第2話

 長我部龍牙は小さい頃に家が隣同士のいわゆる幼馴染みだ。お互いりゅうくん、はーちゃんと呼び合っていたが年は彼の方が一個上で、つまり先輩ということになる。小学校低学年の時に私が引っ越してしまい、年賀状ぐらいの付き合いになってしまったため、こちらに戻って来て、まさかこんな再開をすることになるとは夢にも思ってみなかった。

 私は彼がどんな学校生活を送っているのか気になって2年生のいる階へこっそり足を運ぶことにした。

 放課後になってはいるけど、まだ廊下には上級生がいた。リボンの色が違うせいで、ちらちら見られている。声をかけても良さそうな人に思い切って聞いてみる。

「突然すみません、長我部龍牙って人、ご存知ですか?」

「え? あぁ、オサ? 知ってるよ。あいつに用事?」

「ええと、用事ってほどじゃないんですけど、まだクラスにいますか?」

「どうだろう? 隣のクラスだからなぁ。あ、おーい。オサってまだいる?」

 ちょうど通りかかった人がりゅうくんと同じクラスだったらしい。

「オサもういないって。最近すぐに帰るみたいだよ?」

「そうですか……ありがとうございます」

 そうなるともうここには用はない。明日の昼休みにでも見に来よう。私はその人と別れ、足早に学校を出ることにした。

 どこもかしこも部活動の勧誘で賑わっている。体操服なのが一年生、ユニフォームなのが上級生で、ラケットのフォームを教えている。遠くから吹奏楽部のラッパの音が鳴っていて、さながらテーマパークのような喧騒だ。

 校舎を出てしばらく歩けばそんな騒がしさも徐々に小さくなっていき、自分の足音だけが聞こえるような住宅街に通りかかった。私の家はこのすぐ近くにあるけれど、今日はこのままバイトに行くことにしたので、この道をまっすぐ進み、駅前に向かう。

 ちなみにあの学校は本当はアルバイト禁止だ。だけど調理がメインで、しかもカラオケ屋さんならほとんど気づく人はいないだろう。




「古谷さーん。406号室のドリンクだけ持ってってー」

 たまにそんなことがある。団体客が複数来て今いるシフトで捌ききれない時だ。

 私はしょうがなくそのドリンクを持って階を降りる。一個下に降りるだけだし、ドリンクも一個だけだから楽ではあるんだけど。

「失礼しまーす」

 気だるげな声でドアを開けると大音量が漏れる。あまり人を見ないように置くのだけど、今回ばかりは彼を直視した。

 今日のアイドル衣装を着た長我部龍牙が踊り狂っていた。

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