猫耳:The Armored Maid!

 両手で猫耳を掴んだまま、ミュウはまたもや叫んでいた。


 ちなみに、今彼女は気付いてはいないが、首には猫鈴のついた細い首輪が、腰からは鈴付きのリボンが結ばれた長い尻尾が生えていたりする。


「装着は成功か。だが、姿が変わっただけでなんだあの騒ぎようは。やはり、あいつは馬鹿だな」


 呆れ顔の司山ヨシヒサ。


 二度も獲物を仕留め損なったオクナイエスケピが、苛立ちの咆哮を上げて飛び掛かる。左腕からの引っ掻き――ミュウの前方を


 次いで襲い掛かる――右腕からの引っ掻き、左腕二腕の斬り上げ、左右からの袈裟の振り下ろし、一歩下がるミュウの前方を尽く


(あ、あれ? あたし……)


 壊素怪火がミュウに攻撃を当てて来ない? そんなわけがない。ミュウは気付いた。無意識に壊素怪火の攻撃を避けている。


 喧嘩沙汰に縁の無かったミュウが、ぶっつけ本番で人あらざる凶悪な攻撃を何度も避けられるわけがない。


 分かるのだ。回避するためにどうやって身体を動かすべきか。


 強化されていたのだ。武装アーマードメイドに変身した時に。それも、常人はおろか格闘家すら凌駕する程に。


 オクナイエスケピから少しだけ距離を取り、ミュウはボクサーのような構えを取った。極々自然のスタンスで。何年も、何十年も前からこのやり方を知っていたかのように。


(これが、メイドリングの力……? 凄い。あたし、戦えるんだ!)


 この時ミュウには恐怖は無かった。煮えたぎるマグマを彷彿とさせる熱い闘争心や高揚感が、全身を駆け巡っているような感覚だった。その熱さは、壊素怪火への恐怖も躊躇いも戸惑いも、跡形もなく焼き尽くしていた。


 後退し続けていたからか、いつの間にか足裏に乾いた砂礫の感覚。


 攻勢に転じる。足が地を掴む。腰と肩の捻りが重なり、加速された拳が壊素怪火の横面を直撃。


 間髪容れず、二撃三撃四撃と拳を胴体に叩き込む。尻尾で器用にバランスを取り、ブーツの爪先を何度も砂礫に捩込み、ミニワンピースの裾を幾度となくはためかせ、次いでに頭の猫耳すらも揺らめかせて。


 四連のラッシュを食らい、オクナイエスケピの体勢が崩れた。


「たぁーっ!!」


 敵の懐目掛けて踏み込み、ミュウが叫んだ。雄叫びを乗せて放たれるは、伸び上がる全身をフル活用させたアッパーカット。


 鈍い音がした。拳がオクナイエスケピの顎に見事にヒットし、巨躯を吹っ飛ばす。


 どうやらエスケピも他の人間と同じで、顎に衝撃を受けると脳震盪を起こすようで。オクナイエスケピはミュウの眼前で仰向けに倒れた。


「よ、よし! 倒したぞ!」


 ひとまずガッツポーズを決めてみたミュウ。司山ヨシヒサの方を振り向いてみると……「そんなんで何喜んでるんだ」と言いたげな冷たい視線が眼鏡越しから。


「相手はただ倒れただけだ。息の根を止めてやらん限りまた起き上がる。『冥歪めいわい滅却めっきゃくの法』を使え。原理は長くなるから省くが、そいつを使えば、壊素怪火は蘇るだなんて馬鹿げたことは出来なくなる」


「え? め、めいわい……なんですって?」


「分からなければメイドリングを使え。そいつから教われ」


 相も変わらず突き放すように言われてイラッとするも、反発するわけにはいかないので素直にメイドリングを起動する。


 何をすべきかが分かった。『冥歪滅却の法』も……あらゆる手順が脳内へ流し込まれていくのを感じる。あたかも、最初から知っていたかのような。


(冥歪滅却の……これか)


 作動させた途端、ミュウの片頬からじりじりとした熱感——そちらへ振り向くと、火の玉みたいなものが浮遊しているではないか!


