、舞台での振る舞いとか」

「えっ、はぁ!?」

 私、子役だったってだけでアイドルじゃないのだけど。あと顔が近い。

「男子アイドル同好会の部員として、いや。プロデューサーとして!」

「アニメとかドラマの一話っぽく言うな! あと同好会の頭数に入れないで!」

「まぁまぁ、人助けだと思って」

 熱が入ると強引になるのは彼の昔ながらのクセだ。ずいぶんと引っ張りまわされた思い出が蘇る。こうなってしまった以上は止めるのは難しいだろう。


 いまのところは。


 こうなったらありとあらゆる手段を使って彼を更生させた方が良さそうだ。

「……じゃあ引き受けてあげる」

「ほんとっ!? やった! はーちゃん大好き!」

「っ!?」

 突然抱きしめられた。

 これも彼のクセだ。


 人懐っこくて昔からほんとうにたくさんの友達がいて、その自然の振る舞いそのものがまさしくアイドルだった。そんな存在が本当にアイドルを目指すのを、ほんのちょっと見てみたい気もした。女装は置いといて。

「僕、はーちゃんのこと大好きだけど、はーちゃんも僕のこと好きだよねー」

「なっ!?」

 思わず彼を突き放した。悪戯っぽく笑う彼をみて、ぶっ飛ばせばよかったと後悔した。

「これからよろしくね、はーちゃん」


 長我部龍牙とはそういうやつだった。

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