第132話 終幕-03

カタカタカタカタ

特務隊の情報管理室にキーボードを叩く音が響く。

俺の好みで青軸メカキーを使っているからだ。


「多少不安だったけど、フジさんも喜んでくれたから良かったな。」


機械類は神軍侵攻直前の状態に戻してもらっていたが、フジさんは例外にしておいたのだ。

俺達にとって、フジさんは機械では無く人間と変わらない存在だったからだ。

そこで、フジさんを蘇らせるかどうか、蘇らせるにしても人間かアンドロイドかどちらにするのかを皆で話し合っていたのだ。

結果的には、人間に戻れて物凄く喜んでいたので正解だったのだろう。

ただし、子供が産みたいとせがまれて俺は中々大変だった。

早めに出来たのは不幸中の幸いだったな・・・


「ふぅ・・・これで終了だな。よし、印刷してチェックするか。」


俺が作っていたのはナホの偽造戸籍だ。

以前から、落ち着いたら地星に行きたいとせがまれていたので、空いた時間に地星にやってきて作業していたのだ。


「えーっと、続柄:妻 佐野菜穂になってるな。ん?」


なぜか俺がクリスとかいう名前の子供を認知した事になっている。


「誰だよ、こんな悪戯した奴は?」


カタカタカタカタ・・・ウイーン


「なにっ!」


確かに修正した筈なのに、なぜかまた認知した事になっている。

慌ててモニターを見直すと、そちらも変更されていた。


「まずいな、特務隊がハッキングされてるのか?クリスなんて知らねーぞっ!」

「パパ、わたしの事忘れたの?」


何の気配も感じられない背後から少女の声が聞こえた。

ま、まさか・・・幽霊?

俺は慌てて背後を振り返った。

そこに居たのは金髪碧眼の美少女だった。

年の頃は十代半ばくらいだろう。

実際、日出国の高校の制服らしきものを着ている。


「な、なぁ、ここにどうやって入って来たんだ?」

「普通に入って来られたよ?」


少女は無垢な笑顔を浮かべながら何でもない事のように言ったが、そんな訳は無い。

ここは特務隊の中でもかなりセキュリティーレベルの高い区画だ。


「そ、そうか。ところで誰だ?」

「ひどい・・・わたしクリスだよ。わたしの事忘れちゃったの?」


訳が分からん。

とりあえず、端末からクリスの情報を調べた。


なになに・・・


17年前に俺が南イモルキ大陸の某国に潜入した時に、潜伏用アジトを確保する為に騙して口説いた現地のナイスバディーのネエちゃんが産んだ子?

確かにそういう作戦はあったが、9課がちゃんとアジトを構築してくれるから、そんなフリーランスの太眉スナイパーみたいな事なんかする訳がないぞ?


で、世界同時多発核テロで母親を失い、不憫に思った現地駐在特務隊員が連れて来たと・・・

連中がそんな事する訳がない。

仏心を出したとしても、苦しまないように一瞬で楽にしてやる程度だ。


俺はピンときた。


「お前、神もどきだろ?」

「えへへ、バレちゃった。」

「その話し方はやめろ。」

「でもぉ、この恰好だとあの喋り方はおかしいでしょ?」

「せめて、パパはやめてくれ・・・」

「じゃあ、コウでいいかな?」

「それで頼む。」

「じゃあ、コウもわたしの事、クリスって呼んでね!」

「ところで何しに来た?」

「コウが言ったんじゃない。人間社会で暮らす方がよっぽど理解できるって。」

「あ・・・」

「だからぁ、コウの娘として日出国の高校に通う事にしたの。都の隠れ家から通学するつもりだから、よろしくね!」

「俺はほとんどスメラにいるんだ。女子高生が実質一人暮らしとか変だろ?」

「大丈夫!伯父さん達も近所に引っ越してくるから!」

「・・・その伯父さんの名前はルキフェルとかいうんじゃないだろうな?」

「縁が有ったらまた会うものなんでしょ?」

「・・・説得は可能か?」

「無理!」


諦めた。

蟻が何を言っても無駄だろう。

出来る事と言えば、被害を最小限に抑える事くらいだ。


「ナホにはちゃんと説明してくれるよな?」

「なんでー?スメラだと誰が誰に子供産ませても気にしないんじゃないのー?」

「頼む、本当に頼む・・・」

「しょうがないなぁ。分かったよ!」

「ちなみに魔法レベルは?」

「53万!」

「アホかっ!」

「冗談よ。そんなに低い訳ないじゃない。」

「神軍との格差が大きすぎるだろっ!」

「当たり前じゃない。玩具と違って神専用ボディなんだよ?」


駄目だ。

基準が違いすぎる。

どんなに低く見積もっても、クリスの魔法レベルは100万以上だろう。

魔法レベルは対数だから、地震のマグニチュードと同じで、1増えると強さは10倍になる。

つまり、1の後ろに0が100万個くらい並ぶ人数で挑んでやっと倒せるかもしれない強さだ。

きっと、銀河系程度なら一撃で消し飛ばせるんだろうな・・・


「とにかく、目的を忘れずに、普通の、普通の、女子高生として生活してくれ・・・」

「もちろん・・・だよ?」

「その間と疑問形はなんだ?」


どうやら俺には平穏な日々はまだ訪れないらしい。


<本編完>


********************


これにて本編は終了となります。

この後、いくつか書き溜めてある補足用SSをアップしていきます。

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