「えっ!?」


 思わず声が出てしまった。大きさは、ソフトボールより若干大きいくらい。ピンク味がかかった炎の塊で、渦を巻きながらゆらゆらと浮遊している。あと、なぜか火の玉なのに猫のような耳と尻尾が生えている。


 そんな様子に、司山ヨシヒサはぽつり。


「ほう。あいつの『滅却の相』は火だったか。しかしなんだあのショボさは。キャンプの焚火の方がまだマシだろう」


 ——そんな『冥歪滅却の法』にまつわるやり取りは、ほんの数秒の出来事。だけど、それはオクナイエスケピが正気を取り戻して立ち上がるには十分すぎる時間だった。


 オクナイエスケピが、怨嗟の唸り声を上げる。それにミュウらが気付いた時には、そいつの背中に縦に亀裂が入っていた。毛むくじゃらの外羽が開き、裏に折り畳まれていた薄い羽が伸びる。飛来するGと同じ色の羽を羽ばたかせ、ふわりと巨体を宙に浮かせた。


(ネズミの怪物がゴキブリの羽使って飛んでる……。絵面的に最悪じゃん)


 オクナイエスケピが、ミュウ目掛け急降下。回避は無理と判断し、両腕を合わせてガード。敵の鋭利な前脚を手甲を弾いたのか、細い何かで叩かれたような痛みがした。


 ガードを解く。ここでミュウは、自分が犯したミスに気付いた。さっきまで出してた火の玉が消えてしまった。てか、敵も見失ってしまった。どこに消えた。


 次の瞬間、ミュウの背後から痛みが襲う。後ろへ回り込んでいたオクナイエスケピに背中を攻撃されたのだ。ミュウがそれに気づいた時には、エスケピはまた姿を消し、ミュウの死角から再び攻撃を仕掛ける。


 二の腕の袖が切れ、ミュウはその箇所が赤く滲むのが見えた。質感からして普通の布とは少し異なる素材だと思うのに切れてしまうなんて。


(ここままじゃ……。でも、どうすれば――あたしは猫のメイドになったんだよ? あんなゴキネズミなんて、猫にとっちゃ獲物みたいなもんなんだから倒せなきゃおかしいのに……もっと、猫らしくやれないかな?)


 空中でオクナイエスケピが軌道を変え、今度は正面から斬撃。かろうじて回避したミュウのヘッドドレスと猫耳の一部が切られる。


 痛みが、とある光景をフラッシュバックさせる。かつて『家』には飼い猫がいた。可愛い新参者をミュウ達は歓迎したが、すぐに愚かだったと学ぶことになった。部屋を所狭しと暴れ回る猫の俊敏さに、ミュウ達は成す術もなかった。


(そうだ……。それ、出来るかな? いや、出来そう)


 あの時の猫のように自分が動く様を脳裏に描いた途端、ミュウは身体が軽くなったような気がした。同時に、頭の猫耳が何かを捉える。猫耳の持つ卓越した聴力が、敵の飛んでくる軌道を察知する。


 オクナイエスケピがミュウ目掛けて襲い掛かった時、彼女はそこにいなかった。猫のように素早く動けることを知ったミュウが、オクナイエスケピの死角から重い拳打を叩き込んだ。


 急降下からのカウンターをまともに食らい、オクナイエスケピの巨体が吹っ飛ぶ――に衝突。その衝撃は壁を容易く砕き、オクナイエスケピは壁の向こうへと放り出された。


(——?)


