第117話 物資-03
目の前に大破したMS50機が置かれている。
オモさんからの依頼で、15年前の事件で親父達が鹵獲した機体をスメラに持ち帰ったのだ。
キューさんが調査したがっていたそうだが、現代地星にはオーバーテクノロジー過ぎるのでフツヌシが封印を命じたらしく、鹵獲時のままの状態だ。
もっとも、俺(神王)がくれと言ったら、喜んで差し出してきたが。
「閣下、これがMSなのですね。」
「あれ?見た事ないの?」
「わたしはシェルターで起動されましたから、実物を見た事はありません。もちろん、MSに関する公開情報はデータベースに保存されていますが、軍事機密に関する事は知らされておりません。」
「なるほど。まぁ、機密情報ファイルに設計図もあったから修理はできると思うよ。」
「ありがとうございます。これが修理できれば防衛力は大幅に向上できます。」
「パイロットの選抜はどうする?」
「どうせなら改造したいのですが、よろしいでしょうか?」
「改造?」
「はい。できれば防衛用アンドロイドに搭乗させて、魔法使いはエネルギー供給するだけで済ませたいのです。」
「まぁ、その方が危険性は少ないか。」
「閣下、そこで一つお願いがあるのですが・・・」
「何かな?」
「MSのオリハルコン装甲をアダマント装甲に換装できないでしょうか?そうすれば、魔法による遠隔エネルギー供給システムを製造するだけで済みます。」
「なるほど、アダマント装甲なら機械軍の兵器じゃ抜けないか。いいよ、在庫はたっぷりあるからすぐ加工するよ。」
「ありがとうございます。」
こうして、スメラの防衛体制は一段と強化される事となった。
もっとも、アダマントMSと言えども高レベル魔法使いにとってはミジンコと同等でしかないので、あくまでも機械軍に対する防衛力だ。
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打ち合わせが済み、下層の工作室から戻っている途中でキッカが話しかけて来た。
「コウ、ちょっと思いついた事があるのですが・・・」
「ん?何かいい改造アイデアでも浮かんだのか?」
「いえ、MSの改造では無く、わたしの機能向上に関してです。」
「へぇ、どれくらい強くなるんだ?」
「上手く行けば、ナギやナミにも勝てるレベルかもしれません。」
「え?魔法使い相手に勝てるのか?」
「はい。もっとも、魔法を使う方法なので機械が勝てるわけではありません。」
「どんな方法なんだ?」
「コウの仮想頭脳、その中でも戦闘魔法に特化したアクセラレーターとわたしをK.I.T.T.兵器システムの通信プロトコルで繋げば、わたしも疑似的に魔法が使えるのではないでしょうか?」
「なるほど、仮想頭脳を一種の兵器としてキッカに渡せばいいのか。」
「はい、仮想的に兵器として処理すれば問題ありません。戦術端末としてはボディを動かす事よりも、そちらの方が慣れています。」
「面白そうだし、ちょっと試してみるか。」
「コウの方に問題は生じませんか?」
「そうだな・・・使える魔力や魔量は10%未満、魔法発動優先権は俺ってしておけば、たぶん大丈夫だろう。」
「分かりました。非常時にはもちろん魔力はシャットオフして下さいね?」
「あぁ、キッカには悪いがそこは割り切るさ。」
「是非、お願いします。」
非情に思えるかもしれないが、俺が自分の生存を最優先にする事がキッカの願いだ。
過去の任務で何度も繰り返してきたやり取りに少し懐かしさを思えた。
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今日はキッカの疑似魔法使い化の打ち合わせだ。
「おはようございます、コウ。」
「おはよう。さて、お互いどこまで担当するかだな・・・」
「事前にシミュレーションしておきました。」
「準備がいいな。どうだった?」
「高速ランダム回避や瞬間移動を考えると、わたしの演算速度がボトルネックになります。ですので、座標と方位は仮想頭脳側で調整する必要がありそうです。」
「そうだな。タイムラグを考えると、そっちの方が良さそうだ。」
「お手数ですが、お願いします。」
「しかしボトルネックか・・・全状態保持の防御魔法は使えそうか?」
「あれは複雑すぎて無理です。普通のバリアであれば問題ないのですが・・・」
「となると座標指定から魔法発動までに移動できてなきゃ被弾か。」
「そうですね。”当たらなければどうという事は無い”と開き直るしか無さそうです。」
「当たったらお仕舞なんだけどな・・・」
「当たり所さえ良ければ修復は出来ます。汎用性を捨てて修復特化型にすればEMT魔法は何とか使えそうですので。」
「ま、あれは俺でも厄介な魔法だからな。修復特化っていうと図面通りに戻す感じか?」
「はい。人間のように複雑な細胞や血管などの情報は必要ありませんから、パーツの再生に絞れば使いこなせると思います。」
「いや、スキンの人工血管とかは結構面倒だと思うんだが?」
「残念ながら、戦闘に必須の物以外は切り捨てないと無理そうです。ですので、それ以外は戦闘修了後に治して頂くしかないです・・・」
「そうか。まぁ、それぐらいお安い御用だ。」
「ありがとうございます。」
「他に何かあるか?」
「MET魔法で分からない点があります。あれは基準座標と範囲と魔力を指定しますが、魔力量はどうやって決めているのでしょうか?」
「あー、あれか。わりと適当だ。」
「え?」
「地星の作戦で、爆破は何度も経験しただろ?」
「はい。帰投時に追撃されないように、よくトンネルや橋を爆破しましたね。」
「そういう時、素材や構造に応じた計算式はあるが、ある程度目分量で爆薬量を調整してただろ?」
「そうですね。現場で完璧な強度計算は出来ませんから。」
「それと同じだ。MET魔法を使う対象の質量を見積もって、多少の余裕を持たせた魔力を突っ込むだけだよ。」
「爆薬の場合は少なく見積もると爆破に失敗しますが、MET魔法ではどうなるのですか?」
「物理法則通りだ。質量をエネルギーに変換する為の励起状態まで持っていけない事になるから、熱エネルギーとか電磁波になって放出される事になる。せいぜい熱核融合が起きる程度だから、投入した魔力よりずっと大きなエネルギーが取り出せるMET魔法のメリットがなくなる。」
「あまりギリギリを狙わない方が良さそうですね。」
「あぁ、励起状態以上の魔力を注いでも、その分が上乗せされて解放されるから丸損にはならないしな。」
「なるほど。」
「瞬間移動魔法は使えそうか?」
「時間を掛ければ使えますが、戦闘中は厳しいですね。」
「そうか・・・出来れば危なくなったら戦線離脱をして欲しいところだが・・・」
「わたしにはバックアップがありますから、撃破されても大丈夫ですよ。」
「いや、直近の記憶は無くなっちまうだろ?」
「いい手を考えたんです。」
「へぇ、どんな方法だ?」
「通信魔法で常時同期しておけば、記憶が失われる事はありません。」
「確かにそうすりゃ、俺が魔法を使える限りは大丈夫だな。だが、俺が死んでからの記憶はバックアップできないよなぁ・・・」
「大丈夫ですよ。その時はわたしも破壊されています。」
「それを大丈夫だというのもなんだが、その通りだろうな。じゃあ、そろそろ実際に使ってみるか?」
「コウの方は準備ができているのですか?」
「一応、キッカに渡す為の仮想頭脳にはK.I.T.T.兵器システムの通信プロトコルを解読する機能を持たせるようにしておいた。」
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします。」
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