第124話 合流-04

『こちら第075隊331。フツヌシ、応答せよ。』

『こちらフツヌシ、どうぞ。』

『久しぶりだな。』

『そうですね。1万年ぶりです。』

『ところで、低レベルの魔法気配が2,000ほど感じられるが、戦力化できそうな者はやはり無理だったか?』

『いえ、魔法レベル**が1名、**が2名居ます。』

『な、何?聞き間違えか?』

『いえ、一人はルキフェル閣下以上、二人は軍団長クラスです。』

『信じられん・・・』

『そうでしょうね。ところで、大統領が斥候と少し話したいと希望されているのですが、どうされますか?』

『喜んで応じよう。念の為、自分でも魔法レベルを確かめておきたい。』

『分かりました。ではお繋ぎします。』

『閣下、斥候がいらっしゃいました。』

『初めまして、スメラ連邦大統領のコウです。』

『初めまして、第075隊331と申します。』

『早速ですが、直接お会いする事は可能ですか?』

『はい、もちろんです。』

『では、座標を指定しますのでそこでお会いしましょう。』

『承知しました。』


ガラスの平原中心部に人影が降下した。

人と言っても、異形の姿だ。


「随分と荒れ果てたものだな・・・」


かつてこの星に降り立った時、惑星全土は戦争で荒廃していたが、それでも多くの動植物に溢れていた。


「あの後、ヘヴ軍が来たのか・・・」

「えぇ、そうです。」

「うわっ!」


異形の者は飛び上がって驚いた。


「失礼、驚かせてしまいましたか?」

「こちらこそ、お見苦しいところを・・・ひょっとして瞬間移動されたのですか?」

「はい、その通りです。」

「なるほど。念の為、魔法気配遮断を解いて頂いても構わないでしょうか?」

「えぇ、もちろん結構ですよ。」

「おぉっ!あ、ありがとうございました。まさか本当にこれ程の魔法レベルがこの星で誕生するとは・・・」

「いえ、わたしは別の星出身なのですよ。」

「えっ?では参戦していただく事は・・・」

「今のところ協力するつもりです。ですが、少しお願いしたい事があるので、事前にお会いしたかったのですよ。」

「分かりました。本隊にお伝えします。」

「ありがとうございます。では・・・」


------------------------------


斥候からの報告を受け、ルキフェル隊は全軍を率いてスメラ星を訪れる事になった。

そして予定時刻丁度に艦隊はガラスの平原上空に現れた。

もちろん、完全ステルス化は解除した状態だ。


「おっ、来たな。」

「なかなか壮観ですね。」

「じゃあ、そろそろ中で待機しておくか。」

「はい。」


シェルター前の広場に見慣れぬ建物が出来ていた。

ルキフェルが来るという事なので、地星から持ってきた資材で大急ぎで作ったスメラ様式の迎賓館だ。

見栄を張る必要は無いが、礼儀を欠かす訳にはいかない。

調度品は、大量に押し付けられた”神王様への貢ぎ物”を活用したので、多少ちぐはぐなところはあるが・・・


暫く待っていると、予定時刻丁度にルキフェル達12名の魔法気配が広場に瞬間移動するのが感じられた。

広場からこの部屋までの案内はオモさんと引きニートどもがする事になっている。


コンコンコン


「ルキフェル閣下がご到着されました。」

「お入りください。」


扉が開かれ、人類型の2名と、竜人とでもいうべき種族の10名が姿を現した。

友好の意味を込めて、相手側の言語であるヘヴ語で挨拶をする事にした。


「ようこそいらっしゃいました。スメラ連邦大統領のコウです。どうぞお掛け下さい。」

「ヘヴ星近衛隊隊長のルキフェルです。会談の場を設けて下さりありがとうございます。」


ルキフェルが話したのはスメラ語だった。

同じく友好の意を示しているのだろう。


「流暢なスメラ語ですね。」

「1万年ありましたから。貴殿こそ流暢なヘヴ語ですよ。」

「いえ、わたしは情報インストール装置を使いましたから。」

「では早速、本題に移りたいのですがよろしいですか?」

「その前に一つ提案があります。お互い、話しやすい話し方でどうでしょうか?」

「そうですね、そうしましょう。」

「じゃあ、俺の事はコウと呼んでくれ。」

「分かった。我はルキフェルで構わぬ。」

「俺の方から出したリクエストは飲めそうか?」

「無論だ。あの程度の事でコウの協力が得られるのならいくらでも飲もう。」

「ほう、曲がりなりにも高レベル魔法使いの二人を戦場から外してもいいのか?」

「フツヌシからどれだけ役立たずかは聞いているのでな。」

「なるほど・・・艦はすぐに供与できそうか?」

「あぁ、予備の艦の内装はもう取り払ってある。すぐにでも引き渡し可能だ。」

「助かる。ガラスの平原に降下させておいてくれ。後はこっちで引き受ける。」

「分かった。」

「後は・・・地星の方のフツヌシの件は?」

「我が直接命令しておいた。かなりやる気になっておったな。」


スメラに骨を埋めるつもりではあるが、故郷への愛国心を捨てた訳では無い。

フツヌシが日出国の技術開発をサポートし続けられるのは非常に大きな国益になるので、そのまま地星に残すように依頼しておいたのだ。