 ミュウは眉を潜めた。さっきまで自分がいたのは、濃霧に包まれた河原だ。壁どころか建物の類すらさっきまで無かったはずだ。


 オクナイエスケピの後に続き、ミュウは屋内に入る。


 ふと、窓の外に視線を移すと、地上が遥か下方に見えた。


 どうやら自分がいるフロアは三階以上の階層らしい。おかしい、地上から直接入ったら屋内は一階のはずだ。つまり、地上から謎の建物の中に入ったら自分は三階以上のビルの中にいた。という文字列にしたらおかしい事態が起きている。あまつさえ、風景も市街地になっている。さっきまで流れていた川が無い。


(ま、まあ、さっきも、町の中にいたかと思ったら目の前に大きな川が出たりしたもんね。いきなり景色が変わっちゃってもおかしくないか。死の世界って現実の世界と違うんだから)


 すぐさまそう結論付けて、ミュウは目の前の変化を受け入れることにした。


 が、その一方で、信じられない光景がひとつ。目の前の向かいにある別のビル。そのその一室に、なぜか司山ヨシヒサと狗美がいた。


「え!? なんでふたりだけ安全な所にいるんですか!? こっちは怪物と二人きりなんですけど!? いくらこの世界が現実じゃ有り得ない現象起こしてるからって、それってあんまりじゃないですか!??」


 二人に聞こえるほど大声で抗議するも、どこ吹く風の涼しい様子。それどころか、司山ヨシヒサがこちらへ指差ししている。


 何を言ってるかは分かる。後ろを気を付けろ。


 言われなくたって分かってる。猫耳が察知していたから。


 すぐさま屈んだミュウの頭上を凶悪な爪が通り過ぎる。ダウンから立ち上がったオクナイエスケピが急降下しながら腕を振り下ろしたから。


 コンクリートが砕ける音がして、オクナイエスケピが床を突き破った。勢い余って、そのまま下の階へ落下する。


 足元から羽音と気配。ミュウがバックステップすると、寸前までいた床をオクナイエスケピが突き破って現れた。


 二度も砕かれれば、床も脆くなる。足場が倒壊していく。後退するミュウをオクナイエスケピは逃さない。再び急降下して襲い掛かる。


 ミュウは跳んだ。このフロア、実は床以上に天井の崩落が酷く、見上げると屋上までの上階のフロアが全て露になっていた。跳躍したミュウは壁を蹴り、上階へと移動する。オクナイエスケピが再び襲い掛かるが、既に彼女の姿は無し。跳躍して壁を走り、剥き出しの非常階段へと着地する。同じくオクナイエスケピも壁を走って追撃するも、非常階段の鉄骨がひしゃげただけで、ミュウは更に上階の階層へと非難していた。


 崩落したビルの中を縦横に戦うミュウと壊素怪火を眺めながら、司山ヨシヒサは薄ら笑みを浮かべていた。


「なあ狗美、人間と猫が本気で殺し合う時、人間は日本刀を持って初めて猫と対等に戦えると言われている。なぜだか分かるか?」


 彼の問いに、狗美はただ首を傾げるのみ。


「猫の敏捷性が人間では到底及ばないレベルだからだ。人間の強みが武器も作れる賢さであるなら、その英知である武器の一つや二つ持たせてやらねば本当に対等とは言えん。そうでなければ、人間側は何も出来ず、やがて喉笛を咬まれて死んでしまう」


 司山ヨシヒサは眼鏡で縁を押し上げる。


「あの女がそんなことを知っているとはとても思えん。だが、ネコミミの性能に自ら気付き、見事に奮闘している。見込みはあるようだな」


 笑む司山ヨシヒサの目の前で、ミュウが迎撃の打撃——壁を這うゴキブリよろしく駆け上がってきたオクナイエスケピを、壁からわずかに残っていたコンクリートの踊り場で待っていたミュウが渾身のアッパー。少女を両腕で抱えるように迫る腕を搔い潜るようなステップと軌道で下顎にクリーンヒットした一撃が、オクナイエスケピの巨体を吹っ飛ばした。その威力は天井を突き破り、屋上へと放り出す。


 突き破った大穴から、ミュウも追い掛ける。オクナイエスケピは仰向けとなり、その場で脚をバタバタさせている。いかにも殺虫剤が効いた直後のゴキブリのよう。見ていて気分の良いものではない。


