第3話 お金?



 はぁ、はぁ。


 僕は純子ちゃんを追いかける。

 タッタッタッタッ。

 彼女の住所は知ってるんだ。追いかけることくらい訳ないさ。


 ..だけど。まったく。

 余計な手間は取らせないで欲しいな。

 

 と、愚痴愚痴思っていると、おや? と思う。

 どうやら彼女、コンビニへと逃げ込んだようだ。

 ウィーン。

 と、扉が自動に開けば、明るい店内へと入っていく純子ちゃん。



 ..まぁ、そうか。

 彼女は見るからに文系タイプ。運動が音痴なのは何となくお察しだ。

 自分の足ではすぐに追い付かれると思ったのだろう。



 僕は、うーん、と唸った。 


 ..まぁ、今は、..待つしかないかな? と、僕は近くのブロック塀へとよじ登れば、コンビニの店内を覗ける場所へと移動する。

 ひょいッ。

 目はいい方なのだ。

 多少の距離は構わない。



 それから暫くは彼女を眺める僕である。


 純子ちゃん、呼吸を落ち着ければ、雑誌コーナーで本を開き。

 が、すぐに閉じれば、他のコーナーへと目移りしていく。


 うんうん。平静を装ってるのはいい感じ。


 ..が、そう思ってたのは最初だけ。それからというもの純子ちゃん。手持ち無沙汰なのか、店内をぐるぐる歩き回る。

 うろうろ。

 うろうろ。




 おっと。これは..。



 純子ちゃん、挙動が不審者のそれである。

 店内のお客さんは彼女一人だ。

 ま、手持ち無沙汰は分かるけどね。でもそんなぐるぐるまわってるとお店の人に目をつけられないかな、純子ちゃん。


  

 と、そんな時だ。



「「──── ギャハハハハハッ!!」」



 と、複数の耳障りな笑い声が駐車場を木霊した。   



「ちょっと、それマジあり得ないってッ。

 ないからッ! マジないからッ!」


 何だ何だ? と僕は見た。


 わめく女。


 コンビニ前の駐車場。

 そこには他人への迷惑も考えずにたむろする5人の集団。

 金髪、銀髪、ドレッド、スキンヘッド、などなど。ほかにも黒肌、タバコ、チェーンアクセサリーと、明らかにアウトローな要素が満載な彼らである。

 皆して人相が悪い。

  


 おいおい、と思う僕。

 こんな真夜中にゲラゲラ笑うのは勘弁してよ。

 


「そんな与太話信じるとかマジあり得ないんですけどッ! マジきしょいッ!」


 

 きしょい。きしょい。

 と、何やら興奮してる黒ギャル女。

 男衆が、「冗談、冗談だって」と質の悪い笑顔でヘラヘラと宥めている。


 ゲラゲラ。

 ゲラゲラ。



 うーん、若いね。

 若い男女でこんな夜中に。


 うんうん。悪い子だけど青春だね。

 でも、ちょっとは回りを考えてほしいかな。

 


 と、まあ、以上のように。こんな夜中に大きい声で騒ぐのだ。

 彼らの品性がうかがえる。



 彼らの話を聞いてて僕は思う。

 うーん、..なにか揉め事かな?と。

 が、当然関わりのない僕は静観を決めた。



 ─── てか、よくよく見ればあの制服。

 もしかして彼ら、純子ちゃんと同じ学校の生徒じゃね?

 ..うん。

 やっぱあれ、そうだわ。

 彼らは純子ちゃんと同じ学校の生徒である。



 

 ..てか。アレだね。


 ワルはどこにもいるんだね。

 純子ちゃんの学校にもああいうワルはいるようだ。


 ..とかとか、そんな感じに僕がしみじみにそう思っていれば。

 店内からそそくさと出てくる純子ちゃん。

 こそこそ。




 ─── あれ?


 ずいぶん出てくるのが早い。

 まだ入って精々5分くらいじゃないの?



 と、思えば。

 黒ギャルが言った。



「あぁッ!? 

