第108話 史実-05

コウもだいぶモノになって来たな。

魔法を使わなければ、そろそろ俺も負け越しそうなくらいだ。

今回の任務もきっと軽くこなして来るだろう。


『おい、光庵!大変だ!』

『いきなりどうしたんだ、叔父貴?』


通信魔法でいきなり話し掛けて来たのは、事前にグンマー国に派遣されていた先代の特務九課課長だ。

ちなみに、九課の主な任務は他の課の支援全般だ。


『奴ら、神気を纏っていやがる。おまけに神の波動もダダ洩れだ。』

『なんだって・・・分かった、俺はすぐ神器にお伺いを立てる。叔父貴はそのまま見張っていてくれ。』

『分かった、動きが有ったらすぐ連絡する。以上。』


まさか、奴らも神の眷属なのか?

いや、俺が考えても分かる訳がないな。

取り敢えずコウを足止めしておくか。


「もしもし、キューさんか?」

「おぉ、局長か。どうしたんじゃ?」

「そろそろコウがそっちに行くと思うんだが、足止めを頼む。」

「何やら事情がありそうじゃな。まぁ、儂としては願ったり叶ったりじゃ、試したい装備は色々あるからのう。コウはいつも大丈夫だ問題ないと言って断りよる・・・」

「一番いい装備を頼む。急いでるから切るぞ。」


とりあえず、コウの方はこれで何とかなるだろう。

次は神器へのお伺いだが、恐らく神の間に行かないとまずい。


『光輔、神の間に来い。』

『分かった。』


俺は常時設置型結界を解除し、隠し部屋へと入った。

神器への謁見には必ず持参する事になっているツムハを掴むと足元の穴へと飛び込んだ。

この穴は地下3kmで御所や儀処の里と繋がっている非常用通路の入口だ。

神代三家の拠点が確定した際に神が作って下さったものなので、活断層を横切っているが過去の大地震でもびくともしていない。


『緊急事態だ。二人とも神の間に来てくれ。』

『一体、どうしたんですか?』

『すぐに参りますが、どうされたのですか?』

『詳しい事は後で話すが、テロリストが神気を纏っているらしい。』

『まさか我らの他に眷属が?』

『ともかく、神器にお伝えしておきます。』

『あぁ、頼む。嫌な予感がしやがるから、皇子と継巫女も呼んでおいてくれ。』


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神気に神の波動、つまり魔法気配と共鳴波か。

間違いなく、覚醒した魔法使いが現れたという事だろう。

しかし、この星には覚醒に必要な強度の共鳴波が出せる者は他に居ない筈だ。

そこまでのレベルの魔法使いが居るのならば、世界各地で暗躍している特務課長の誰かが魔法気配を感じている筈だ。

となると、覚醒した理由は1つしか無い。

あの引きニートどもがわたしの忠告を聞かずに強引に置いて行った覚醒装置を誰かが使ったのだろう。


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「そやつらは恐らく、神が始まりの地に遺した聖遺物を悪用し神の力を目覚めさせたのであろう。偽神に帰依し我らに歯向かうとは愚かな事を・・・」

「コウが討伐する予定でしたが、いかが致しましょう?」

「それはいかん!直ちに神の間に来させよ!」

「は、ははっ!直ちに!」


共鳴波を遮断していない魔法使いと接触させて覚醒されては厄介だ。

戦闘経験も随分と積んでいるようだから、呼び出したついでに最近になってコンバートできた瞬間移動魔法をインストールしてからコールドスリープに放り込んでおく事にしよう。


「帝、勅命でコウを呼び戻してくれ。」

「えぇ、構いませんよ。」

「すまんな。今回は共同作戦だから局長命令だと他所から文句が出そうなんでな。」

「そういう事ですか。では地上に戻って発令してきます。」

「頼む。」


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光齎に瞬間移動理論をインストールし、後はコールドスリープ装置に放り込むだけとなった時、地上で大爆発が起きた。

