第3話 アイテム

「似合ッテイルジャナイカ。早速ソレラノ使イ道ヲ教エヨウ。」


よく見ると黒ずくめの鳥人形達も外観の違いがあった。一人は鳥マスクにタキシードを着た中年男性の造形をしていた。

もう一人は鳥マスクの下にダクトパイプが2本伸び背中の装置に繋がっていた。大柄の体躯をコートで覆っている。


「マズ、ソノオペラグラスデ我々ヲ覗キタマエ。」


少女は、アンティークなオペラグラスのハンドルを組み鳥人形達を覗く。奇妙な事にオペラグラスを通して見た鳥人形達の心臓が透けて見えた。

タキシード姿の鳥人形の心臓は何故か頭部にあり、ドクドクと脈打っている。パイプマスクの鳥人形はこれまた不可思議な事に心臓が右大腿部にあり、規則的に脈打っているのだ。


「心臓ガ見エタダロウ?ソレガ我々ノ弱点デアリ、又影達ノ弱点デモアル。」

人間の眼を欺くためにオートマータ達の心臓はあらゆる場所に秘匿されているのだという。


「影達ガ襲ッテキタラ拳銃デ心臓ヲ撃チ抜ケ。」


少女は少し理解はしたものの、鳥人形達と影と呼ばれる敵意あるものがまるで同種の様な物言いに不安を掻き立てられた。


「ソレカラ金属製ノ懐中電灯。影達ハ闇ノ中デシカ動ケナイ。モシ世界ガ夜二包マレタラ奴等二ソノ懐中電灯デ光ヲ浴ビセヨ。動キヲ止メル事ガデキル。」


「最後二拳銃ノ説明ダ。扱ッタコトハナイダロウ?」


少女は頷く。おそらく15歳前後の年端の少女が拳銃を扱う事はこの日本国においてはまずあり得ない事だ。ただでさえ大型の軍用モーゼル拳銃は華奢な少女の手の中でより無骨さを際立たせている。


「拳銃ヲ握ッテスグ上二SトFノアルファベットノ刻マレタ切リ替エスイッチガアルガ、ソレガ安全装置ダ。普段ハSノ表示二シテオケ。」


「射撃ヲ決意シタ時二Fノ表示二切リ替エロ。スライドヲ引ケバ弾丸ガ薬室二装填サレル。後ハ引キ金ヲ引クダケダ。」


少女にとってはその様な説明はちんぷんかんぷんだったため、鳥マスクに近づき再度詳しく説明を受けた。


「モノハ試シ、アノ奧二アル梟ガ描カレタカンバスを撃チ抜ケ。」


少女はスライドを引き、タキシード鳥が指差す約10メートル先の梟に向けて狙いを定めた。説明された通りサイトを覗き照準を絞った。引き金に指を掛けて力を込める。

次の瞬間西陽が差し込む広いフロアをつんざく発砲音がまるで雷鳴の如く唸った。

少女が放ったモーゼル弾は梟こそ捕らえなかったもののカンバスに穴を開けた。梟から2センチメートル程右に逸れたようだ。


「す、凄い音、耳がキーンってなった。」


少女の目は興奮を帯び、驚きと拳銃の持つ力の恐怖に震えた。


「初メテナラコンナモノカナ。タダシ、影二襲ワレタラ確実二心臓ヲ射ヌクノダ。」


「モーゼル拳銃ノ弾装ニハ銀ノ弾丸ガ10発。今撃ッタノデ残リ9発。予備弾装ト合ワセテ19発。ソレガ君ノ寿命ダ。残弾ガ尽キタ時君ハ影達二惨殺サレルダロウ。」


少女にとってそれは不吉な死の宣告に思えた。ペストマスクの怪人が死を運ぶ死神のように見えた。


「サァ、少女ヨ黄昏ノ庭へ旅立テ。」

「ワルプルギスノ夜ヲ越エロ。」


そう告げると機械仕掛けの鳥人形はもう動かない。


「ねぇ。もっとお話してよ。ねぇ。」


例え不気味な鳥マスクの怪人と言えど、お喋りな鳥が黙ると静寂が辺りを包み、少女の心に寂しさを運んだ。椅子に座り続けた人形を揺すっても何の反応も返ってこなかった。


少女は心を決め1階へと続く階段に向かい歩き出した。










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