第136話 裏研-04
俺とキッカは辺境の全自動大規模農場に降り立った。
現在の人口では過剰な生産量になってしまうので食用作物は植え付けていないが、土地が荒れないように堆肥用の植物が育てられている。
「ここか・・・」
「そのようですね。」
神もどきに蘇らせてもらったフジさんから”裏研”の存在を聞いてやって来たのだ。
最高機密情報であったが、名ばかりとはいえ大統領である俺に話す事に何も問題はない。
何か嫌な思い出があるのかフジさんにしては珍しく辛そうな表情で教えてくれたので、あまり根掘り葉掘り聞く事ができなかったが。
もっとも、フジさんも裏研という名称と自分のアンドロイド時代のボディがそこで作られた事しか知らなかったようだ。
そして厄介なことに、大統領IDでアクセスできる機密情報にも裏研に関する情報は一切無かった事から考えると、高級官僚や軍高官の極一部が作り上げた秘密組織らしい。
俺も特務隊だったので、そういう組織は必要悪だと理解しており非難をするつもりは無い。
ただ、危険な大量破壊兵器などを隠し持っている可能性があるので、俺が安心して地星に遊びに行けるよう確かめておく必要があるのだ。
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フジさんに教えてもらった道順に従って進んでいくと、やがてセキュリティゲートのような場所に辿り着いた。
「やっぱり大統領IDでも開かないか・・・」
「どうします?」
「無理やり通って自爆されても困るから、拡張視野で警備室を見つけてスイッチ切るか?」
「そうしましょう。」
「じゃあ、俺は下層から調べていくから、キッカは上層から頼む。」
「分かりました。」
俺もキッカも思考加速した仮想頭脳を使えるので、ほんの数秒で裏研の構造を把握できた。
「最下層の一番奥の部屋みたいだな。」
「わたしの方のスキャン結果もそうでした。」
「マニュアルによると部屋の両端の鍵を同時に回すみたいだな。」
「こういうところは地星と同じなんですね。」
「そうだな。じゃあ、解除しよう。」
こうして無事にセキュリティーを解除して裏研に侵入することができた。
目指すは所長室だ。
おそらく、そこからなら全情報にアクセス可能な筈だ。
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「ここだな。」
俺は所長室と書かれたドアを開いた。
もちろんトラップが無い事は確認済みだ。
「問題はセキュリティ突破ですね。」
「パスワードがモニターに貼り付けてあればいいんだがな。」
「そんな無能な管理職みたいな事をしているでしょうか?」
「まぁ、してないだろうな・・・って、おい!」
「ログオンしっ放しですね。」
「考えてみれば、神軍襲撃直前の状態に再生してるんだから不思議じゃないか・・・」
「そうですね。発電所なども稼働中の状態でしたし。」
「とりあえず全データのバックアップを取りながら調べてみよう。」
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「スメラ中のマッドサイエンティストをかき集めたみたいだな。」
「そうですね。とても公式に大統領に報告できる内容ではありません。」
「まぁな。ばれたら即刻閉鎖だろうな。ただ、研究内容を見る限りは絶滅回避の為になりふり構わずって感じだけどな。」
「確かに同胞を滅ぼすような研究内容はありませんね。」
「とりあえずは安心して出掛けられそうだ。残りはこのフォルダーだけだな・・・」
「裏シェルターですか・・・」
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「まいったな・・・」
「はい・・・」
俺たちがシェルターだと思っていたのは裏シェルターだったのだ。
つまり、彼女たちは自らが忌み嫌うクローンであり過去の記憶はコピーと捏造だったという事だ。
そして、ナホは人工的に合成された人間であり、なおかつそのクローンだ。
「コウは変わらないですよね?」
「当たり前だろ?ナホはナホだ。」
「安心しました。」
「問題は情報の取り扱いだな・・・」
「そうですね、将来的にも公開は躊躇われます。」
「・・・消すか?」
「賛成です。一応、知る権利の侵害となりますが・・・」
「知って誰か幸せになるか?」
「なりませんね。」
「という事で、超法規的措置だ。」
俺はバックアップデータを含め裏シェルターに関する全ての情報を消去した。
もちろん、念には念を入れて該当部分は魔法で完全に初期化した。
「ダブルチェック完了しました。痕跡は完全に消えています。」
「お疲れ。じゃあ、もう一か所行かないとな。」
「そうですね。」
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俺たちはシェルター入り口へと転移した。
もちろん俺たちには馴染みの無い方のシェルターだ。
「さて・・・とりあえずこっちのオモさんに信じて貰えればいいんだが。」
「そうですね。いきなり新しい大統領ですから・・・」
「ま、とりあえず試そう。」
俺はシェルター入り口近くに設置されているカードリーダーに大統領IDをかざしながら
通信魔法でオモさんに話しかけた。