「満額回答か・・・分かった、全面的に協力する。」

「感謝する。」

「ところで、他の星で魔法使いは見つかったのか?」

「戦力になるような者は居なかったな。」

「そうか・・・ん?戦力になるような者?」

「ヘヴ軍の襲撃を受けて逃げている者を拾ったのだ。」

「そういう事か。そいつはどうなったんだ?」

「今も保護している。できれば一緒に避難させてやれないか?」

「おそらく大丈夫だとは思うが、議会に聞いてみる。それまで保留でもいいか?」

「もちろんだ。後で挨拶に向かわせる。ヘヴ語はある程度筆談できるようだ。」


黒光りするG型種族とかだった場合、さすがに顰蹙を買うので即答は避けておいた。


「話は変わるが、戦術はどうなる?」

「まだ決まっていない。コウの協力が得られたのでな。」

「以前はどうやろうとしていたんだ?」

「兵卒には兵卒、部隊長には部隊長をぶつける消耗戦だ。」

「理由を聞かせてくれ。」

「我らの兵はかつてのこの星の兵のように何かに特化している訳では無いのだ。魔法レベルの上限に達すればそれ以上にはならぬからな。」

「特化しても強みにならず、していない部分が弱みになるか・・・」

「そうだ。そして不老故に全てが上限に達してしまっている以上、何かに特化した部隊が連携するような戦術を取る意味が無いのだ。」

「なるほど、一周回って原始時代の全員で殴り合う戦争みたいになるって事か。」

「そういう事だ。ただし、殴り合いではなく、頭を吹き飛ばさなければならぬがな。」

「ずいぶん徹底しているな・・・」

「我らは代謝魔法で生きているからな。」

「なるほど。首から下が吹き飛んでも生きていられるって事か・・・」

「うむ。思考力と魔法野さえ無事なら、魔法で傷口を塞いで痛覚を遮断すれば戦い続けられる。」

「ヘッドショット必須か・・・ヘルモードだな。」


気を付けていたつもりだったが、未だに普通の人間相手の感覚に陥っていたようだ。


「うむ。だが、我らにはコウが居る。そちらの言葉で言うなら・・・そう、チート武器を手に入れた状態だ。」

「接敵と同時にチート武器で蹂躙ってのが良さそうだが・・・」

「我もそう思う。配下の犠牲が最小限になる戦術を検討中だ。」

「あんた、いい指揮官だな。」

「失敗すれば二度と機会は来ないからな、万全を期さねばなるまい。」


俺はキッカをチラ見した。


「万全を期すと言えばそうだな。こいつ、キッカも連れて行っていいか?」

「む?構わぬが・・・見たところ、アンドロイドではないのか?」

「その通り。だが、強いぜ?」

「ほう・・・コウがそう言うのだから何かありそうだな。教えてくれぬか?」

「キッカには仮想頭脳の幾つかを使えるようにしてある。」

「ふむ・・・ひょっとして疑似魔法使いか?」

「その通り。俺の魔力の10%まで使えるから、戦力としては相当だろ?」

「ふむ、我と同等の魔力で、しかも軍団長ですら魔法気配が一切感じられぬ存在か・・・面白い。」

「ヘヴ星にはそういう運用は無いのか?」

「仮想頭脳理論は既知のものだが、魔法的特異点を超えた者でなければ実用には耐えられぬ。」

「そうだろうな。魔法レベルが低いなら、仮想頭脳を作り出すよりも他の事に魔力を回す方が効率はいいと思う。ヘヴ軍にはどれくらい使える奴が居るんだ?」

「我以外には居らぬな。我の魔法レベルが丁度その魔法的特異点だ。」

「そうなのか。じゃあ、ルキフェルは仮想頭脳をどう使うつもりだ?」

「余剰分は配下の者の援護に回すつもりだ。デヴィの使える力が不明な以上、損耗は最小限に抑えたいのでな。」

「デヴィか・・・そう言えば、どんな奴なんだ?」

「こちらをご覧ください。」


ルキフェルの副官らしき人物が映像を映し出した。


「・・・箱?」

「人工知能だからな。これはアダマント製の筐体だ。」

「てっきり人型だと思ってたんだがな・・・」

「いや、完全に電子機器だ。今でも同じかどうかは分からぬがな。」

「しかしアダマント筐体って事は昔から防御を重視してたのか?」

「いや、単純に精密機器の筐体として特性が良かっただけだ。誤差レベルとは言え、防御力を考えるならヒヒイロカネの方がよかろう?」

「そういう事か。で、こいつを破壊すれば”神”は救出できるのか?」

「破壊できずとも、一瞬でも停止させれば神は自力で拘束を解かれる筈だ。」

「後でデヴィの詳しい仕様を教えてくれ。」

「無論だ。」

「それにしても、人工知能がどうやって”神”を封じる事が出来たんだろうな?」

「分からぬ。おそらく魔法野に干渉する何らかの装置を作ったとは思うのだが・・・」

「ルキフェルにも分からないのか。」

「デヴィは神が創られた人工知能だ。頭の良さは我らを凌駕する。」

「なるほどな。」


「それで、これからのスケジュールだが、何か希望はあるか?」

「そうだな・・・大規模魔法戦闘の演習をしておきたい。ルキフェルも俺が参加した場合のフィードバックが受けられる方がいいだろ?」

「そうだな。では日程が決まったら連絡させる。」

「分かった。じゃあ、今日はこのくらいで切り上げるか?」

「そうしよう。」

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