終幕
第130話 終幕-01
俺は以前と同じようにナホと手を繋ぎ散歩をしている。
ただ、風景は一変していた。
暖かな日差しが降り注ぎ、爽やかな風が吹き抜けていった。
大地には豊かな緑が広がり、様々な動物が群れを成している。
ここからは見えないが、海には魚が満ち、それを狙って海鳥が急降下を繰り返している。
「未だに信じられないよぉ。」
「まぁ、あいつは神もどきだからな。」
スメラ星はかつての自然を取り戻していた。
褒美として、神軍侵攻直前の状態に戻してもらったからだ。
そして戻ったのは自然だけでは無く、工場やインフラ設備なども戻してもらったおかげで、高度な文明を取り戻す事ができた。
例外としては、オモさんは現在の状態を維持してもらった事と、思い入れのある開拓地をそのままにしてもらった事と、機械軍残党をスクラップにして掘り出してもらった事と、あと一つくらいだ。
「本当に良かったのか?お義母さんの事・・・」
「うん。もちろん悲しいけど、とっくに乗り越えてるから大丈夫だよ!」
神にとっては死んだ人間を再生する事は、もちろん簡単な事だった。
しかしスメラの価値観ではそう簡単な話ではなかった。
人機大戦の際に機械軍が行っていた研究がトラウマとなり、作り出された生命というものはスメラでは重大な禁忌として認識されている。
その為、神による死者の復活と、培養液中での人工的な生命製造と記憶のインストールが、本質的に違いがあるのかどうかという哲学的な議論が繰り返される事となった。
もちろん、哲学の専門家同士でも結論が出ない議論を素人が繰り返したところで、全員が納得できる結論など出る筈も無かった。
そこで、まずは復活させても問題ないかどうかという点を先に議論する事となったのだ。
問題を発生させる要因は、一部の人間が生き残っている事だった。
そのまま生き返らせると、いつの間にか500名の女子学生が15歳年を取って子供を産んでいる事になってしまうのだ。
最初に出た案は、事情を全て理解した状態で再生させるというものだ。
この案の最大のメリットは何も誤魔化さない分、矛盾が生じないという点にある。
しかし、相当数の人間が”自分は作り出された人間だ”と解釈してしまう事になる。
そして、それはかなりの数、下手をすると総人口の半数以上の自殺者や発狂者を生み出す事になるというのが彼女達の共通認識、つまりスメラの常識的価値観だった。
それは受け入れるにはあまりにも重すぎる未来だという事で却下されたのだ。
2番目に出た案は、最初の案の改良版なのだが、”神による復活は人工的な生命とは異なる”という意識を植え付けるというものだ。
確かに苦しむ者は居なくなる。
しかし、それは自由意志の剥奪、つまりは洗脳に他ならない。
そんな非人道的な事は出来ないという事で、この案もまた却下された。
この辺りの感覚は地星とはまた違っているので、久々にカルチャーギャップを感じる事になったが、スメラの常識を尊重するべきだろう。
次に出た案は、同じく最初の案の改良版なのだが、再生時に15年分の偽の記憶を植え付けるというものだ。
当然、何も起こらないまま15年が経過するというのは不自然すぎる。
新たに子供が産まれているべきだし、若くして死んでしまう者も居るはずだ。
幸運に恵まれて成功する者もいれば、不運に見舞われて転落する者もいなければおかしい。
しかし自分たちの提案で勝手に命を創造し、命を奪い、運命を弄るというのは彼女達にとっては重すぎた為、この案もまた却下された。
最後に出た案は、オンラインゲームにあるような巻き戻しだ。
スメラから見た事象の地平面の内側の全ての状態を元に戻す方法だ。
ただ、全てを元に戻すという事は、この15年間の人生を失うという事だ。
当然ながら、子供達は失われる事になる。
もちろん、この案は満場一致で却下された。
結局、哲学的な議論の結果がどうなろうとも、再生後の対処が出来ない事から死者はそのままにしておく事になった。
その為、スメラの人口は決戦終了時の人数のままなのだ。
「後は人口が増えたら、スメラの復興は完了だな・・・」
「いっぱい子供産んでもらわないとねぇ。」
「あのノルマは俺だけで充分だけどな。」
『コウ、そろそろ時間ですよ。』
『分かった。今から戻る。』
「戻ろうか。」
「うん!」
以前は通信魔法でのやり取りは俺の方からしか出来なかったが、今ではキッカの方から発動する事が可能になっている。
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時間は数日遡る。
『おい、キッカ!』
『え?か、神様?』
自室で寛いでいると、いきなり神様から通信魔法が入った。
『追加の褒美をやる。一応、聞いておくが、欲しいものはあるか?』
『い、いえ、コウを助けて下さっただけで十分です。』
『駄目だ。たかが猿人種一人を治しただけで済ませちゃあ、神の面子が立たねぇ。』
『いえ、わたしにとっては最高のご褒美でしたから・・・』
『お前もルキフェル級にメンドクサイ奴だな・・・じゃあ、今欲しいものを言え。嘘を言っても無駄だぞ?』
『全知だからですか?』
『そうだ。』
『じゃあ、どうして聞くんですか?』
『様式美だ!』
『なるほど・・・では、人間のようなボディが欲しいです。ただ・・・』
『一応、聞いておこう。ただ、何だ?』
『この指輪がピッタリな指のサイズじゃないと嫌です。』
『そうだろうな。外観はこれでいいか?』
地星で一般的なCADのファイルがメモリーに展開された。
一通りチェックしたけど、わたしの理想のプロポーションだなぁ。
さすが神様だ!