 ちょっとッ!井上じゃんッ!」


 

 びくッと反応する純子ちゃん。

 黒ギャル女はまるで新しいオモチャでも見つけたかのごとく。

 ツカツカツカ。

 と、嬉々として純子ちゃんへと歩み寄る。


 純子ちゃんの表情が歪む。

 ..うわぁ、見つかった。って顔が隠せてない。


 ま、一応それでも。

 にぱぁ。

 と、笑った。

 僕に当たりのキツい純子ちゃんでも、空気を読むことはするようだ。



「..あ、あはは。 や、やあ、浜切さん」



 ..ああ。なるほどね。

 知り合いか。

 うん。店から出てきた理由がわかったよ。


 

 ね?

 君たちも。ね?



 愛想笑いで答える彼女。

 顔がひきつっている。

 だけど黒ギャル女はそれに気づいてないみたい。


 ..いや。気づいてるかもしれない。

 

 って、いやいや。

 てか、普通気づくよ。

 

 でもあれかな。

 それはきっと、彼女にとっては大した問題ではないのかもしれない。

 


 

「アンタ何してんの? こんなとこでさ。」 



 まるで友達のように聞いてくる黒ギャル女。



「え、えっと。私、塾の帰りでさ。..はは。」


 

 と純子ちゃんが言うと。

 その言葉に黒ギャル女は、


「あー、塾ぅ? そうなんだ? へぇー」


 と、関心があるのか、ないのか。そんなよくわからない適当な感じである。

 関心がないのか。

 じゃあなんで聞いたんだろ、と僕は思う。



 つか、純子ちゃんは純子ちゃんで早く離れたいみたいだ。

 いい感じに笑いを返しつつ。

 ──── あ、じゃあ私はこれで。

 ってな感じに、さよならの雰囲気を出しつつある純子ちゃん。



 でもこの黒ギャル女、どうやら逃がすつもりはないらしい。

 会話を切らせず、「ちょっとこっち来てよ」と純子ちゃんを仲間の元まで連れていく。

 純子ちゃんは「え? え?」と戸惑ってされるがまま。


 ─── え?  

 これ、不味いんじゃね?


 僕は思う。


 アウトロー満載の黒ギャルビッチ系女子に絡まれるビン底メガネガリ勉系女子。



 ..うわぁ。

 まさに、..うわあ、だ。

 君たち、これどう思う?


 

 純子ちゃん、「..え?え? なになに?」とか言ってとぼけたふりして純粋に驚いた風装ってるけど、本当は察してるのだ。

 

 ..そう。

 これは見るからにまずかった。


 お仲間さんの皆、カモが来た、と言わんばかり。

 にやにやと卑しい笑顔を張り付けては、「うぃーっすッ」と純子ちゃんを歓迎する。


 純子ちゃんノリを合わせて「うぃ、うぃーっす」

 少し声が控え目。

 おどおど。

 おどおど。

 目もずっとやや泳いでる。

 絶対居心地が悪いことは断言できる。

 僕絶対あの場に行きたくないよ。



 黒ギャル女は言った。



「これ見てよ。今ウチらがメッチャハマってるやつなんだけどさ。」



 と言うと、懐からタバコの銘柄を取り出して、純子ちゃんへと見せつける。

 まあ、あれ。

 タバコの銘柄なんて見せられてもね。 

 純子ちゃん変わらずの愛想笑い。

 僕もわからん。

 そして純子ちゃん全く興味ない癖に、「..へ、へぇー」とわざわざさも関心あるように返事を返す。


 だが黒ギャル女は気を良くしたのか。



「ほらッ、1本やるから井上も吸ってみなよ! 

