第119話 物資-05
俺はキッカ用の剣を作る為にシェルター地下の工作室へとやって来た。
素材は、やはりヒヒイロカネが最適だが、問題は作るのがかなり面倒だという点だ。
普段の合金作りは、原料となる元素をEMT魔法で創造してから冶金的な方法で製造し、面倒な工程だけ魔法アシスト製法を用いるが、ヒヒイロカネでは極短周期から長周期に渡って緻密に計算した結晶構造にしなければならないので、最初から最後まで魔法アシスト製法が必要なのだ。
「普通のEMT魔法じゃ、時間がいくらあっても足りないな・・・」
俺はヒヒイロカネ専用EMT魔法の為の仮想頭脳を構築して試してみた。
結果は良好で、板材程度ならすぐに作れるようだ。
「ま、わざわざ構築したんだし、在庫用にドカンと作るか!」
数時間後、工作室の高い天井に届きそうな程のヒヒイロカネ塊を作り出す事が出来た。
後はここから必要な大きさを切り出して、魔法で削り出し加工すれば完成だ。
「思いつくもんはこれくらいだな。」
ツムハ・コピーの他に装甲機動戦闘服の装甲やハンマードライブの打撃面カバーなど様々なヒヒイロカネ製パーツを作り出した。
「いや、せっかく剣を作るなら、やっぱりアレだな。追加工するか・・・」
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翌日、俺は装甲機動戦闘服を着用したキッカを伴って再び地下工作室へとやって来た。
「これがキッカ用の剣だ。」
「ありがとうございます!あれ?二振りあるのですか?」
「あぁ。ツムハは親父に返してやろうかと思って、ついでに俺の分も作っておいた。どっちも同じ性能だから好きな方を選んでくれ。」
「お揃いなんですね!」
「まぁ、そうなるな。銘は、左が桜の花でオウカ、右が藤の花でトウカだ。」
「どちらも花なんですね。」
「キッカ用に作ったからな。轟雷とかゴツイ銘は嫌だろ?」
「うっ・・・確かにそうですね。」
「どっちにする?」
「では、トウカの方にしたいと思います。」
「分かった。じゃあ、俺はオウカの方だな。」
(藤の花言葉は・・・”決して離れない”だったよね。)
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も・・・」
「じゃあ、試し切りだな。左から順番にやってくれ。」
俺は3本の柱を指さした。
「分かりました。見たところ、ミスリル、オリハルコン、アダマントですか?」
「そうだ。ヒヒイロカネの試し切りにはいいだろ?」
「アダマントはちょっときつそうですが、試してみます。」
キッカの予想通り、アダマントボディのパワーと装甲機動戦闘服のパワーアシストによって、ミスリルとオリハルコンは切断できたのだが、アダマントだけは途中で刃が止まってしまった。
「さすがにヒヒイロカネだけあって刃毀れはありませんが、パワーが足りませんでした。魔法で加速すれば問題無さそうですから、試してみていいですか?」
「その前に、トウカにリンク要求コマンドを送ってみてくれ。」
「トウカにもK.I.T.T.兵器システムが搭載されているのですか?」
「あぁ、只の剣じゃないぞ?」
「楽しみです。リンク完了・・・あぁ、懐かしいですね。」
「まぁ、苦い思い出だけどな。」
「ではっ!」
今度はアダマントもスッパリと切れた。
「高速微振動アシスト機能は凄いですね。」
「あの時はアンドロイド兵に俺の日出刀があっさり切断されたからなぁ。ところで、気に入ったか?」
「はい!大事にします!それにしても・・・」
キッカがそびえ立つヒヒイロカネ塊の方を見た。
「ずいぶん沢山作りましたね。」
「また作るのは面倒だからな。ついでに色々と作っておいた。こっちだ。」
「はい。」
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俺はキッカを隣の区画へと連れて行った。
「これは装甲板ですか?」
「あぁ、装甲機動戦闘服用と外部装甲をついでに作っておいた。」
「これは何でしょう?」
キッカは薄板で構成されたパーツを手に取り尋ねてきた。
