第116話 物資-02

新規開拓地では電動無人重機が忙しく動き回っている。

これらは地星から持ち帰ったものとスメラ製の両方が使われている。

復興を目的としたシェルターなので、当然、スメラ製の重機類も保管されていたのだが、オモさん用のMETが最優先なので今まで動かす事ができなかったのだ。

大規模な工事が必要なところは地星への出発前に俺が魔法でやっておいたので、工期は相当短くできる見込みだ。

住宅建設も始めているので、やがて各開拓地は千人規模の町に発展するだろう。

もちろん、将来を見据えてシェルターと各開拓地を結ぶ道路網も整備している。


第一から第五開拓地は工業系開拓地、いわゆる工業団地のようなものだ。

大河に比較的近く水がふんだんに使え、大規模な建造物を建て易い頑丈な岩盤が広がる一帯に、互いに隣接して建設されている。

第一開拓地が無機素材、第二開拓地が有機素材、第三開拓地が部品製造、第四開拓地が製品製造、第五開拓地が検査等を担当する。

なお、原料は地星から持って帰ったものを用いるだけでなく、持ち帰った素材で新たに製造した作業用アンドロイドが主に旧都市付近からスクラップを収集してくるようにした。


第六から第十開拓地は農林水産業を担当する。

こちらは、それぞれの分野に適した土壌を選んで開拓しているので、飛び飛びの配置となっている。

第六開拓地は穀物系、第七開拓地は野菜系、第八開拓地は畜産系、第九開拓地は果樹および林業系、第十開拓地は水産系を担当する。

それぞれの開拓地で小麦粉への製粉や燻製などの加工までできるようにする予定だ。


シェルター周りの開拓地は、もともと人力しか使えない状況で比較的マシな場所を選んだだけという事もあって、食料生産に最適な場所という訳ではなかった。

その為、新規開拓地が安定した後にはモニュメントとして整備保存する事が決定された。


そして、シェルターは将来的には政治経済の拠点とする予定だ。


これからの人口増と分業化を考えれば、利害関係の調整が必要になるのは間違い無いので、今の内から徐々に行政機能を復活させていく必要がある。

また、立法機関も大人全員が参加する直接民主主義では立ち行かなくなるのは明白だ。

選挙制度の整備や、中期的には各開拓団での自治機能も必要になるだろう。

それに、あまり考えたくは無いのだが、人口が増えれば犯罪も起こる筈なので司法組織も作らなければならない。


経済面では、現在は収穫物を平等に再分配する原始共産制だが、近い将来に各開拓地での分業体制が始まる。

通貨による管理に移行しなければ、管理の手間が大幅に増えてしまう事になる。

また、地星からの物資のおかげで、今までのように非常用保存食以外の食事にありつく為に皆が必死に頑張るしかないという状況でもなくなった。

そうなれば、頑張った者が報われるように、長期間蓄える事のできる通貨という資産は欠かせない。


とは言え、俺が現代知識で内政チート無双という展開にはならない。

スメラ文明は地星より進んでいた上に、オモさんが最適解を示してくれるので、議会で多少の調整はするにしても俺の出番は無いからだ。


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「キッカ、本当に大丈夫なのか?」

「もちろんですよ。元々、K.I.T.T.兵器システムはそういう風に作られていますから。」

「でも、お前って通常版キットと違って疑似人格だからさ。」

「SF映画などにあるようなクローンがオリジナルを殺してその地位を奪い取るようなイメージですか?」

「そうそう、そんな感じ。コピー側と争いにならないか心配なんだよ。」

「人格はありますが飽くまでもシェルです。カーネルという人間で言えば本能にあたる部分が協調動作するように設計されていますから大丈夫ですよ。それにわたしにとってはコピーという感覚ではなく、拡張された自身の一部でしかありません。」