どうやら敵対する魔法使いが攻撃を開始したらしい。

こいつらが何も言わなかったという事は、魔法気配の探知範囲外からの遠距離攻撃だろう。

しかし、MSの戦闘巡行速度を考えれば接触までの時間はわずかしか無い。

正確な敵戦力が分からない以上、このままでは光齎が覚醒してしまうリスクが高すぎる。

スメラ星の現状は分からないが、すぐに瞬間移動させる方が良かろう。

僻地での単独作戦に習熟しているなら死ぬことはあるまい。

問題は、15年後に瞬間移動の予定だったせいでまだエネルギー不足な点だ。


『今巫女よ。』

『ははっ!』

『これより光齎を神の国へと送り届ける。帝、皇子、継巫女に我へ力を注がせよ。山王光庵と光輔は神敵の討伐へと向かわせよ。光齎はその場に留まるように。今巫女も神託を告げ次第、我へ力を注げ。』

『承知致しました。』


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光齎の瞬間移動は問題無く終了した。

あれだけの戦力を送り届ける事が出来たのだから、わたしも閣下のお役に立てたと思っていいだろう。

そんな事を考えていると二人が戻って来た。

もうわたしの事を知っている者しか居ないのでスピーカーで話す事にする。


「ご苦労であった。」

「もったいなき御言葉にございます。」

「神敵はどうなったか?」

「神気の源を焼き切り、生かしたまま捕らえておりまする。」


どうやら魔法野にレーザーでも叩き込んだようだ。


「聖遺物はどうなったか?」

「申し訳ございません、壊れてしまいました。」

「それは構わぬ。ただ、あれは人には過ぎたる物ゆえ、全て回収し人目に付かぬところに隠しておくように。」

「ははっ!承知いたしました。」


洗脳していない者がMSを見れば、明らかにオーパーツだと分かってしまう。

そうなれば、その技術を求めて大規模な紛争が大国間で起きる可能性は低くない。

最終的にこの星がどうなろうと知った事では無いが、合流までのあと15年は平穏である方が好都合な事は間違いない。


「他の神敵はどうなっているか?」

「ははっ!地星各地にて大規模な破壊活動をしている模様であります。大国の要人や大宗教の指導者の殆どが殺害されています。」

「そうか。偽神の信徒の狼藉を見逃す訳にはいかぬな。」

「必ずや討滅してご覧に入れます!」

「ただし、神の力を公にしてはならぬ。何か良い策はあるか?」

「うっ・・・少し相談して参ります。」


相変わらず脳筋だな。

まぁ、光輔に相談するなら多少はマシな方法になるだろう。


「おい光輔、聞こえていたと思うが、なんかいいアイデアは無いか?」

「そうだな・・・機動スーツ・バンナムでも使うか?」

「は?」

「イベント用に実物大の模型があるだろ。今は展示されてないから、倉庫にしまってある筈だ。」

「いや、信じる奴いるのか?」

「ネットじゃ、日出国ならこっそり開発してる筈だって言われてるぜ?」

「そりゃジョークだろ・・・」

「9課に頑張ってもらえば誤魔化せるんじゃないか?」

「まぁ、すぐに偽装に使えそうなもんはそれくらいしかないか・・・」

「公式発表では新兵器とでもしておいて、詳細は軍事機密なので明かせないって線かな?」

「そんなとこだろうな。どうせ動画が出回るだろうから、荒唐無稽な方が却って都合がいいかもしれんな。」

「じゃあ、9課にはパロディも含めてバンナムコラージュ動画を大量に拡散してもらおう。」

「ま、細かい事は9課に任せりゃ上手くやってくれるだろ。」


下手な考え休むに似たりという事だな。

確かに9課に後始末を任せる方がいいだろう。


「お待たせしました。機動スーツ・バンナムという架空のロボットの実物大模型で偽装し討滅します。」

「分かった。くれぐれも神の力に勘付かれないように致せ。」

「ははっ!」


各国の被害状況から考えると当面は日出国の一強時代が続くと見て良かろう。

となれば、15年程度は他国から妙な横槍を入れられるリスクは低い筈だ。


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そして、鎮圧は無事に完了した。

どちらも低レベル魔法使いであるが、わずかに魔法レベルが高い上に戦闘魔法を直接使えるように訓練してきたプロと、MSへのエネルギー供給程度しかできない素人では勝負にならなかったようだ。

MSも全機回収し、落下したパーツ類も特務隊が全て回収してきたので騒動にはなるまい。


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それから15年の月日が流れ、監視カメラにいきなり二人の人影が映った。


あの人物は・・・光齎か?

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