「あぁ、それは防弾生地と交換する為のパーツだ。一応、装甲機動戦闘服も全面ヒヒイロカネで保護できるようにしておいた。」
「ありがとうございます!でも・・・」
「ん?どうした?」
「いえ、何でもありません。」
「遠慮するな。換装してからだと却って手間だぞ?」
「はい・・・少々派手かなと・・・」
「あ・・・そうか・・・」
確かに全身真っ赤じゃ恥ずかしい。
「焼付塗装でもしますか?」
「剥がれそうだしなぁ・・・カラーアルマイトみたいに多孔質化処理してみる。」
「それなら大丈夫そうですね。」
「色の指定はあるか?」
「特務隊標準色にしておけば地星で着用する時も目立たないと思います。」
「それもそうだな。」
俺はヒヒイロカネ表面に微細な穴を開けて塗料を埋め込んでいった。
「よし、出来たな。」
「ありがとうございます。お手数をお掛けしました。」
「いや、俺の分もあるからな。キッカに聞いておいて良かったよ。ところで、ここで換装して行くか?」
「防弾生地も交換となるとオーバーホールレベルの分解が必要になりますから、夜に済ませておきます。コウの新型も後で持って来て下さい。」
「いいのか?」
「睡眠不要ですので、皆が寝ている夜間は暇を持て余していますから。」
「じゃあ頼む。」
交換作業に備えてキッカが装甲機動戦闘服を脱着した。
「さて・・・」
俺は隅にある大きな物体に目を向けた。
「あれは何ですか?」
被せられていたシートを魔法で取り去り、スポットライトのスイッチを入れていく。
キッカの性能ならそんな事をしなくても視えるのだが、まぁ、アニメなんかでよくある新型機紹介時の演出みたいなものをしてみたかっただけだ。
「キッカ専用MSだ。」
「わたし専用ですか?」
「オモさんからの依頼ついでに作ってみたんだ。」
「赤いMSですね・・・」
「コクピット周りをヒヒイロカネ装甲にしてみたんだ。ちなみに、ブレードアンテナは付けてないぞ。」
「なるほど・・・後半は意味がよく分かりませんが。」
「オリジナルと同じようにマニュアル操作も出来るが、K.I.T.T.兵器システム準拠にしておいたから操作は問題無いと思う。」
「それならすぐ使えそうですね。ちょっと搭乗してみてもいいですか?」
「もちろんだ。スタンバイ用のMETは搭載してあるから、すぐに使えるぞ。」
「ハッチオープン!」
キッカがK.I.T.T.兵器システムの通信プロトコルを利用してハッチを開けると、身体能力を生かしてコクピットに飛び乗った。
ちなみに、コマンドを口にする必要は全く無いのだが、突っ込まないでおいた。
「システムオールクリア、魔力エネルギー接続完了、エネルギー充填率100パーセント。」
「どうだ?」
「凄い、5倍以上のエネルギーゲインがある。」
「・・・どうだ?」
「コホン、各機能正常に動作しています。おや?」
「どうした?」
「オリジナルには無いパーツがありますね。」
「配線類の取り出しが背面側だから、防御板も兼ねてヒヒイロカネで収納庫を作っておいたんだ。軍刀とか邪魔になるだろ?」
「なるほど。この背もたれの形状はレールガン用ですか?」
「そうだ。一応、そのシートはキッカの装甲機動戦闘服に合わせてある。生身用と外部装甲用のもあるぞ。」
「ありがとうございます。明日、換装した装甲機動戦闘服で試運転してもいいですか?」
「キッカの機体だからな、好きに使え。後で外の格納庫に転移させておく。」
「はい!こんな機体まで作って下さって、ありがとうございます!」
「まぁ、キッカの場合はMSを使うより素の魔法を使う方が強力だから、実用にはならんけどな。」
「いえ、初めてのマイカー・・・じゃなくてマイMSですから嬉しいです!」
「そう言えばそうだったな。運転・・・じゃなくて操縦は楽しいぞ。」
「はい!楽しみです!」
「間違っても搭乗前に非常用保存食だけは口にするなよ?」
「はい・・・」
キッカも草津温泉からの帰り道を思い出したようだ。
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