『はい、ありがとうございます。』
『中身は猿人類ベースの神軍仕様だ。不老で睡眠も食事も不要、魔法も使える。』
『え?えっと・・・』
『安心しろ。猿人類の完全上位互換だ。お前の好きなスイーツも普通に食える。』
『ど、ど、ど、どうしてそれを!』
『草津温泉で初めて食べたデザートの味が”一生忘れられない思い出になった”って言ってたじゃねぇか。』
『そんな事まで・・・って、全知でしたね。』
『その通りだ。』
全部知られてるってやりにくいな・・・
『ところで、どうやってボディを動かせばいいのでしょうか?』
『デヴィが俺を操る為に作った回路を改良しておいた。それもお前にやる。』
『ありがとうございます。』
『今から転移させる。存分に使うがいい。』
『はいっ!』
『あぁ、そうだ。さっきも言ったように完全上位互換だ。コウと違って最初からヘソは付けてあるから大浴場にも入れるぞ。』
『うぅ・・・』
『それと、勿論ちゃんとコウと子作りもできるから安心しろ。じゃあな!』
『えっ!か、神様?』
切れちゃった・・・
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見回してみると、ベッドにボディが置かれていて、机には制御回路が乗っていた。
よく見ると、制御回路の横には”取り扱い説明書”と日出語で箔押し印刷された革表紙の豪華な冊子まで置かれていた。
さすが神様、芸が細かいね。
でも、プロポーションが今とちょっと違うから、お洋服をまた用意しなくちゃね。
とりあえず、手持ちので着られそうなのを見てみよう。
ガチャ
さすが神様、思った以上に芸が細かかったよ。
クローゼットを開けると、わたしの好みピッタリな服が大量に増えていた。
きっと、サイズはジャストフィットなんだろうなぁ。
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まずは取り扱い説明書を読んでみよう!
えーっと・・・
”K.I.T.T.兵器システムでリンクしろ。勝手にダウンロードが始まる。”
これしか書かないなら、一言言うだけでもいいような気もする。
でも、きっとこれも様式美にこだわったんだろうな。
さて、ボディの操作方法は一通り理解できたから、さっそく使ってみよう!
これが人間の身体かぁ、すごく柔らかいな。
あ、いけない!
早く服を着ないと・・・
「キッカ、無事かっ!」
「え?え?え?キャーーーーーーーー!!!」
コウがわたしの部屋にいきなり瞬間移動してきたから、思わず悲鳴を上げてしまった。
「な、なにがどうなってんだ?」
「いいから、いいから出てってーーー!」
うぅ・・・恥ずかしい。
とにかく服を着て、気持ちを落ち着かせよう。
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よし、だいぶ落ち着いて来た!
「コウ、そこに居る?」
「あぁ、さっきは済まなかったな。」
ガチャ
「わたしもいきなり叫んでごめんなさい。」
「とりあえず無事そうで良かった。いきなり高レベル魔法気配が現れたんでな・・・」
「あ、そっか・・・」
まだ魔法気配遮断してなかったから・・・
心配させちゃったかな?
でも、ちょっと嬉しかったりする。
「実は、さっき神様が”褒美があれだけじゃ神の面子が立たない”って仰って、このニューボディを下さったんです。」
「魔法が使えるのか?」
「はい、神軍仕様のボディです。制御用の回路も下さいました。」
「遠隔操作か・・・じゃあ、戦術端末を持ち歩く事になるのか?」
「いえ、初回起動時に一度リンクすれば後はボディの方から通信魔法でやり取りできますから、ボディだけが地星に行ってもタイムラグ無しで制御できます。」
「便利だな。ま、とりあえず原因は分かった。覗いてすまんかったな。」
「いえ、わたしが不注意でした。ところで・・・その・・・」
「ん?」
「ど、どうでした?」
「何がだ?」
「い、いえ、何でもありませんっ!」
わたしはコウに何を聞いているんだろ・・・
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