『オモさん、新大統領のコウだ。入口を開けてくれ。』
『は、はい。承知いたしました閣下、少々お待ちください。』
しばらく入口で待っていると扉が開きオモさんが現れ深々とお辞儀をした。
「お待たせしました、閣下。当シェルターの管理コンピューターのオモヒカネでございます。」
「俺は大統領のコウ、こっちは相棒のキッカだ。さっそくだけど内密の話がある。シェルター内で話したいんだけどいいかな?」
「承知いたしました。それではご案内致します。」
オモさんに先導されシェルター内を歩きながら確かめてみたが、確かに昔のシェルターにそっくりだった。
「オモさん、妙な事が起きていると思うけどどうかな?」
「はい・・・学生たちが居なくなってしまいました。シェルターは完全に閉鎖された状態のままだったのですが・・・」
「そうだろうな。これから話すことは事実だ。」
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俺はオモさんにこれまでのことを説明し終えた。
「閣下、ご説明ありがとうございました。」
「いや、信じてもらえたのなら良かったよ。」
「それではこれからの事ですが・・・」
「オモさんはどうすべきだと思う?」
「このシェルターは消滅させるべきでしょう。」
「いいのか?」
「皆さんの私物はもちろん、わたしのデータも抹消すべきでしょう。残っていても社会不安の元にしかなりません。ですが・・・」
「どうした?」
「軍エリアは管轄外ですのでわたしの一存では決められません。もちろん閣下は軍の最高司令官ですが、できればディープスリープモードで待機中のフジ少尉ともお話しして頂ければと思います。」
そうだった、ここにはオリジナルのフジさんが居たはずだ。
「フジさんは学生たちと面識はあるのか?」
「はい、入所式の時に裏方の仕事をしてもらいました。」
「そうか・・・」
つまり、フジさんがそのまま目を覚ませば、少なくともどちらかのシェルターがクローンだという事が分かってしまうのだ。
黙っておくようにお願いすればバレないようにする事も可能だろう。
軍最高司令官でもある大統領の命令で”安全装置”を利用すれば、ついうっかり喋ってしまう事も無くなるだろう。
だが、俺はフジさんにそんな事はしたくない。
かといって、フジさんにこの先ずっと一人きりで誰にも会わずに生きてくれなんて言うのも無理だ。
いっその事・・・
いや、今の俺にはもう無理だな。
「コウ、わたしに任せてくれますか?」
「いや、俺が決断すべき事だろう?甘える訳には・・・」
「大丈夫ですよ。心配いりません!」
キッカは自信満々の様子で言い切った。
何か策があるなら信じて任せよう。
「分かった。」
「ありがとうございます、コウ。それではオモさん、フジさんに連絡してみて下さい。」
「はい、分かりました。」
しばらく待っていたが、段々とオモさんが困り顔になってきた。
「どうしたんだ?」
「閣下、フジ少尉からの反応がありません。」
「コウ、女性の部屋を覗き見るのはマナー違反ですけど、見てみて下さい。」
「ん?」
俺は拡張視野でフジさんの部屋を見てみたが、フジさんの姿は見当たらなかった。
軍エリア内はもちろん、シェルター内をくまなく探したが、どこにもフジさんは居ない。
「どこにも居ないな・・・」
「コウ、大丈夫だったでしょ?」
「あぁ・・・そうか・・・」
神もどきにとってはフジさんは機人種、つまり人間だったんだな。
だから他の人間と同じく再生の対象じゃなかったって事か。
「オモさん、軍エリアの方は問題ない。」
「了解しました。それではシェルターの処分方法ですが、MET爆弾による完全焼却でいかがでしょうか?オリハルコンで密閉されていますから外に被害は出ませんし、確実に処理できます。」
「それはそうだが、不自然じゃないか?」
「裏研の設定を活かして毒性と感染力が非常に強いウイルスが蔓延した事にします。不幸にして学生は全滅してしまったので、漏洩を防ぐためにわたしがMETを爆弾に改造して爆発させた事にしましょう。爆心地から離れた場所にその内容を刻み込んだオリハルコンプレートを残しておきます。」
「分かった。あとで回収しておこう。」
俺たちが裏研の調査に出かけた事を知っている者は多いが、シェルターの方は予定外だ。
俺もキッカも魔法気配遮断をしているので、ここに来ている事を知っている者は居ない。
後日に振動の原因を調査する目的で戻ってくればプレートの回収は可能だろう。
「それと、一つお願いがあるのですが・・・」
「なんでも言ってくれ。」
「ありがとうございます。ウイルスの件なのですが、裏研がそういう設定を用意していたという事は、それが起こり得るようにされている筈です。万が一にも事実となっては困りますので、もう1台のオモヒカネにそのリスクを徹底的に調査させて下さい。」
「忠告に感謝する。ところで、オモさん自身の願いは無いのか?」
「わたしは単なるコンピューターですから、願いというものはありません。人類を存続させるというミッションを成功させるのみです。」
「そうか・・・じゃあ、よろしく頼む。」
「承りました、閣下。」
それから三日後、爆発によると思われる振動波が観測された。
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