 ミュウの直感が告げる。この瞬間が、『冥歪滅却の法』を使う好機。


 使い方は――メイドリングが既に教えてくれている。消えてしまった例の猫耳と猫尻尾の火の玉を再びミュウの近くに呼び出す。で、その火の玉に命じるのだ。自分の身に纏わり付けと。


(あれ? でも、それって)


 命令の意味に気付いた時には、ミュウの右手は例の火の玉を纏っていた。つまり――燃えていた。


「え? うえっ!? うそ!? やばっ! あちっ!」


 突然の出来事に驚き、思わず右手の炎を振り払おうとするミュウ。しかし、どれだけ腕を振り回そうも消えない。しかも、左手で振り払おうとしたら左手に燃え移ったではないか。


 ここで、隣のビルから冷ややかな視線を向けている司山ヨシヒサに気付く。何見ているんですか! こんな状況なんだから助けてくださいよ! 非難の眼差しをぶつけてやろうとしたが、ここでミュウは我に返った。


「あれ……? もしかして、熱くない?」


 手は燃え盛っているのだが、温感はホッカイロを握っている程度。つまり、ちっとも熱くない。どうやら、目の前で起きた現象に不慣れなだけだったようだ――これに気付いてからは早かった。何をすればいいかは、もう


 オクナイエスケピが立ち上がっていた。こちらが冥歪滅却の法に戸惑っていた間に、我に返っていたようだ。


 オクナイエスケピが吠える。再び目の前の獲物に食らいつかんと肉薄する。相対するミュウも駆ける。


 床を蹴る。その勢いを一切殺さず、自分の拳へと伝導させる。


 オクナイエスケピが凶悪な腕を振るう。だが所詮、それは醜い悪あがき。速さも勢いも正確さも、全てが劣っていた。


「はぁっ!!」


 拳同士がすれ違う。オクナイエスケピの抜き手は空振りし、掛け声と共に放たれたミュウの拳は、吸い寄せられるように壊素怪火の懐へ打ち込まれた。


 名状しがたい発散感が、自分の拳から伝わる。殴られた箇所を中心に、壊素怪火の身体に亀裂が走った。隙間からミュウの炎と同じ色の火炎が迸る。やがて、それは壊素怪火の全身を覆う亀裂を容赦なく押し広げ、オクナイエスケピは断末魔の叫び声を上げて爆ぜた。


