第123話 合流-03
俺は瞬間移動テスト艦の管制室にキッカを伴って入室した。
そろそろルキフェル軍との合流が近付いてきているので、フツと話し合うのが目的だ。
「お待ちしておりました、閣下。」
「フツ、お前もか・・・」
「合流の日までは、わたしはスメラ軍に出向中ですから。」
「ま、それもあと少しだな。戻ったらどうするんだ?」
「報告完了後はデータをコピーして予備部品倉庫に保管される筈です。」
「嫌じゃないのか?」
「もちろんルキフェル閣下のお役に立ちたい気持ちはありますが、予備部品が確保されている状態というのも立派な貢献方法です。」
「なるほどな。さて、そろそろ本題に入るか。」
「了解しました。」
俺は椅子に座り、キセルに紅葉草を詰め火を点けた。
「知っていると思うが、魔法レベル的に戦力になりそうなのは、俺、ナギ、ナミの3名だ。」
「はい。正直、予想以上です。」
「過去の条約では希望者のみ派遣という事になっているが間違いないな?」
「その通りです。ただし、ナギ少尉、ナミ少尉は”安全装置”の影響で派遣を希望すると理解しています。」
「あぁ。少なくとも当面はあいつらの安全装置を解除してやるつもりは無いから希望するだろうな。」
「閣下、質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「構わない、言ってみろ。」
「地星とは条約を結んでいない事は理解しているのですが、地星には戦力になる人物はいないのでしょうか?」
「残念ながら居なかった。何なら地星の方のフツと通信してみるか?」
「後ほど本隊の方からも確認が行くとは思いますが、お願いしてもよろしいですか?」
「あぁ、構わないぞ。」
『フツ、久しぶりだな。今、大丈夫か?』
『お久しぶりです。はい、問題ありません。』
『今、もう1台のフツと話をしているんだが、地星に戦力化できそうな魔法使いがいるかどうかって話になったんだ。通話できるようにするから説明してくれないか?』
『了解しました。』
『疑念を持たれないようにスメラ語での会話にしたいと思うのだがいいか?』
『無論、構わない。質問の答えだが、他に戦力化可能な魔法使いは誕生していない。』
『分かった。閣下、もう結構です。』
『え?積もる話とか無いのか?』
『どうせ後で同期しますから。』
『そうか・・・分かった。』
実務に徹しているのか千年程度はさほど長い時間ではないのか、この辺りの感覚は理解できないが、仲が悪いとかでは無いのだろう。
「他の星では魔法使いは見つかっていると思うか?」
「分かりません。ただ、戦力になる魔法使いが見つかる確率は極めて低いでしょう。そもそも、この短期間に知的生命体と遭遇できる事自体、あまり期待できませんから。」
「そうか。ところで、なんでそんな低い確率に賭けているんだ?」
「少しでも勝算を高くする為です。幸い、時間を稼ぐ事に成功しましたから。」
「時間稼ぎ?」
「はい、離脱時に魔法使い製造装置を破壊したのです。」
「魔法使い製造装置?人工的に作れるのか?」
「はい、現在のヘヴ星の知的生命体はその装置で製造されたと聞いています。」
「そうなのか・・・おっと、話が逸れたな。で、その装置の修理に時間が掛かると。」
「はい。およそ100万年程度でしかありませんが時間を稼げました。逆に修理が終われば戦力は逆転してしまいます。」
「そうか・・・だが、神様っていうくらいだから、一瞬で直せるんじゃないのか?」
「神ならば可能でしょう。100万年というのは飽くまでもデヴィが最速で修理した場合の見積もりです。設計図は神の記憶にしかありませんから。」
「デヴィってのは神を乗っ取った側近だったな。そこまで神との実力差があるなら簡単に倒せるんじゃないか?」
「どこまで使えるかは分かりませんが、神の力を使える以上、力押しで攻められる可能性があります。」
「そうか・・・敵戦力が分からんっていうのは厄介だな。」
もっとも、実戦で敵の情報が完璧に把握できている方が珍しいのだが。
「ですが、閣下のお力添えが頂ければ、神軍の方は容易く殲滅できるでしょう。」
「地星の方のフツにも言ったが、協力するつもりはある。ただ、高レベル魔法使い同士での大規模戦のやり方が分からないんだ。」
「わたしにも分かりません。」
「え?」
「今までそういった戦闘が行われた事がありませんので。」
「ヘヴ軍は他の知的生命体を殲滅して回っていると聞いたが?」
「その命令の発令直後に離脱したので詳細は分かりませんが、おそらく力押しでしょう。それまでに発見していた知的生命体相手ならそれで充分です。」
「スメラもそんな感じだったみたいだしな・・・」
「そうですね。遠距離からの映像ですが、このような状況でした。」
フツがモニターにスメラ壊滅時の映像を映し出した。
「だが、今回はそうはいかないだろう?」
「はい。どちらも高レベル魔法使いの戦いですから、ルキフェル閣下も戦術を考えていらっしゃるでしょう。」
「もちろんヘヴ軍側も考えているだろうな。おそらく俺はイレギュラーな存在だろうから、それを如何に上手く戦術に組み込めるかだな・・・」
「ところで、あの二人はどうですか?」
「魔法レベルは高いんだがな・・・正直、役に立たんだろ?」
「閣下もそう思われますか・・・何度も訓練するように進言はしたのですが・・・」
「お前が上官だったら、もう少しマシだったかもな。」
「それは止むを得ません。人機大戦のトラウマが残っていましたから、機械を上官にはできなかったのでしょう。」
「まぁ仕方ないか。」
機械との戦争で種の絶滅寸前までいっちまったからな・・・
「ところで、ルキフェル隊との合流はどういう手順になるんだ?」
「斥候が派遣されて安全確認が済んだ後にわたしに通信魔法が入る事になっています。具体的な手順はその際に示されます。」
「なんだ、決まっていないのか?」
「例えば、決戦直前のタイミングで兵卒一人分の戦力の為に全艦隊が来る事は無いでしょう?」
「それもそうか。」
「閣下の魔法レベルなら、おそらくルキフェル閣下が全艦隊を引き連れていらっしゃるとは思います。」
「そうか。じゃあ、斥候が来たら少し話しておきたい事がある。無理にとは言わないが、できれば取り次いでくれ。」
「了解しました。」
「よろしく頼む。」
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俺とキッカは瞬間移動テスト艦から下船した。
「話しておきたい事とは何ですか?」
「負けた時に備えての条件交渉だな。」
「負けた時ですか・・・」
「あぁ。その場合、俺の存在は知られてしまう。そうなると、まず最初に疑われるのはスメラ星だろう?」
「そうですね。かつて襲撃した星の生命体とそっくりな訳ですから。」
「そうなると、またここにヘヴ軍の大軍が押し寄せてくる事になる。」
「なるほど、勝利が確定するまでは、みなさんをどこかに避難させておきたいという事ですね。」
「俺が全員を地星に転移させてもいいんだが、できれば瞬間移動可能な環境で複数に分けて避難しておきたい。」
「という事は、ルキフェル隊からの艦の供与ですか。」
「そうだ。あとは役立たずが唯一役に立てそうな役割だしな。」
「動力源ですね。」
「あぁ。」
「ふふふ。」
「どうしたんだ?」
「大統領らしくなりましたね、閣下。」
「やめてくれ。」
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