第118話 物資-04
俺達はスメラとも地星とも200億光年以上離れた宙域に瞬間移動した。
1万光年程度の距離で訓練して、遠い将来の子孫に流れ弾が当たると困るからだ。
まぁ、この宙域に居るかもしれない生物に当たってしまうかもしれないが、それは不運だったと諦めてもらうしかない。
一応、電波などは受信できていないので、近くに高等生物はいないだろう。
もっとも、地星でもたかが数百年前は電波なんか使えなかったが・・・
『キッカ、この辺りでいいか?』
『はい。小惑星が漂っているので標的に良さそうです。』
『誤射するつもりは無いが、バックアップとの同期の方は問題無さそうか?』
『大丈夫です。リアルタイムで同期できています。』
『チートだよなぁ。』
『コウも記憶を情報インストール装置のデータフォーマットでバックアップしておけば、クローンボディを作って同じ事ができませんか?』
『出来るが、やるつもりは無いな。』
『何故です?』
『スメラじゃ人工生命は禁忌だからな。ナホに気味悪がられたまま生きてても仕方ないだろ?』
『・・・コウらしいですね。』
『さて、そろそろ始めるか?』
『はい。』
キッカは超高速で飛び回りながら、集めた小惑星の中心でMET魔法を発動させると飛び散った破片をレーザーで掃射し蒸発させた。
『どうだ?』
『魔法は問題無く発動できるようです。ですが、ランダム回避運動用に専用ポートを増設した方が良さそうです。』
『帯域が足りないのか?』
『はい。直線移動が長いと狙われやすいのでもっと頻繁に方向を変えたいのですが、あの程度の動きでも帯域の限界まで使っていました。』
『分かった。どう処理すればいい?』
『加速度ベクトルを常時出力しますので、それを拾っていただく事は可能ですか?』
『問題無いと思う。・・・これでどうだ?』
『試してみます。』
さっきよりも明らかに回避性能が上がっていた。
『ありがとうございました。ここまで出来ればわたしの性能の方がボトルネックになります。』
『他には何か試したい事はあるか?』
『対魔法使いマルチロックオン機能がまだ試せていません。』
対魔法使いマルチロックオン機能とは、”対象が魔法気配遮断を行っていようとも、魔法レベルが2以上高ければ気配を感じる事ができる事”を利用する方法だ。
もっとも、非魔法使いしか居なかった完全ステルス化されたシェルターや、キッカのように魔法気配を持たない疑似魔法使い相手には使えないロックオン方法ではある。
『ここには魔法使いが居ないから、ダミーデータしか出来ないが・・・どうだ?』
一帯に漂う小惑星の内、700万個を神軍に見立てて、ダミーの魔法レベル情報を付与してキッカの三次元レーダーに送った。
『良好です。ロックオンに問題ありません。』
『じゃあ、演習してみるか?小惑星それぞれに神軍相当の仮想頭脳を担当させる形で。』
『お願いします。威力の調整はどうしましょう?』
『キッカは思い切りやってくれ。神軍はキッカが壊れない程度の威力で攻撃する。』
『分かりました。それでは、わたしの撃墜判定はコウにお願いしますね。』
『分かった。』
その後、離れた宙域に瞬間移動し、ダミー魔法気配データはリセットした。
もちろん接敵と同時に復活させるが、実戦に近付ける為に神軍担当の小惑星は入れ替える事になる。
『コウ、準備完了です。』
『じゃあ、カウント0で演習宙域に瞬間移動させる。3,2,1,0!』
キッカは転移と同時にマルチロックオンした敵兵卒から撃破していった。
お互いに遠距離から超高速でランダム回避運動をしながらの戦闘だが、魔法気配でロックオンしているおかげで、キッカは正確に魔法気配のダミー座標を正確に射抜いて行く。
敵が固まっているような場所では、一か所に集めてMET魔法で殲滅するといった戦術も用いて次々と敵軍の数を減らしていった。
一方、神軍の方は魔法気配の無いキッカを捉える為には拡張視野やレーダー魔法に頼る必要があり、必然的に攻撃は一呼吸遅れてしまった。
しかし、戦いは数というのは、あながち間違いでは無い。
キッカは兵卒と部隊長までは全滅できたものの、”数撃ちゃ当たる”というもう一つの真理により被弾した。
少なくとも思考加速はできるであろう軍団長が連携して、あらゆる回避コースを塞ぐ形で一斉に攻撃するという作戦を取ったのだ。
その結果、キッカも奮戦したが、軍団長6名を残して敗退してしまった。
『状況終了。』
俺は演習宙域に瞬間移動してキッカを労った。
『よくやった。』
『負けてしまいました・・・』
『いや、アンドロイド1機で神軍をほとんど壊滅だぞ?』
『いえ、もし神軍がわたしのような対疑似魔法使い戦闘を想定していたら、接敵直後に破壊されている筈です。』