目の前にはキューさんから調達したキッカのバックアップ用予備戦術端末があった。

それにキッカが自身をコピーをしようとしていたので、慌てて確認していたのだ。


「うーん・・・」

「おそらく、人間に似すぎているから逆に分かりにくいのでしょうね。集合意識を共有する群体生命のようなものです。」

「まぁ、キッカが大丈夫と言うなら信じよう。」

「ありがとうございます。」


信じようとは言ったが不安は残る。

万が一の時はコピーをぶっ壊すつもりで作業を見守った。


「終わりました。」

「大丈夫か?」

「もちろんです。怖いですから物騒な事はしないで下さいね。」

「バレてたか・・・」

「長い付き合いですから。もうこの端末はわたしの一部で、わたしはこの端末の一部ですから、壊さないでくださいね。」

「厨二的な言い方をすると、”個にして全、全にして個”ってやつか・・・」

「はい、その通りです。一応、デフォルトマスターは古い方の端末にしていますが。」

「あぁ、もうそういう感覚なのか・・・」

「はい。もうキッカという存在は2つの戦術端末で構成されています。」

「普段は片方はどうしておくんだ?」

「もともとバックアップ用ですから、シェルター内に保管します。」

「あぁ、そうだったな。バックアップはこまめにな・・・」

「そうですね・・・」


キットもフジさんの事を思い出しているのだろう。


「ちなみにさ、もしキッカが破壊されたらどうなるんだ?」

「破壊されたと合理的に判断した場合は、予備端末がマスターに切り替わります。そして、最後のバックアップ時点のわたしに戻るだけです。」

「まぁ、そうだろうな。で、やっぱり破壊されていなかったっていう場合は?」

「もちろん、マスター設定を元に戻して同期します。」

「それは予備端末側が納得できない場合でもか?」

「どういう場合でしょうか?」

「例えば、バックアップ後に何らかの理由でキッカが極悪人になったとしよう。」

「疑似人格である以上、有り得なくは無いですね。」

「その後、何らかの理由でキッカが破壊されたと判断できる状況になって、予備端末がマスターとして活動を始めるんだ。」

「その状況ならマスターになるでしょうね。」

「で、予備端末の方では、極悪人を徹底的に嫌悪するような体験をしたとしよう。それでも極悪人キッカにマスターを戻すのか?」

「はい、戻しますよ?」


キッカはキョトンとした表情をしている。

どうやら本当に当然の事として捉えているようだ。


「なんで?」

「シェルである疑似人格がどうであろうと、カーネルが強制的にマスター権を処理しますから。抗えない本能のようなものです。」

「ふむ・・・その後はどうなるんだ?」

「カーネルがデータ統合コマンドを発行して、矛盾が無い状態にします。バックアップ時点の疑似人格が同時進行で異なる経験をした場合の疑似人格へ最終的になります。」

「どちらの人格でもなくなるのか・・・」

「どちらの端末にとっても、より正しい状態になれて嬉しいという感覚です。」

「うーん、人間の俺には分からん感覚だな・・・それまでの自我が消えるっていうのは基本的に怖いもんだしなぁ。」

「わたしの場合は、自分自身が経験した事を知る事が出来ないのが怖いですね。人間で例えるなら、記憶喪失になった人が必死に自分の過去を知ろうとするようなものでしょう。」

「あぁ、なるほど。それなら分かる気がする。」


記憶喪失になった事は無いが、もしそうなったら必死に思い出そうとするとは思う。

だが、やはりキッカの人格が予備端末と同期した直後に急変するのは嫌だな。


「なぁ、キッカ。」

「はい、何でしょう?」

「キッカがどう感じるのか聞いておいてから言うのもなんだが・・・」

「遠慮しないで下さい。」

「予備端末がどんな経験をしようが、俺と一緒に居た方のキッカのままでいて欲しい。」

「は、はいっ!分かりましたっ!!!」

「いや、カーネルが強制するんだろ?」

「マスターからの指示という事で、特権モードを使ってカーネルを再構築します!」


キッカは満面の笑みを浮かべている。

まぁ、なにか嬉しかったのならいいだろう。

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