 ――これが、ミュウが壊素怪火に初めて勝った瞬間だった。


 ★★★


 刹那、不思議な光景を見た。


 おぼろげな夢だ。


 わたしは、メイドになりたかった。


 豪奢な屋敷に住まう主に仕え、可愛らしいメイド服を纏い、優しい立ち振る舞いで暮らす、華やかなメイドになりたかった。


 何より、メイドになって華やかな暮らしを出来るようになれば、今のような貧しい日々を変えられる。


 仕事を失い、酒浸りになってしまった父も、病に倒れてしまった母も、わたしの手で救うことが出来る。


 だから、毎日努力した。


 明晰な頭脳と細やかな教養が無ければメイドになれないから、一生懸命努力した。


 家の中は集中して勉強できる環境じゃなかったけど、それでも必死で頑張った。


 そして、あの日がやってきた。


 司山ソーシャルサービスへ就職する為の第一歩となる試験日だ。


 この日の為に努力してきた全てを発揮させる日だ。


 憧れの、メイドになるために。


 ……けれども、それは叶わなかった。


 あの日、試験会場へ通じる橋を渡っていた時だった。


 何かが後ろからぶつかってきた。


 とんでもない衝撃だった。


 わたしは橋から吹っ飛んで川に落ちていた。


 薄れゆく意識の中、最期に見たのは『S《司山》G《グローバル》T《トランスポート》』と書かれたトラックのロゴだった。


 嗚呼、目の前に何かが見える。


 キツネの頭蓋骨だ。ご丁寧に耳まで付いている。


 それが――私に語り掛けてくる。


 あのトラックは司山グループのトラックだ。


 なぜ司山グループのトラックがわたしを轢いたのか。


 それは、わたしを不幸にするためにわざとやったからだ。


 これまでのわたしの不幸は、全て司山グループのせいだ。


 わたしが惨めになったのは、全て司山グループのせいだ。


 あのメイドたちのせいだ。


 ゆるさない。


 わたしは、司山グループを、ゆるさない。


 ★★★


 気が付いた時、ミュウはまた、あの大河の岸の上に立っていた。


 さっきまであった建造物などどこにもない。周囲を濃霧に囲われた、あの大河の光景に戻っていた。


 ミュウの身体から武装が解除される。ミュウは元のメイド服に戻っていた。あの勇ましきネコミミメイドの姿は、そこには無かった。


 ふと、司山ヨシヒサと狗美のふたりがいつの間にか目の前にいた。司山ヨシヒサはミュウを見ると、吐き捨てるように言い放った。


「質は誉めたもんじゃないが、ま、倒せとしか言ってないから仕方ないか。合格だ。お前を雇ってやろう」


 その言葉が意味することを、ミュウは思わず聞き返す。


「つまり、私をメイドとして雇ってくれるんですか?」


 訊き返してしまうのも無理は無かった。自分の憧れだったけど、出来るわけ無いと諦めていたから。あまりにも棚から牡丹餅すぎる出来事で、信じることが出来なかったから。


「そうだ。何故わざわざ聞き返す? これは僕の決定事項だ。お前に拒否権はない」


「わ、分かりました! ありがとうございます!! よ、よろしくお願いします!!」


 今まで予期せぬ出来事があまりにも起きすぎていた。仰天することもあれば、辛く悲しいこともあった。あまりにも常識外れだったり、命の危機に瀕することだってあった。


 だがこの出来事は、その今までのどれよりも格別に大きすぎる出来事だった。本当に、自分がメイドになれるだなんて! この男、性格こそ最悪だが、やはり……。


「お前はこれから、隷属の意思と尊敬の念を示すとして、僕の事はご主人様と呼べ。分かったな?」


「は、はい。ご主人様」


 自然に口から出てしまった。憧れのフレーズだっただけに、自分で言っておいて照れ臭かった。こんな有名人(であろう人物)の近くで働けるなんて、もしかしてかなり光栄なのでは――


「……!!?」


 なんて少し悦に浸っていたその時だった。


 あまりにも突然の出来事だった。


 司山ヨシヒサから伸びた腕が、自分の胸を――。


「なんだ。お前、かなり着やせするタイプだったんだな。どおりで細い見てくれのわりに体重があったわけだ」


 表面をさわさわ。下から手の平でゆさゆさ。


「なに豆鉄砲食らったような顔をしているんだ? お前は今日から僕の持ち物となったんだ。自分が自分の物を自由に使って何が悪い?」


 手の平でふにふに。上下左右にぐにぐに。


 ――いきなり人の胸触るなんてどういう神経してんだこらあああああああ!


 何の脈絡もないセクハラ行為はミュウの理性を一気に吹き飛ばした。


 だが、激昂したミュウの拳は、突然、何者かによって止められた。


 狗美だった。半ば無意識に振り上げられた腕の手首を、狗美がぱしっと掴んで止めていたのだ。直立不動の体勢から片腕をすっと上げただけの動作なのにも関わらず、ミュウの手首を掴んだままピクリとも動かない。


「なんで止めるんですか、狗美さん⁉」


「これは歓迎のスキンシップであります。喜べないようでは、この先、ずっと半人前のメイドでありますよ」


「そんな、狗美さんまでっ⁉」


 非難するわけでも蔑むわけでもなく、ただ冷たく見下ろすような視線で下された発言に、ミュウは突き倒されたような感覚になった。


「ミュウ、お前はこれから僕のモノだ。くたばるまで永遠に飼ってやるぞ」


 採用通告されて早々、ミュウは己の将来を悲観せずにはいられなくなった。これから先、かなり過酷な毎日を過ごすことになるんだろうなって。

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