『それはそうだが、本番ではルキフェル軍100万人もいるからキッカ一人に掛かりきりにはならないだろう?』
『そうですね・・・』
『そう落ち込むな。俺達は相棒なんだ。フォローしあえば絶対に負けないだろ?』
『は、はいっ!』
『よし、じゃあ、そろそろスメラに戻ろう。』
『あ・・・』
『どうした?』
『例の長距離砲撃の件なのですが、せっかくなのでデータ取りしてみませんか?』
『そうだな。標的はあの星にするか?』
俺はキッカの3次元レーダーにロックオン情報を送った。
『はい、大きめの岩石惑星ですから手頃ですね。』
『条件はどうする?』
『そうですね・・・とりあえず1,10,100光年の距離から魔力を振って発動させてみましょう。予想通り確率分布になるなら、同条件でなるべく多く砲撃する方がいいです。』
『スポッターは任せていいか?』
『もちろんです。』
『よし、じゃあ移動する。』
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一通り狙撃条件を試してからキッカと交信した。
『どうだ?』
『やはり発動ポイントの座標は確率分布になっていますね。距離が離れ魔力が大きくなるほど分布が広がります。分布の近似式はこちらの関数をお使いください。どういう原理なのかは不明ですが・・・』
『ま、俺たちは学者じゃない。どれくらいズレるのかさえ分かれば、それに合わせた戦術を考えるだけだ。』
『そうですね。残念ながら、神軍の魔法レベルから想定できるバリア強度ですと、超遠距離砲撃が難しい事は判明しました。』
『面制圧の大規模魔法だと・・・余計に魔力が必要になるからズレが大きいか・・・』
『それをカバーする為に範囲を広げると魔力が多く必要になってまたズレが大きくなって・・・という事ですね。』
『できれば接敵前に削っておきたいんだがな・・・』
『砲撃では無く、
『ぎりぎり殺せる程度の威力に抑えて確率分布を収束させるって事か?』
『はい。少なくとも部隊長までの魔法レベルですと全状態保持魔法は無理でしょうから、バリア内で発動させれば殺せるのではないかと・・・』
『魔法気配の座標は距離が離れるほどぼやけるんだ。ピンポイントで狙う為には結局ある程度は近づかなきゃならん。』
『なるほど。たしかにどこからでも感知できるなら、ルキフェル軍もわざわざ宇宙を彷徨って探しませんね。』
『そういう事だ。親父たちの魔法気配も日星系内まで行かなきゃ分からなかったしな。』
『あれ?』
『どうした?』
『瞬間移動はかなり魔力を使いますよね?』
『そうだな。』
『先程の関数に代入すると、かなりズレが大きいはずなのですが・・・』
『そう・・・だな。今までそこまでズレた印象は無いよな?』
『はい。宇宙空間で基準点が無かったせいで気付かなかった可能性もありますが・・・』
『試してみる。』
俺は100光年離れた地点からキッカの目の前に瞬間移動した。
『うわっ!』
『あぁ、すまん。しかし、ズレないな・・・』
『イメージング通りでしたか?』
『あぁ。寸分違わずってところだな。待てよ・・・』
『どうされました?』
『イメージングに使う理論が近似式だと魔力効率は下がるんだ。』
『たしか光速に近付くと古典力学では効率が下がってしまうんでしたよね。』
『ひょっとすると、理論が正しいほど発動ポイントもズレなくなるんじゃないか?』
『なるほど、瞬間移動は非常に複雑で難解な理論を用いていますね。』
『他の魔法も理論が正確なら狙撃できるかもしれんが、今から考えても何億年かかるか分からんしな。手持ちの魔法で工夫して戦うしかないだろう。』
『そうですね。』
『じゃあ今度こそ帰るか。』
『はい。』
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俺達は再び瞬間移動してスメラに戻った。
「なぁ、キッカ。」
「はい。」
「疑似魔法使いになった記念に剣でも作ってやろうか?」
「えっ!」
「いや、前の装甲機動戦闘服はキッカに譲ったけど、ツムハは俺が持ったままだろ?」
「家宝ですから当然です。」
「由来はともかく、山王家の家宝だから俺が持ってるのもまずいんだけどな。」
「神王様なら問題ないでしょう?」
「やめてくれ・・・」
「ふふふ、すいません。冗談です。」
「ま、ともかくキッカ用の軍刀を作ってやらないといけないとは思ってたんだ。いい機会だから楽しみにしておいてくれ。」
「はい!ありがとうございます!」
落ち込み気味だったキッカも笑顔になった。
早速、設計に入る事にしよう。
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