 なッ?」


 とか言って差し出してくる。



 シュボッ。

 黒ギャル女はライターに火を付けると、タバコを気取った感じに吹かした。


 差し出されるタバコ。

 もはや、もちろん吸うよな? と決めつけんばかりである。

 この状況だ。

 無論断れるはずがない。


 タバコを受けとる純子ちゃん。




 

 普通ここは断るところだ。

 キッパリじゃないにしても遠慮がちに、「..あ、私は」とか言って何となく拒否する的なね。

 

 もしくはあれ。

 たとえ吸うことになったとしてもだ。

 吸ったあと盛大にむせて、「ぎゃはは、あーやっぱむせたかァ」と軽くからかわれるのが普通の流れだ。



 ..だけどそれをだよ。 

 純子ちゃん何を思ったのか、


「ま、まぁ。ちょっと勉強でイライラしてたし。」


 とかなんとか言って。

 純子ちゃん平静ぶった感じにタバコを受けとり、加えてそのまま。


 ──── シュボッ。


 ライターに火をつければ、躊躇ない感じにすぅーと吸い出す。

 そしてはぁーっ。


 すぅー。

 はぁーっ。

 すぅー。

 はぁーっ。

 



 ─── 純子ちゃんめっちゃタバコ吸うやん。

 


 








 ...  



 .......まあ。うん。

 




 うん。



 これはあれだ。



  人は誰だって意味もなく通ぶりたくなるやつだよ。



 意味もなく悪に寄りたくなるときがある。

 純子ちゃんにとって、それは今このタイミングだった。



 そう。


 これはただそれだけのことなんだ。






 ──── と、僕は無性に優しくなりたくなった。



 

 


 

 と、まあ。以上のような、少し目を背けたくなるような光景というか。そんなガリ勉女の意外な行動が見れたのだ。

 まさかのスパスパ吸い。

 しかも通ぶった感じに、ふぅーっ。

 と、吹き出す始末である。

 意外にむせない純子ちゃんだ。

     


 そりゃあ面白いさ。

 僕も同意する。

 君が取るべき行動それじゃねえだろッとツッコミを入れたい。



 そしてこれを、..あの不良どもが面白がらない筈なかった。


 予想通りだ。

 男どもが「お? お? いいねいいね! 井上さぁん」と囃し立てる。

 純子ちゃんは、


 

「..ふ。ふふん。」


 

 と、笑いを隠すように笑う。

 純子ちゃんの心が透けて見えそうだ。

 君たちどう思うよこれ。

 純子ちゃんその笑い。隠してるようで全く隠せてないからね。


 ─── このメガネ女、調子乗ってんなぁ。


 って、言いたげな目付きしてる黒ギャル女を見てみなよ。


 嫌々そうな雰囲気は変わらずも、どこかいい感じになってる純子ちゃん。

 

 そこでとうとう、黒ギャル女が口を開く。



「──── ところでさぁァ、井上ェ。」



 野太い、高い声。

 その場の誰もが振り向いた。

 ヒステリックなわけじゃない。ただ、有無を言わせない威圧があった。



「アタシたちさァ、今ァちょっと困っててさァ。」



 いやぁ、困った困った。

 黒ギャル女はオーバー気味にそう言った。

 加えて、純子ちゃんの肩を組んでは、馴れ馴れしく。

 

 純子ちゃんは、「どうしたの?」

 と、気遣った感じに少し笑顔。

 純子ちゃんは純子ちゃんで、また少し友達のように聞き返す。



「うん。実はさァ、ちょっとお金に困っててねェ?」


 僕は、ほらきた、と思ったよ。

 順当である。

    


「...お、お金?」


 戸惑う純子ちゃん。

 だが黒ギャル女は気に止めない。



「うん。

 金、金。

 実は今タバコってスッゴい高くてさぁ、もうウチら財布もスッカラカンなのよね。

 タバコももう切れちゃってさ。」



 黒ギャル女はやれやれといった風に語るが、顔がひきつりつつある純子ちゃん。

 「そうなんだ」と納得するが、嫌々な感じが顔にでてるよ。

 不良仲間達もニヤニヤとその様を見守ってる。


 嫌な予感はやっぱりあたるんだ。


 あ。これは。

 って、思った。

 僕も顔がひきつりつつある。

 


 黒ギャル女は「だからさぁ」とねっとりと続けた。









「──── お金貸してくんない? 井上。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と契約して魔法少女になった女の子の末路 上下反転クリアランス @reidesu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