第135話 裏研-03

第五種非常警報が鳴り響いている。

それ以外の物音は聞こえないので、俺以外の研究員は全員退避したようだ。


これ程早く襲撃されるのなら、高レベル魔法使いを量産する方が良かったな。

スメラの全リソースを注ぎ込めば、億を超えるクローンを用意できていた筈だ。

生きる為に生み出した倫理に縛られて、生き残る為の手段を使えない。

人間という種は何とも理性的かつ非合理的な存在だな。


まぁ、所詮は結果論だ。


しかし永かったな。

これでやっと死ねる。


俺も最初の数十年は幸せだった。

暖かい家庭に育ち、才能にも恵まれた。

士官学校を卒業して軍の研究所に配属された後は出世街道をひた走った。


生涯の伴侶も得て、子供も産まれた。

いくつかやり残した研究もあったが、幸せな人生だった。

そんな人生の幕を下ろした記憶は残っている。


だが、人の業は深かった。

供与された技術を解析する為に、保存されていた俺の情報を人工頭脳にコピーしたのだ。

もちろん、”安全装置”も組み込まれた。


下された命令は、

”ヘヴ軍侵攻からスメラを救うために一切の禁忌を設けずに研究を進めよ”

だった。

最初は苦しかった。

”安全装置”のせいで命令には逆らう事ができず、思い付く限りの非道な実験を数えきれない程行ったのだ。

だから、俺は感情抑制回路を開発し自分に組み込んだ。

それでも完全には苦しみを抑えきる事はできなかったがな・・・


完成したばかりの最新型の感情抑制回路を他のアンドロイドに譲ったのは、俺にも僅かな良心が残されていたからだと信じたい。

最終チェックでは酷い事をさせてしまったが、時間が無い中で出来るだけ苦しみを感じずに済むようにパラメーターを調整する為にはやむを得なかったのだ。

許してくれとは言わない。

ただ、あの機体達が俺のような苦しみを感じずに済むことを祈るだけだ。


大きな警告音が鳴り響き、モニターには近隣の施設が破壊されたと表示されている。

ここももうすぐ直撃を受けるだろう。




あぁ、最後にもう一度、非常用保存食を味わいたかったな・・・

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